マーライオンは自分の伝えたいことを真っすぐに歌える、実直で人懐っこくて多作なシンガーソングライターだ。いや、5年以上変わらぬペースでPodcastを更新し続けているおしゃべりに長けたエンターテイナーでもあり、常にアートワークやグッズにまで自身の好みやこだわりを追及するし、周囲の人を巻き込みながら企画やイベントを次々実現していくマルチアーティストの側面もある。
「にやにやして聴いてもらう」をテーマに2009年活動開始。今年15周年を迎えた彼のキャリアは、旺盛な創作意欲と行動力と、とにかく人を楽しませたいという気持ちによって積み重ねられたものだ。2024年5月に発表された6枚目のフルアルバム『ごきげん』は、今まで出会った人たちに支えられながら、バンドサウンドとしては初のセルフプロデュースで制作した作品。彼なりのど真ん中のポップスを目指した、総決算的作品であり、これから出会うリスナーに向けた入門盤でもある。
この機会にお届けするインタビューもアルバムにあわせて主題はマーライオン入門編とすることにした。15周年のキャリアを踏まえながら、アルバム以外にも三浦康嗣(□□□)参加の7インチリリース、東京・渋谷WWWでのワンマンライブに、HMV record shop渋谷2階でのジャケット / アートワーク展示『ごきげん展』開催と今年彼が仕掛けているモリモリのトピックスの狙いを聞いてみた。私も、彼の音楽と朗らかかつパッション溢れる人柄に巻き込まれた1人なのだ。
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マーライオンのこれまでをさくっと振り返り
ー15周年を迎えますが、これまでのキャリアを振り返って今のマーライオンは何段階目のフェーズだと思いますか?
マーライオン:第4期です。マーライオンという名前で活動を始めた16歳から、2011年に高校を卒業するまでが第1期。当時は今回のアルバムにも参加していただいたヒロヒサカトーさん(井乃頭蓄音団)をはじめ、atagiさん(Awecome City Club)や、クリープハイプの尾崎世界観さん、長谷川カオナシさんとか、後にどんどん売れていく方々とも出会って、とにかくたくさん刺激を受けていました。の子さん(神聖かまってちゃん)には2ndアルバム『日常』(2012年)の帯コメントも書いてもらったんです。音楽性としては、歌も楽器もヘタなまま、よくわからない衝動でとにかく叫んでいた時期でした。
ー当時からずっとマーライオンとしてやっていこうと考えていたんですか?
マーライオン:いや、考えていませんし、名前を変えたいと思ったことは何度もあります(笑)。でも高校を卒業しても続けようと思ったきっかけはあって、当時『SCHOOL OF LOCK!』(TOKYO FM)がやっていたオーディションの『閃光ライオット』に応募したんですよ。2次審査くらいで落ちちゃったんですけど、ラジオで曲が流れたんです。そのあとYahoo!知恵袋に「先月の何時何分に『SCHOOL OF LOCK!』でかかっていた曲が忘れられない。こういうことを歌っていてすごくよかったけど誰の曲かわからない」って内容が書いてあって、間違いなく僕の曲でした。1人でも刺さった人がいたんだと嬉しかったですね。
ーいい話ですね……。続く第2期はどんな期間でしょうか?
マーライオン:そんなこともあって覚悟を決めて音楽活動を始めた時期です。ライブ盤の『19才』(2013年)を作ったり、下北沢にあったColored Jam(現Music Bar rpm)で2か月に1度主催イベントを始めたり。このイベントには澤部渡さん(スカート)や、柴田聡子さんにも出演していただきました。
ー『19才』は今年4月にリマスターして再リリースしましたね。10代の粗削りなマーライオンのライブが収められていますが、このタイミングで改めて出そうと思ったのは何故ですか?
マーライオン:曽我部恵一さんが当時褒めてくれて共同レコ発イベントをやろうと誘ってくれたり、あそこから色んな人に聴いてもらって活動が広がった、実はすごく大事な作品なんです。だから15周年を機にまた聴いてもらいたいなと思いました。
ーその後2014年11月~2015年1月に『吐いたぶんだけ強くなる』『ボーイミーツガール』『マーtodaライtodaオォォォン!!!』と3か月連続のアルバムリリースもありました。
マーライオン:これも第2期という感覚です。考えられない速さで作っていましたね。tofubeatsさんが前年に1stアルバム『lost decade』(2013年)を大学の卒業制作みたいな感じで発表していたので、そこに習って僕も大学を卒業するタイミングで完成させました。
ーとんでもない創作意欲ですよね……。
マーライオン:その反動か、1~2年はスランプに陥って曲ができなくなってしまって……。
普段は仕事をしながら、音楽活動をやるという今のライフスタイルに入った2015年4月からが第3期です。その後なんとかスランプを抜け出して『ばらアイス』(2018年)が出来た。この頃からようやく「叫び」ではなくちゃんと音楽を作ろうという意識も出てきました。
ー私が初めてマーライオンの音楽に出会ったのもこの『ばらアイス』です。実直でかわいい曲を歌う人だなという印象でした。そして最新の第4期は?
マーライオン:2019年からコロナ禍を経て現在に至るまでです。音楽に限らず、自分に向いていることがわかってきたんですよね。まず今も続けているPodcast『マーライオンのにやにやRadio』を2019年5月に始めました。グッズに関わる仕事を始めたのもこの時期。自分が考える企画で人が喜んでくれることが好きだし、行動や成果も伴ってきて、水を得た魚のように仕事も励めるようになりました。
ーPodcastはこの取材日の時点で380回更新されていますが、向いていると思ったのはなぜですか?
マーライオン:16歳でライブを始めてからずっと、その場にいるお客さんを楽しませるぞっていう気合だけは人一倍強くて、MCで必死に喋っていました。だから1人喋りが自分を伝えられる一番得意な方法だったんですよね。また直後にコロナ禍でライブができない期間が来たので、その間もおしゃべりの力を衰えさせるわけにはいかない! という気持ちもありました。
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4年かけて完成したセルフプロデュースアルバム『ごきげん』
ーキャリアを総ざらいしていただきましたが、それらを経たこの15周年で発表するアルバム『ごきげん』にはどんなコンセプトがありましたか?
マーライオン:全曲シングル級といえるマーライオン初心者向けのアルバムを作りたいというのが発端です。今まではどこか真正面から向き合うことを避けてきた、ポップスど真ん中をちゃんとやりたかった。
ーマーライオンにとっての「ポップスど真ん中」ってどんなものを指しています?
マーライオン:松たか子さん、キョンキョンさん(小泉今日子)……。あと僕、小さい頃『ポンキッキーズ』(フジテレビ系列)が大好きだったんですよ。あの番組内でかかっていた曲が収録されたコンピ(『ポンキッキーズ・メロディ』)が家でもよく流れていて。斉藤和義“歩いて帰ろう”、電気グルーヴ“ポポ”とか、よくわかんないけどなんだか楽しくて繰り返し聴いていたあの感覚が、僕の目指すポップスかもしれません。
ー全曲シングル級とのことですが、実際ここ数年配信で発表してきた曲を一挙にまとめた内容ですね。中でも“花言葉“が一番古く、2018年1月のリリース。
マーライオン:ここ数年はできたものから配信していました。今まで予算や締め切り、実力の足りなさもあって、後からもっとこだわれたと思う部分もあったんですけど、今回は絶対に後悔したくなかった。時間とお金を妥協せずに費やして1曲ずつ仕上げていたので、結果作り始めてから4年近くかかっちゃいました。
ー主にどんな部分に時間がかかりましたか?
マーライオン:実はバンドサウンドのフルアルバムをセルフプロデュースしたのが初めてだったんですよ。『吐いたぶんだけ強くなる』は三沢洋紀さん(LABCRY)、『ボーイ・ミーツ・ガール』は佐藤優介さん(カメラ=万年筆)にお願いした作品でした。今回は自分で全部こだわり抜いた分、作るのが大変で。
ー演奏としてはGUIROの厚海義朗さん(Ba)、石川浩輝さん(Dr)、Miss Heavenlyさん(Cho)、荒谷響さん(Tp)、谷口雄さん(Key)を中心としたバンドサウンドで統一されていますね。そこに加えて“海へ海へ海へ”ではMC.sirafuさんのスティールパンや松井泉さんのパーカッション、“雨雲と晴れのあいだ”では和泉眞生さんのバンジョーも加わってバラエティに富んでいます。
マーライオン:今までは僕の音楽知識が少なくて、譜面も書けないから、とことん付き合ってくれて、弾き語りを聴いてもらうだけで全て察してくれる凄腕のミュージシャンとしか一緒に出来なかったんです。でもバンドではなくソロアーティストなので、せっかくなら色んな人と一緒にやりたいじゃないですか。だから2020年からフルート奏者の松村拓海さんに音楽理論のオンラインレッスンをしてもらって、ちょっとずつですけど、曲に合った人にオファーできるようになったんです。
マーライオン:だから今、僕のバンド編成は2軸あって、レコーディングメンバーの他に、最近のライブはベースがオオツカくん(ステレオガール)、ドラムはカラキさん(Superyou)という編成が増えています。6月に東京・渋谷のWWWでやるワンマンも後者の布陣で臨みます。
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まさかthe band apartのスタジオを借りることになるなんて
ー歌においても軽くて優しさが滲む声にすごく成長を感じましたが、意識したことはありますか?
マーライオン:歌は三浦康嗣さん(□□□)からの影響が大きいですね。ここ数年は月に4~5回夕飯にお邪魔させていただきながら、音楽の作り方を教わったり、新曲を聴いてもらったりしていました。指摘を受けながら何度も歌は録り直したし、詞についてもフィードバックをもらいましたね。
ー具体的にはどんなフィードバックをもらったんですか?
マーライオン:三浦さんは色んなアーティストのプロデュースや楽曲提供もしているので、人にはそれぞれ向いている発音や単語があるから、そこも意識しながら詞を書かないといけないよと言われたことがあって。自分なりに考えながら書くようになったんですが”春を待ちわびて”を聴いてもらった時に「“春”はマーライオンに合っている」と言ってもらえたのは嬉しかった。だから今回のアルバムには“春”の歌が多いです。
ー三浦さんは6月にリリースされる7インチシングル『海へ海へ海へ/海へ海へ海へ-三浦康嗣(□□□)Remix-』にも参加されていますね。
マーライオン:リミックスという形ですが、ほぼ共作です。マンツーマンでアレンジの作業をしてくれて、とても勉強になりました。
ーちなみに今回の作品に関わった人としてthe band apartがスペシャルサンクスにクレジットされていますが、どんな繋がりがあるのでしょうか?
マーライオン:アルバムのレコーディングの日、確保していたスタジオのダブルブッキングが発覚したんです。直前だったのでかなり困って三浦さんに相談したら、the band apartのプライベートスタジオAG studioを使えるらしいと繋いでもらえて。バンアパは学生時代から聴いていましたけど、まさかこんな形で接点ができるなんて……。所有している機材を惜しみなく使わせてもらったり、手厚くサポートしていただいて“春を待ちわびて”“おばけトンネル”“海へ海へ海へ”の3曲を無事録音することができたので、恩人です。
ーアルバムのミックス / マスタリングは中村文俊さんが担当されています。
マーライオン:中村さんは僕が大好きな空気公団のほとんどの作品を手がけているので、サニーデイ・サービスの曽我部さん、田中貴さん経由でご紹介いただきました。本当に色んな人の協力があって出来ています。