INDEX
人をいかに巻き込むか。公民館や公園での実践
—お2人とも、コロナ禍に身近な環境への視線が変わった点が共通していますね。
岸野:そうですね。あと、これは多くの人が意識したと思うのですが、実際にフィジカルに多くの人が集まるというのは、何にせよ尊いなと気づきましたよね。現場ならではの化学反応が起こる。それは当たり前のことすぎて、一度失ってみないとわからなかった。これは、コロナ渦を経て良かったことのひとつです。ネット上でああだこうだ言い合っていても、何も進まないのが、実際に対面するとおおよその落とし所が見えてくる。これはネット上では時間的なデッドラインが無制限で、いくらでも主張を続けられるのに対して、フィジカルでは「あと1時間で帰るので、そろそろ落とし所を見つけるか」といった意識が働くからなのではないか、と思います。
出口:その意味で言うと、さきほどのホールのリトル東京的な使い方も、当然あっていいわけですよね。やっぱりホールには刺激的なもの、心が湧き立つもの、最先端のものを観にくるという側面がある。
思い出深かったのが、熊本の八代のキャバレーで坂本慎太郎がライブをやったときのことで。FRUEの人たちが主催で、会場整理のお手伝いで入ったんですけど、地方でもこんなにキレッキレな表現が観れて、それに地元の人が喜んでるって光景を目にしたときに、やっぱりこういうのが地域に必要だなと思いました。やっている側としても楽しいですしね。そして、それが「ハレとケ」のハレの場だとしたら、いっぽうのケの方にもより意識が向かうようになってきた。
岸野:わかります。僕もケの充実に力を入れてきました。イベントを開催するのって、言うなれば打ち上げ花火なんですが、それよりも日常的な風景を大事にしたかった。具体的には、公園の居心地というものを大事にしようと思ったんです。屋外の広い公園なら、コロナ渦でも人的な密集度は大丈夫だろうという思いもあり、「イベント」ではなく、個人的に公園にDJセットを持っていって、音を鳴らしていました。もちろん占有許可を申請してですが。

—それはすごいですね(笑)。
岸野:最初は、ただ机とターンテーブル、ミキサー、スピーカーを持っていって、プレイしていたんです。でも、これだと人は近寄りがたい。ただの趣味の人ですよ。そこで「閲覧自由」という看板を立てて、スケルトンのテントのようなものを周りに立ててやっていたら、すごくウェルカム感が出たんですね。その結果、声をかけてくれる人や、またやってほしいから機材を運ぶのを手伝うとまで言ってくれる人も現れました。
この経験は、「パブリック」ということについて考えるきっかけになりました。公共の空間でやっていたとしても、当人からは意識に上らない、「見えない敷居」は意外と強くあるんだな、と。そこに何も仕掛けがなければ、人は「変な人がいる」とか「自分と関係ないサークルだ」と感じてしまう。そのハードルを無くしていって、誰もが参加できますよ、みなさん見てください、聞いてくださいというふうにするにはどんな仕掛けが必要か。それを学ぶ時間でもあったんです。
さらに、そこから発想すると、いわゆる地域振興で効果を生み出すためには、「いかにコミュニティを作らないか」が大事ではないか、とも思いました。内側があるということは外側があるということなので、「内側があるように見えないようにする工夫」が必要。スケルトンのテントもそうですね。幕を張らない、ロープで仕切らないなどがポイントだと思います。


—半開きの状態というか、緩く閉じてはいるけど、完全には分かれてはいない。
岸野:そう。内と外の分け隔てがないことをスケルトンで示して見せていて。そんな風に身近な地域での実践を通して、これまで見えてなかったことがだいぶ見えるようになってきた。

出口:僕も人をいかに巻き込むかということの実験をしてきました。というのも、公民館の抱える問題には、高齢化と利用者の固定化という2つがあると言われているからです。
そこで、自分と同じ40代半ばくらいの世代が来られる公民館を作ろうと、まずは普段から自分が通っているご飯屋さんやお花屋さんに公民館講座の講師をお願いしました。ちょうど初冬だったので、講座のラインナップには、お花屋さんとのモダンしめ縄づくりや、お蕎麦屋さんとの年越し蕎麦づくり、独立系書店の店長さんとの冬をテーマにしたブックトーク、長崎県金融広報アドバイザーによる子ども向けの「お年玉から考えるお金のはなし」トーク、地元のアーティストによるホールの照明機材を使った光のワークショップなど、幅広い内容を揃えました。そしてそれを、運営している3つの施設共通の広報誌『Drie』に「北公民館の冬じたく」というオムニバス講座として掲載。近隣の小学校にわっと撒いたんです。

出口:いくらネット時代と言えど、子どもが学校でもらったチラシってリーチ率100%で親に届くんですよね。それで、子育て中の40代の人たちがたくさん来てくれるようになって。来てみたら、さっきの話で、意外と公民館にはいろいろ揃っていると気づくわけです。
—公民館を知ってもらう第一歩になったんですね。長崎市北公民館は、そうした一連の親しみやすい講座の開催や、その広報誌やインターネットを利用した広報活動などが評価されて、2022年に文部科学省の第75回優良公民館表彰の「優秀館」にも選ばれました。
出口:嬉しかったですね。本当にできることがたくさんあると思っていて。
あと、その講座について思っていたのは、利用者だけでなく講師の人も新しい世代にしていきたいということでした。公民館の高齢化と固定化という問題は、裏を返せば、余暇の時間が増え、公民館が活況を呈した高度経済成長期の頃のコミュニティがいまも続いているということです。その頃の先生と教え子が一緒に歳を重ねている。それはそれでもちろん素晴らしいんだけど、次の世代との関係も作らないといけないと考えているんです。
