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掴みきれないランティモスの頭の中。描かれてるのは「優しさ」?
さて、この3章からなるこのオムニバス、映画のエッセンスをダイレクトに表した邦題の『憐れみの3章』とは対照的に、原題は『KINDS OF KINDNESS』という。え? まさか、優しさ(KINDNESS)の種類(KINDS)を描いた作品でしたか? ラストのクレジットを眺めながら、まったくヨルゴス・ランティモスの頭の中は、何度アクセスしても杳としてつかめない、またもや、やられたという笑いがこみあげてくる。
しかしながら、『憐れみの3章』を見終わったとき、狐につままれるような思いをしても、大丈夫。なぜなら、主要人物のウィレム・デフォーもジェシー・プレモンスも撮影前に、今作はカミュの小説『カリギュラ』にインスパイアされて作ったとランティモスから説明を受けて、撮影のために読んだところ、それが何かしらの役に立ったかというとそうではなく、プレモンスに至ってはその情報は自分にとってはゼロだったとニューヨークタイムズの取材で答えているのだから。
『カリギュラ』は、カミュの書いた不条理三部作のひとつで、ギリシャからイギリス、アメリカへと創作の場を拡大させてきたランティモスもまた、ギリシャ神話に通底する不条理劇を扱ってきた映画監督である。ランティモスは「優しさ」が人間関係にどのように相互作用し、時にはマニピュレート(操作的)な形を取ることがあるかをこの作品で示唆する。