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2Dと3Dを行き来する、怒涛のクライマックス

そして本展のクライマックスと言える第10章では、広い展示室いっぱいに大型のカンヴァス、さらに立体作品が待ち受けている。まるで、ご陽気な地獄といった趣だ。近年の田名網のアーティストブック(2017年)の題名でもある章タイトル「貘の札(ばくのふだ)」という言葉は、作家の作品世界を理解し、この展覧会を総括するための重要な鍵である。
解説パネルによれば「貘の札」とは「枕の下に敷いて寝ることで縁起の良い夢を願うという札」「魔除けの護符」のことだそう(バクが悪夢を食うというのはなんとなく馴染みのある感覚である)。田名網敬一にとって自身の作品は、まさしく「貘の札」であり、恐怖や負の感情を払拭するためのお守りなのである。

なるほど、目玉、骸骨、性器、蜘蛛に炎……作家の中から溢れ出してきたモチーフはみんな、偏執的で滑稽であると同時に、直視ギリギリレベルでグロテスクである。何もかもを幼少期の戦争体験に帰結させるのは乱暴かもしれないけれど、脳内にこんなにも豊かな怪物を渦巻かせているなんて、そこに刻み込まれた恐怖は察するに余りある。だからこそ、作家は自己の中でパンパンに膨張した記憶のイメージを噴出させる。そしてそれらを、衛兵や番犬のように周りにはべらせるのだ。
