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忘れがたい過去を抱えて現在を生きていくことの肯定

第7話のエンドロールにおける、七実の祖母・芳子(美保純)が月に向かって歌うピンキーとキラーズ“恋の季節”は、切なくも美しかった。本作の興味深いところは、生者と死者、過去と現在の間を自由自在に飛び回るところだが、その効力は終盤にこそ真価を発揮したと言えるかもしれない。芳子の若い頃から今に至るまでを知っている近所の人たちとのやりとりと、苦労の多かった若き日の回想、そして、現在の彼女の姿が並行して描かれる第8話は、たった1話に芳子の人生を凝縮し、照らしてみせた。何より、認知症のために、孫の七実を、娘のひとみと間違えたまま話す芳子の姿を、こうも愛おしく描けるのは、本作が、登場人物が忘れがたい過去を抱えて(時に、その幻影とともに)現在を生きていくことを肯定的に描いてきたからだろう。
だから、第3話のエンドロールで「昔もええ、今もええ。一生懸命食べて、一生懸命生きてれば、それでええ」と言っている芳子が、時折、七実をひとみ(坂井真紀)に、孫の草太(吉田葵)を義理の息子の耕助(錦戸亮)に見誤りながら、過去と現在の中間ぐらいで生きていることを「日々進化中」として受け入れることができるのである。老いによって変わりゆくものと、それでも変わらないもの。食べ物に纏わる芳子の台詞の数々の温かさは、若き日から今に至るまで、ずっと変わらない。