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不安を感じた実体験から生まれた“転校生”と、その複雑性が反映されたミュージックビデオ
ー今回山戸さんは三部作として3曲のMVを作られたわけですが、全体のイメージがあったのか、それぞれ個別で作ったのか、どちらが近いですか?
山戸:「三つの物語は同じ世界線で起こっている」という想定で脚本を書いていました。探していただくと、実は全く同じ人物や楽器、道具も登場しているんですよ。
廻花:え! そうなんだ!
山戸:目を凝らして見てみると、「あっ!」っと気づいていただけると思います! これは裏側の設定となっていますが、この物語において登場人物たちは、いつか辛いとき、歌によって繋がる可能性のある人物たちで、それも物語の一部として描いていました。廻花さんの歌に、それぞれ本当に運命的に出会うのだろうなと、それを劇中に明示するのかはすごく悩んだのですが、結果的に、表には描きませんでした。それでもやっぱり、いつか出会うのだろうなと今も思っています。
ー最初にMVが公開された“転校生”はいつ頃どういうきっかけで書いた曲なのでしょうか?


廻花:高校生のときに書きました。私は小学2年生のときに転校したんですけど、そのときのことを思い出して。
山戸:実体験がもとになっているんですね。
廻花:そうなんです。震災の影響で、4月に転校するはずがちょっと微妙な時期になっちゃったんですよ。転校したのはみんなが顔見知りのような小さな学校で、学年全員の前で自己紹介をさせられて、雨が降っていて、みんなから見られて、嫌ではなかったけど、すごくざわざわして、「大丈夫かな?」と思ったのを覚えていて。そこから友達ができたり、教室や自分の席がわかるまでの間の不安とか、「浮いてるかも」みたいな気持ちが歌詞には表れていると思います。
山戸:“転校生”はすごく面白い曲ですよね。テンプレートな構成を踏襲せずに、<火付けの鼓動 ドドドン ドドドン>など世界観を飛び越えるような歌詞も面白いし、一つの歌という渦に巻き込まれていくような曲で、1人の少女の原体験に回帰していくような体験をもたらしてくれるなって。
シンガーソングライターのフォーマットに乗せるというより、まだ見たことのない景色を歌によって立ち上げようとする人の構成のあり方で、そこにオリジナリティがあって、だからこそ、映像の構成もまた必然的に複雑な描出になるだろうという予感がありました。曲がもたらしてくれる複雑さや転倒を引き継いで、記憶が大胆に錯乱してゆく時間感覚を目指して、ミュージックビデオでは、転校する前後、髪を切る前後の時系列が入り混じって映されています。
ー廻花さんは実際の映像を見て、どのシーンが印象的でしたか?
廻花:最初の少女が走り出すところで、「まさにこれは“転校生”のMVだ!」と感じました。一番印象に残っているのは体育館で、バスケをしている女の子を、体育館のステージにいるもう1人の女の子が見ているシーン。全然違うことをしてるのに同じ空間にいて、ステージという特等席から女の子を見てるのが印象的で。

山戸:確かに、ステージは本来まなざされる側なのに、逆転してますね。
廻花:それがすごくいいなと思いました。あとは女の子が髪を切るところ、あれはどういう気持ちだったんだろうなって。思いを馳せていたであろう女の子に、自分が近づきたいと思って髪を切ったのか、もしくは、叶わないと思ってるからせめて見える形で意思表示をしたかったのかなとか、いろいろ考えました。女の子が髪を切るって、ドキッとするじゃないですか。

山戸:イニシエーション、儀式みたいな感じですよね。
廻花:自分の書いた歌詞が、1人では想像できなかった方向の物語と繋がるのは初めてのことで。今までの花譜としてのMVは、花譜と歌の物語が一緒になるものが多かったけど、廻花は自分の曲だけど自分が出てこないから、それがすごく新鮮でした。
山戸:廻花さんのお話を聞きながら、髪を切るというイニシエーション、生まれ直し感は、花譜さんが廻花さんに生まれ直すという岐路の季節、きっとそこからインスピレーションを得てるんだなと思いましたね。