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五十嵐耕平×太田達成 システムが取りこぼしてしまう偶然性を、拾い上げる映画作り

2024.9.5

#MOVIE

気心の知れた人たちとの関係が、映画に偶然を呼び込む

―今回、どちらの作品にも大川景子さんが編集者として参加されていますね。

五十嵐:僕も太田君も大川さんも「こども映画教室」(小中高生向けに映画に関するワークショップや、国際シンポジウムの企画などを行う一般社団法人)に講師として参加しているので、そのつながりが大きいのかも。大川さんは三宅(唱)君の映画でも編集をやっているし、すごく近しいところにいらっしゃる編集者、という印象です。

―編集作業は、実際にどのように行われたんですか?

太田:『石がある』の場合は本当に大川さんにおまかせした部分が大きかったと思っています。たまに作業を見に行っては3時間くらいお茶して、つないだものを通しでじっと見て、あれやこれや話して、またご飯食べて帰る、みたいな感じでした。たぶんお茶してる時間のほうが長かったです(笑)。

五十嵐:『SUPER HAPPY FOREVER』では、最初に素材を全部大川さんに渡して、ある程度形を作ってもらったあとに、僕とダミアン(・マニヴェル)が編集して、最後は僕が1人でやって、という感じでやっていました。その都度、大川さんに見てもらいつつ。

―五十嵐さんとダミアン・マニヴェルさんは、『泳ぎすぎた夜』で共同監督をされていますよね。そういう監督同士のつながりのようなものが、特に最近、日本映画において活発になってきているように見えるのですが、どうでしょうか。たとえば『SUPER HAPPY FOREVER』に太田さんが助監督として参加されているように、『石がある』では清原惟さんが助監督を務めていて、清原さんが監督した『すべての夜を思いだす』(2022年)では太田さんがスタッフとして参加しています。

五十嵐:僕が学生だった15年くらい前と比べると、たしかに映画を作る環境は大きく変化したように思います。たぶんですけど、みんな、自分は「監督」だから自分の作品だけを作っていくんだ、とは考えていないのかもしれない。それは僕も同じで、監督として自分の映画を作ることもあれば、スタッフとして他の映画に参加することもある。経済的な理由か、制作環境の変化なのか、とにかくそうしていかないと、自分たちが望んでいるような方法で映画を作っていけない。そういうことを無意識的にか意識的にかみんな考えてるんじゃないですかね。

太田:僕の場合は、単純に気の合う人と映画を撮りたいって願望があるんですね。だから気の合う誰かが映画を撮るって言って、それがおもしろそうだったら手伝うし、自分の映画を作るときはみんなに手伝ってほしい。本当にそれくらいの温度感でやっています。

―そのときそのときで、お互いにやれることをやって一緒に作っていく、という感じでしょうか。

太田:作品がまずあって、それをおもしろくするためにどう自分がコミットするかってことなのかな。「石拾いの体験をどう映画に落とし込むか」っていう企画はたぶん他の人がやらないから、僕がやるしかないかと。それをわかってくれる人に声をかけて、映画が動き出すという感じでしょうか。

あとは、やっぱり気心が知れた人と作るほうが楽しいなあとは思う。ちょうど一昨日くらいに、自転車で信号待ちをしていたら、道の反対側に白バイが止まっていて、自分は違反とか何もしてないんですけど、体が勝手にこわばってしまって。ああ僕はこういう体のときには良いアイデアや意見を言えないなって実感したんですよね。だから映画を作るときも、一緒にいて体が萎縮しない人とやりたいなと改めて思いました(笑)。

―映画作りの現場と言えば、プロフェッショナルな方々が集まって、緊張感ある関係性の中で行われるイメージがありますが、仲間とのコミュニティーの延長線上にある映画作り、みたいな形が理想なんでしょうか。

五十嵐:でも気心知れた人たちと一緒に映画を作るって、いいこともあるぶん、リスクもあると思う。仕事としてやるなら、途中でうまくいかなくなっても「この人とは今後はもう仕事しない」で終われるけど、友人同士でやっていたら、人間関係やそれぞれの人生まで壊れてしまうわけで。それは怖いなと思う。

太田:だからこそ、気心の知れた人たちと作っていきたいという面もあるかもしれない。仕事だけで切り捨てられない関係ってことは、作品に関わること以外でも関係性があるわけで。作品に向き合わない時間の中で見えてくるものや感じるものって絶対にあるし、作品に集中しすぎると見過ごしてしまう何かもある。僕はそういうものを大切にしていきたいんです。

五十嵐:それは確かにそうだね。

―さきほどの「フィクションに穴を開ける偶然性」とも通じるお話ですね。五十嵐さんは、今回のスタッフや俳優との関係性を振り返ってみていかがですか?

五十嵐:今回に限らず、僕は「チーム」として作っているという感覚が強いです。映画って、参加している人たちそれぞれの感情や経験、抱えている思いを分け合いながら作っていて、それが一番おもしろいところでもある。全員がちょっとずつリスクを負って、自分の中の何かを映画のために明け渡しながら1本の作品を作っている、という感じじゃないかなと思います。

―チームといっても、その作品1回限りのってことですよね。

五十嵐:そうですね。以前冬の弘前でずっと共同生活しながら『泳ぎすぎた夜』を撮ったときも、終わったあとは「2回目はないよね」と思いました。その関係や経験が嫌だったとかではなくて、これはやりきったから、もう一度同じことをやることはないよね、と。それはあのとき関わったみんながそう感じてると思う。『SUPER HAPPY FOREVER』だって、またやるかと言われたら「真夏にあそこでまた撮影するのはちょっと……」となるだろうし(笑)。

太田:そこは、僕も五十嵐さんに近いかもしれない。次に作るときも同じようなメンバーでやるかもしれないけど、再始動っていうより、作品がまずあって、その作品が求める流れに自分も自然と乗るだろうなって感じですね。

『石がある』

2024年9月6日(金)公開
日本 / 2022 / 104 分 / カラー スタンダード / 5.1ch / DCP
監督・脚本:太田達成
出演:小川あん、加納土
稲垣創太、稲垣裕太、秀、瀬戸山晃輔、山下光琉
五頭岳夫、チャコ
プロデューサー:田中佐知彦、木村孔太郎
撮影:深谷祐次|録音:坂元就|整音:黄永昌|編集:大川景子|制作:遠山浩司|演出助手:中島光|撮影助手:安楽涼|コンポジット:片山享
|助監督:清原惟|スチル:柴崎まどか|音楽:王舟
製作・配給:inasato|制作協力:Ippo|配給協力:NOBO、肌蹴る光線|ビジュアルデザイン:脇田あすか|サイト制作:浅倉奏|宣伝:井戸沼紀美
|宣伝協力:プンクテ
特別協賛:株式会社コンパス|協賛:NiEW
コピーライト:©inasato
https://ishi-ga-aru.jp

『SUPER HAPPY FOREVER』

2024年9月27日(金)公開
⽇本=フランス / 2024年 / 94分
監督:五十嵐耕平
出演:佐野弘樹、宮田佳典、山本奈衣瑠、ホアン・ヌ・クイン、笠島智、海沼未羽、⾜立智充、影山祐⼦、矢嶋俊作
脚本:五十嵐耕平、久保寺晃一|音楽:櫻木大悟(D.A.N.)|プロデューサー:大木真琴、江本優作|共同プロデューサー:マルタン・ベルティエ、ダミアン・マニヴェル|ラインプロデューサー:上田真之|撮影:髙橋航|編集:大川景子、五十嵐耕平、ダミアン・マニヴェル
配給:コピアポア・フィルム
コピーライト:©2024 NOBO/MLD Films/Incline/High Endz
https://shf2024.com

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