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五十嵐耕平×太田達成 システムが取りこぼしてしまう偶然性を、拾い上げる映画作り

2024.9.5

#MOVIE

そこにあるものを信じて、ノンフィクションの空間をフィクションに取り込む

―脚本をどう書くか、場所をどう見つけるか、といった映画作りについての具体的な話は、普段されたりしますか?

五十嵐:そういう話はしたことがないと思う。一緒に歩きながら、何かの光景を見て「こういうのおもしろいよね」「あそこいいね」と言い合ったりするだけ。ロケハンの途中で寄ったお店の店員さんを見て「あの人のあの感じいいよね」とか。

太田:映画をどう作るかより、具体的な場所を見てなんとなく同意し合うって感じですよね。

―『石がある』のあの川はどうやって見つけたんですか?

太田:みんなで撮影場所を探したときに、一番歩きがいのあった川を選びました。撮影ではその川を実際に歩いて、今日はここまで来たから明日はここからあそこまで歩こう、って感じで、移動した道のりをそのまま撮りました。だから、プロットも全部、あの場所から生まれたと言えるかも。

主人公と川辺を歩く男性を演じた加納土 / 『石がある』場面写真 ©️inasato

―『SUPER HAPPY FOREVER』の舞台は「伊豆のとあるリゾート地」となっていますが、実際には伊豆や熱海のいろいろな場所で撮影されたそうですね。

五十嵐:はい。僕は場所が決まらないとプロットや脚本が確定できないので「ここにします」と決めて、そこから具体的なシーンを考えたり、実際の場所に合わせて場面をちょっと変更しようとか、そんな具合で脚本を書いていきました。

太田:話に合わせて無理に撮影場所を準備しようとすると、フィクションのレベルを上げなきゃいけないし、撮り方が大変になってしまうんですよね。

五十嵐:単純にめんどくさいというか創造的にならないよね。たとえば、実際には別々の場所にある廊下と部屋を同じホテルとして見せようとなると、背景に映る景色や角度がずれないように計算して撮らないといけない。そういうことに時間を使うよりも、もっと可能性のあることを考えて撮っていきたいとは思う。

もちろん同じ場所でも工夫をしないと撮れないことはあって、そういうときに太田君と話すのは楽なんです。そもそも空間に対する考え方が共有されているから、「ここはこう撮るしかないよね」とすぐに同意し合える。

太田:基本的に、そこにあるものをまず信じる、みたいな考え方が僕たちの中では共有されてるんでしょうね。場所でも人でも、なるべくそこにあるものを信じてやりたい。

『SUPER HAPPY FOREVER』は伊豆半島で撮影された / 『SUPER HAPPY FOREVER』場面写真©2024 NOBO/MLD Films/Incline/High Endz

太田:今の話で言うと、『SUPER HAPPY FOREVER』は背景が贅沢な映画だと思っています。俳優たちの後ろに、実際にそこに偶然居合わせた人たちや、海とか街がちゃんと映っている映画。

そういえば、現場でも五十嵐さんは背景に映るものを一番優先していましたよね。遠くに少年が走っているのを慌てて撮ろうとしたり。今回は今まで以上に、アンコントロールな背景が入ってきたように思うんですが、それって意識的にやったことなんですか?

五十嵐:劇映画というのは物語の設定自体がフィクションであろうと、画面に映っているのは現実に起きたことで、だからその現実は確実にこっち(フィクション)側に侵食してくるって感覚はすごくある。現実が映り込みすぎると、ときにフィクションとして成立すべきものに大きな穴を開けてしまう。でも僕はむしろ穴が開きまくってるほうが気持ちがいい。それこそが、現実とフィクションの間に何かが立ち上がる瞬間じゃないかと思うから。そうやって穴を開けていくものが、今回は、伊豆や熱海の海や街だったり、そこにいる人たちだったりしたのかもしれないですね。

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