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惚てってるズの稽古場取材。金子大地×前原瑞樹×三村和敬の青春はここから

2025.4.17

#STAGE

「なんか面白いことやろうよ!」。そう言って、儚く消えていった計画がこの世界にはいくつあるのだろう。仕事の事情や体力の問題、スケジュール、人間関係の難しさ。日々の生活を送りながら光り輝く船に乗り込むには、あまりに多くのミッションが私たちを待ち受けている。だから計画は実行されないのが前提だ。……そう思っていた。「惚てってるズ」を知るまでは。

映画『ナミビアの砂漠』での好演も記憶に新しい金子大地、連続テレビ小説『舞いあがれ!』や『らんまん』などで代えの効かない印象を残してきた前原瑞樹、子役時代から北野武作品などでキャリアを積み、昨年には主演映画が公開されるなどますますの期待が高まる三村和敬。3人は、数年前に誰に指図されるでもなくユニット「惚てってるズ」を立ち上げ、2024年4月に旗揚げ公演を成功してみせた。

それぞれに華々しい活躍を続ける彼らは、各々の仕事と並行して自主プロジェクトを遂行するだけでなく、稽古が終わった後も深夜までファミレスで語らい、エモーショナルな時を過ごしているというから驚きだ。幾ばくかの不安を抱えながらも、至って真剣に「面白いこと」を希求し、その在り方を模索する彼らと話しているうちに、胸を満たしていた諦めの気持ちが爽やかに吹き払われた気がした。

ヤンキードラマで意気投合、ダメ出しもし合える仲に

ー皆さんの交流はいつから始まったんですか?

前原:(金子)大地くんと三村(和敬)くんはもともと同じ事務所にいて、10代の頃からすごく仲良しで。3人での交流が始まったのは、『湘南純愛組!』(2020年)というヤンキードラマがきっかけでした。共演して、すぐに仲良くなって。

惚てってるズ(ほてってるず) / 左から前原瑞樹、三村和敬、金子大地
2021年未明に結成、2024年4月に旗揚げ。俳優の金子大地、前原瑞樹、三村和敬から成る俳優ユニット。

金子:現場でも3人でいることが多かったです。泊まり込みの撮影の時も、3人でお風呂に入ったり、僕の部屋に集まったりして。

前原:三村くんも本来、撮影終わりで帰らないといけないのに、急にマネージャーさんに電話して「今日は大地の部屋に泊まりまーす!」って言ってたよね。

三村:そうそう。

前原:泊まってたホテルの目の前の海に3人で入ったこともあったし。

金子:青春だったね。

ー少し伺っただけでも当時の盛り上がりが伝わってきます。同じ現場で出会われたということですが、他2人の演技に対しては、どんな印象を抱いていましたか。

前原:金子くんは出会った時から、テレビで活躍しているのを見ていた俳優だし、もちろんお芝居がうまいな、という印象もあったんですけど。その上で人柄にすごく惹かれた部分がありました。例えば当時観ていた『腐女子、うっかりゲイに告る。』(2019年)での演技は繊細な印象だったけど、実際に大地くんに会ったら、こんな大胆な人なんだ、って。そのズレが僕の中で面白くて。

三村くんは本当に、シンプルに芝居上手(笑)。めちゃくちゃ上手いな、って思います。三村くんが持ってるものって、頑張れば手に入れられそうなのに、手に入らなくて。

三村:僕から見た前原さんは、本当に裏表がない印象です。普段しゃべっている時と、舞台上の感じが全然変わらない。それが、すっごく嬉しくなるんですよね。大地は本当にエネルギーがすごい。稽古場でやっている演技から、舞台上で一気にサイズが大きくなるのが面白いなと思います。

俳優同士だとよく、相手がいい芝居をしていることに対して嫉妬することがあると思うんです。でも僕は2人に対して、それが全然なくて。同じ役で競うことがないからかもしれないですけど、2人ともお芝居上手だな、と思うし、すごく尊敬しています。活躍を見るのがすごく嬉しいし。

金子:僕も大前提として、2人のことを本気でリスペクトしてます。自分が一番面白いと思う役者さん2人です。

前原:でも、2人ともめっちゃダメ出ししてきますよ(笑)。ミムはこの前、僕が出演していたドラマを観てくれたんですけど、「前原瑞樹のままじゃん」と言ってきて。

三村:舞台でもドラマでも、僕だったら気合いを入れて演じそうなところを、前原さんはすごくサラッと芝居する感じがあるんですよね。

前原:大地くんには「こういう芝居してたら、友達やめるぞ!」って言われたことがあります(笑)。

金子:違うんですよ! 自分がおもろいと思う役者が、あんまり面白く映ってなかったら、悔しいんですよね。絶対できるはずなのに、って。こんなもんじゃないって。

三村:でも、大地のコメントはすっごい的確だから、信用できる。

前原:芯食ってんだよね。ぐうの音も出ない。

金子:ふざけてるんですよ、冗談冗談!

前原:冗談なのに芯食ってるから嫌なんですよ!

ある日の深夜、突然結成された「惚てってるズ」

ー2024年に開催された旗揚げ公演のコメントには「3年前の深夜に大地くんの家で結成してからようやくこの日を迎えられた」とありましたが、この日、どんなことが起きていたのか伺いたいです。

前原:その日は僕と大地くんの2人でお酒を飲んでいて。大地くんが珍しく赤くなっていたので「ほてってるやん」と言っていたら、その響きがすごく気に入ってきて。

金子:(前原くんが)「惚てってるズ、って、どう!?」って、彼はすごく興奮してましたね。

前原:大地くんもクールぶってますけど、当日はすごい盛り上がってて。「惚てってるズ」って名前が決まった瞬間に、冷蔵庫と洗濯機にでっかく「惚てってるズ」って書いて。

金子:僕、そういう熱いところがあるんですよ(笑)。

前原:その場で「火照る」じゃなくて「惚てる」という可愛らしい漢字を選ぶことまで決めて、すぐにグループラインを作りました。三村くんにも「惚てってるズを結成したので、よろしくお願いします」と連絡して。それが結成の瞬間よね。

三村:金子くんが着ている白いTシャツに「惚てってるズ」って書いてある画像と、「惚てってるズ、やるよ〜!」っていうメッセージだけが来て。「何これ?」みたいな。「ズ」がついてるから、グループっぽいな、ということだけが分かったんですけど。何が結成されたのかは分からずにいましたね(笑)。

ー旗揚げ公演の際のコメントには「2、3年前からなんか面白いことやろうよとだけ言い続けて実現できていなかった」とも書かれていました。個人的にも「何かやろう」と話したものの、実現できなかった計画が多くあるので、口にするだけでなく行動に移された皆さんは本当にすごいと思います。皆さんが「惚てってるズ」を始動させるに至ったモチベーションはどんな部分にあったのでしょうか?

金子:僕たち俳優は普段、受け身なので。そうじゃなくて、自分たちがやりたい題材で、やりたいことをやれる場が年に1回くらいあったら幸せだなあという思いが、自分にとっては一番のモチベーションだったように思います。

前原:僕は、完全に自分の話ですけど、俳優同士が馴れ合う感じというか、何かを生み出さないままで集まることが嫌なんですよ。だから金子くんと三村くんに対しても、大好きでずっと一緒にいたいからこそ、一緒に何かを作りたいという感覚がありました。

ーその感覚は、同業以外のご友人には起きない感覚なのでしょうか?

前原:起きないかもしれないですね。俳優同士で集まると、愚痴になることが多くて……ずっと文句を言い合っているのが嫌だからこそ、前向きになれる瞬間が欲しかったのかもしれません。

ー三村さんと金子さんの中にも、前原さんに近しい感覚はありますか?

三村:僕は人と何かを作ることに対して、基本的には不安が先に来るかもしれないです。でも、2人とは違っていて。ご飯を食べたり、遊んだりしている時に言うことが全部面白くて。僕はひたすら笑っているだけなんですけど、2人についていけば楽しい思いができそうだな、という予感がしたから、自分もありがたく一緒に活動している感じです。

金子:僕も人と何かを作りたいって欲は前原さんほどないですね。でも、自分たちがやっていることを面白いと思いたい、という気持ちがあります。

役者は歌手や芸人さんとはまた違って、アウトプットできる場があるようであんまりないというか……。もっと自由度高く、いつもと違う一面を見てもらえたら喜んでもらえるんじゃないか、という気持ちがずっとあって。悶々としたものを表現できる場がずっと欲しかったのかもしれません。

悩みや不安を抱えながらも「楽しい」を第一に

ーそれぞれ動機にグラデーションがありつつも、「惚てってるズ」という場が生まれた理由が少しずつわかってきました。

金子:本当に、結成段階では何をやるのか全く決まっていなかったんです。3人ともふざけることは好きだったのですが、それをどう行動に起こすかというのが、すごく難しくて。

前原:結成してから3年ぐらいは、ずっと「何をやろうか」と話している状態でしたね。YouTubeやろうか、ラジオやろうか、って色々考えて。

ーそこから今の形に辿り着くにはどんな経緯があったのでしょう。

前原:これは個人的な話になってしまうんですけど、一気に演劇に舵を切った日がありました。ナカゴーという劇団を主宰していた鎌田(順也)さんという、本当に面白い劇作家さんが2023年の夏に亡くなられてしまって。町田でそのお葬式に出席した帰りに、鎌田さんのことを思い出しながら、周囲の人に「僕もいつか面白い舞台を作りたいんです」って話をしていたんです。

そうしたらその場にいたユーロライブの小西さんというスタッフの方が「じゃあうちでやりましょうよ」と声をかけてくれて。目の前にいた桃尻犬の野田(慈伸)さんとテニスコートの神谷(圭介)さんにも「一緒にやってくれませんか」と頼んだら、もちろんいいよと快諾してくださったんです。それですぐ2人に「来年4月ぐらいに公演をやろう」と連絡しました。

旗揚げ公演『惚てはじめ』では、短編3作の脚本 / 演出を神谷圭介(画餅 / テニスコート)、野田慈伸(桃尻犬)、近藤啓介が担当。

ーお2人はその知らせを聞いて、いかがでしたか。

金子:前原くんが選んでくれた演出家なら面白いだろうなという信頼はありました。結果的にも大正解でしたが、当初はどうなるかが全く見えない部分もありましたね。自分たちが面白いと思う表現をやって、本当に通用するのか自信がなかったので。

三村:僕も、本番を迎えるまでは毎回稽古で悩みましたし、きついな、と思うこともありました。コントで滑るのはすごく怖いし、自分たちで公演を作る大変さも色々あったし。けど、初回の公演が終わる頃には、またすぐにやりたいという気持ちになっていましたね。

金子:この畳の部屋で、演出家の方と4人だけで稽古していると、何か動きをやったとしても、シーンとなるから怖いんです(笑)。

前原:それで言うと僕も、最初は不安がありました。金子くんはノリの人だから、いざ稽古を入れたら、来てくれないんじゃないかって思ってて(笑)。

金子:人の演技にダメ出しして稽古に来ないって、クズ人間じゃん。最悪な印象だ!

前原:って思ってたんですけど! 実際はスケジュールの連絡もすぐに返してくれるし、めちゃくちゃ真面目に取り組んでくれて。

金子:第1回公演の時なんて、俺の方が「もっと稽古増やそう」って言ってたくらいでしたよ。「これじゃまだ足りない」ってカズのこと呼んで2人で練習して。

三村:確かにそういう時間はありました。

前原:でも、一方でできるだけ緩やかにいたいような部分もあって。演劇の稽古って、本来1ヶ月前からびっしり稽古する、という感じなんですけど。それぞれ仕事もあったし、とにかく楽しいことが第一なので、4月末の公演に向けて、1月ぐらいから「来週空いてるんだったら稽古しようよ」というようなノリで、週1、2とかで緩やかに集まっていました。

とにかく、あまり「仕事」になりすぎないよう、スケジュールが抑えられている、という感覚を持たれないように公演準備ができたことは、自分としてはすごく大きかったです。

https://youtu.be/ajNNOyNv3F4?feature=shared

初回公演の手応えを胸に、変化し続ける惚てってるズ

ー初回公演では短編3本と映像2本のコントが披露され、それぞれが個性を存分に発揮しながら、至って真剣に観客を笑わせている様子が印象的でした。演じてみての手応えはいかがでしたか。

金子:めちゃくちゃ楽しくて! またやりたいな、とすぐに思いました。

前原:始まった瞬間に、客席からの反応、熱が届いたことが大きかったですね。自分たちのやってきたことに反応が返ってくるんだ、って。

三村:自分にとっても、面白いっていう反応を間近でもらったことは大きかったですね。

https://youtu.be/8pbtROGv9qg?feature=shared

ー先ほど金子さんから主体的に表現できる場が欲しかった、というようなお話がありましたが、オファーを受けた場と自分たちで作り上げた場では何か違いがありましたか?

金子:全然違うようで、結果的にやっていることは一緒だったな、と思いました。惚てってるズは自分たちの好きなことを表現する場といえども、やっぱりお客さんからお金をもらっていますから、確実に面白くなければいけないという気持ちがあって。自由だからこそ、そこの責任はちゃんと感じなければダメだなと思いましたね。

三村:いい芝居をするだけというか。

前原:僕は、やっぱり自分たちがオファーを受けるのではなくて、こちらから作家さんや演出家さんにオファーをすること自体が楽しかったです。幾らで作品を書いてください、幾らで演出してください、と自分たちでオファーして作り上げてもらった台本は、やっぱり普段の感覚とはまた違っていて。作品の誕生に根源から立ち会っているという感覚は、普段味わえない、特別なものだなと思います。

2人が言ったような責任もすごく大きいし、お客さんをちゃんと呼んで売り上げないと、僕ら自身が赤字になってしまう部分もある。そういう事情もちゃんと考えながら作品に向き合えているのは贅沢な体験だな、と思います。

ー4月25日からは第2回公演『惚て並み拝見』が始まります。前回の公演からは約1年の期間が空いていますが、稽古をする上での気持ちの変化はありますか?

金子:1回目を経験したことで、なんとなく要領がわかってきた部分はあります。気を抜くとかではなく。でも、本番まではどうなるか本当にわからないですね。確実に面白いとは思っているんですが。

前原:前回の公演は割とポップな内容だったと思うのですが、今回はそれと全く違う、より人間的な、ダークな部分も織り交ぜた公演になりそうです。『憐れみの3章』(ヨルゴス・ランティモス監督、2024年)って映画を意識してるんですけど、脚本家の1人である田川(啓介)さんは、すごく不条理、ナンセンスなんだけど笑えて、暗いし陰鬱としてるんだけどカラッとしている、本当に絶妙なバランスのコメディを書ける人で。日本でランティモスみたいなことをやるなら田川さんしかいないと思って、しばらく演劇から離れていたところを、お声がけして書いていただけることになりました。

https://youtu.be/YOe1gHvxEOY

金子:もう1人の脚本家であり演出家の石黒(麻衣)さんも、まずいろんなことをやってみて、その中で本番までに一番面白い形ができたらいいよね、みたいな考えの方なので、すごく俺らに合っている気がします。

前原:特に金子くんは本当、めっちゃアクティブで。毎回稽古で違う芝居をするし、そのチャレンジが大きいから、感動するよね。それを演出家さんもすごい喜んでくれているのが見ててわかりますし。

三村:同じことをやり続けたら、自分たちで飽きそうだし、お客さんにも飽きられそうだなと思うんです。公演のコンセプトはもちろん、お芝居においても、1回ウケたことを繰り返すのはちょっと恥ずかしいので。僕もできるだけ変化し続けていく、というのを意識しながら稽古しています。

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