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栗野宏文インタビュー後編 「脱エリーティズム」を掲げて、ファッションの行末を見つめる

2024.8.22

#FASHION

「脱エリーティズム」――コロナを経て思うこと

―パンデミック以降の社会変化をどのように感じましたか?

栗野:僕自身もコロナ前後の大きな変化を受けて、書籍『モードの終わり』を上梓しました。ただ、少なくともアメリカの消費社会を見る限りは、富を築いて逃げ切るか閉じこもった人が勝つような傾向が更に加速している部分があって、近年のファッションは社会に対してあまり良い影響をもたらしていないように感じます。

近年の僕の大きなキーワードは「脱エリーティズム」。つまり、選民思想へのアンチテーゼです。例えば、ファッションショーでお土産が置かれたフロントローに座る、あるいはアフターパーティに呼ばれて誰よりも先に限定品を手に入れられるといったシステムへのアンチテーゼです。美容整形もルッキズムというよりはエリーティズム的な思考であると思うし、そういう思想によって20世紀型消費社会や資本主義社会が作り上げられ、ファッションはそこにある意味片棒を担いできたと思うんです。でも、パンデミック以降それらの意味がなくなったと思っています。しかし、残念ながら欧米のファッション業界では、「前の時代に戻りたい」という懐古的な雰囲気が残っていて、コロナの影響やおかげで少しでも良く変化した、という印象は感じなかったです。

栗野:今日の主題も「オルタナティブ」がテーマですが、そのようなことがある程度前提化して大切にされはじめている背景には、ポストコロナの影響があると思っています。そうしたなかで、日本は消費を逃避として捉えない国ですよね。UNITED ARROWSの店頭でも、大量に生産された流行りの安い服より、一手間二手間かけ、手作業や加工にこだわった魅力ある服が売れています。オーガニックフードだって高いのに売れているし、テレビでは廃棄される食材を使って、材料費0円でおいしい料理を作ろうという番組もある。その背景には、そういった手間や物づくりの価値に重きを置く、日本の人間性が垣間見え、ポジティブな印象を受けます。

―日本ならではのオルタナティブなあり方は、今後広がりつつあると思いますか?

栗野:日本のファッションにおいては、coconogaccoが一番面白い役割を担っているように感じます。毎年4回ほど海外のコレクションを見続けてきても、洋服屋として、ファッション業界人として一番エキサイトできるのは、やっぱりcoconogaccoの生徒作品やプレゼンテーションなんです。あそこは、本当の意味でファッションを学び、教える側も学べるような場所です。coconogaccoを主宰している山縣良和さんや生徒は、プライベートの生活や生い立ちがヘビーで、厳しい環境下で育ったり、学生時代は不登校だった人なども多くいます。そんな彼らが物を作ることやファッションに携わることによって、ある意味救済されている。それは別に理想論でも夢物語でもなくリアルな実感として、生徒たちの作品にコメントするたびに、これまでファッションの力を信じてやってきて、この仕事をしていて本当によかったなとしみじみと感じるんです。

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