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キュートにも思えるヒュー・グラントが「主導権を握る」過程が怖い
本作の最大の魅力は、なんといってもうさんくさく、同時にキュートなヒュー・グラントの快演っぷりだ。笑顔は朗らかで、出会った直後の話し方も気さくそのもの。映画を見ている観客には彼が悪役であるとわかりきっているのだが、それでも「安心してしまう」ことがむしろ恐ろしい。目線の使い方や緩急をつけた話し方などから、しだいに彼の狂気も伝わってくるのだが、同時に「逆らいたくない」という気持ちも生じてくる。
ヒュー・グラントは近年『パディントン2』(2017年)や『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』(2023年)でも悪役を演じてきたが、その役柄もどこか憎めない人物だった。善人のイメージのある俳優がサイコパスを演じるとより恐ろしいということはままあるが、その中でも今回のヒュー・グラントは「かわいいのに怖い」役を演じた俳優として、頂点を極めたとさえいえる。

ちなみに、ヒュー・グラントは本作の準備のため、リチャード・ドーキンス やクリストファー・ヒッチンズなどの宗教的な偶像破壊主義者について学び、連続殺人犯やカルト教団のリーダーについて調べ、何が彼らに悪事を働かせたのかを突き止めようとしたという(プレス資料より)。話し方や表情の奥にキャラクターの「背景」が垣間見えるのは、その成果だろう。