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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

『HELLO INDIE』主催の背景にある、トロントの想い出。収入格差なくライブを観せたい

2025.7.9

『HELLO INDIE』

#PR #MUSIC

「真のインディーシーンの確立とサポート」を掲げるライブイベント『HELLO INDIE 2025』が7月13日(日)に仙台PITで開催される。カナダ留学からの帰国後、『ARABAKI ROCK FESTIVAL』の制作を行っていた佐藤恭が2014年に立ち上げた『HELLO INDIE』は、単体では仙台でライブをすることが難しいインディーのアーティストを集めたイベントで、今年は15年ぶりの来日となるカナダのDO MAKE SAY THINKをはじめ、LITE,downy、トクマルシューゴらが出演。コロナ禍を経て、5年ぶりの開催となった前回からはPay What You Canという投げ銭制を導入し、より多くの人が来場しやすい環境が整えられている。

これまで佐藤がメディアで『HELLO INDIE』の理念について語る機会はほぼなかったが、今回HIP LAND MUSICの山崎和人との対談が実現。『HELLO INDIE』の常連であるLITEやThe fin.のマネージャーとして出会い、現在ではデジタルディストリビューションサービスのFRIENDSHIP.と共同で出演者のオーディション企画やブッキングのサポートも行う山崎は、イベントを初年度から見つめ続けてきた盟友的な存在だ。そんな2人の関係性だからこそ伝わってくる、佐藤の深い音楽愛と人間味、『HELLO INDIE』に対する妥協のない想いをぜひ感じてもらいたい。

学生時代のトロントでの出会い。スフィアン・スティーブンスやDO MAKE SAY THINKとも

ーまずは『HELLO INDIE』が始まった経緯を伺いたいのですが、そもそも佐藤さんは20代の頃にカナダに留学をしていたそうですね。

佐藤:22歳から26歳までカナダのトロントにある専門学校に行って、マネジメント、プロモーター、レーベル、レコーディングエンジニアとか、音楽業界に関することを一通り勉強しました。そこの同級生にはアーティストもいて、彼らからトロントのインディーシーンを教えてもらい、まだ売れる前のスフィアン・スティーブンスや、Three Gutっていうレーベルに所属していたRoyal CityやConstantinesのライブを観て、そこからトロントのインディーシーンにどハマりしました。今回の『HELLO INDIE』もそうなんですけど、向こうにはPay What You Can(※)っていう投げ銭のシステムがあったので、お金のない学生でもいろんなバンドを観ることができたんです。

※入場にお金はかからず、自分で決めた金額を支払うことができる仕組み。カナダなど、貧富の差が大きく主流となっている。

佐藤恭(さとう やすし)
1977年生まれ。2004年から『ARABAKI ROCK FEST.』に携わる。国内外のブッキング、全体の運営統括を経て、2013年株式会社クールマインを設立。同時に、国内外の芸術家やミュージシャンのツアーやフェスティバルブッキングを、アジア諸国でサポートするプロジェク『INDIE ASIA』を立ち上げ、Andy Shauf、Joan Cornella、KYLE DIXON & MICHAEL STEIN、William Basinskiなどの日本公演を担当。『HELLO INDIE』や肘折国際音楽祭などの異色のフェスティバルの主宰も行う。

ー今年の『HELLO INDIE』に出演するDO MAKE SAY THINKもトロントのバンドですよね。

佐藤:トロントのインディーシーンを掘り下げていく中で、いろんな友達を介して、DO MAKE SAY THINKのアートワークを手掛けたり、写真を撮っている仲間とも知り合いました。まだBROKEN SOCIAL SCENEがブレイクする前のArts & Craftsも投げ銭制でイベントをやっていて、そこにも行きましたね。学校を卒業してからは半年くらい同級生のバンドを手伝って、キャンパスラジオにプレスリリースを送ったりしてました。

カナダ / トロントからのゲスト。本国ではGODSPEED YOU! BLACK EMPERORと双璧を成し、1990年代よりシーンを牽引し続けるポストロックバンド。実に15年振りの来日となり、5人のコアメンバーと、ストリングスやホーンを含むフル編成でのパフォーマンスを予定している。

ー帰国後は『ARABAKI ROCK FESTIVAL』を制作している会社に就職をしたんですよね。

佐藤:そのとき心の中で決めてたのは、「いつかDO MAKE SAY THINKを日本に呼ぼう」ということだったんです。そうしたら、たまたま僕の上司が洋楽も好きな人で、他のフェスと差別化を図る意味でも、海外のアーティストを呼ぼうということになって。しかも、『フジロック』のSMASHとか『サマソニ』のCREATIVEMANが呼んでないような、ポストロックとか、エクスペリメンタルとか、そういうバンドをブッキングし始めて、その流れで山崎さんとも知り合い、LITEを呼んだりしたんです。

2024年に開催された『HELLO INDIE』に出演したLITE

ー実際にDO MAKE SAY THINKは2008年に初来日をして、『ARABAKI』に出演をしていますね。

佐藤:そのときすでに1万人以上入るフェスになっていて、5ステージくらいあったので、ステージにある程度色をつけないとたくさんの人に観てもらえない気がして。だからその日のDO MAKE SAY THINKが出るステージにはtoeやMONO、SPECIAL OTHERSを並べて、たくさんの人に観てもらえました。

その会社を卒業した後に、今後何をしたいか改めて考えたら、自分が本当にかっこいいと思うアーティストだけを集めたイベントをやるのが、自分の進むべき道かなと思って、それで『HELLO INDIE』を始めたんです。最初は仙台のライブハウス4会場を使ったサーキット形式でした。

2014年に仙台 CLUB JUNK BOX、仙台 PARKSQUARE、仙台 retro BackPage、SENDAI KOFFEE CO.の4会場で開催された。前売りチケットは3,900円(税込)という、当時からしても破格だった。

ー山崎さんは当時の『ARABAKI』に対してどんな印象を持っていましたか?

山崎:異色というか、尖ったラインナップのフェスという意味で、すごく目立ってましたよね。DO MAKE SAY THINKやtoeもそうだし、違う年にはROVOが出たりしていて。

佐藤:高木正勝さんやあらかじめ決められた恋人たちへを呼んだりもしてましたからね。

山崎:いい意味での違和感があったというか。

佐藤:振り返るとそうですよね。他のフェスではあんまり見ないようなラインナップだった。

山崎:で、恭さんのことも人を介して紹介してもらって、話をしたら同い年で。

佐藤:子どもも同い年。

山崎:そこで意気投合しましたよね。

山崎和人(やまざき かずと)
1978年生まれ。2003年よりライブハウス「新宿MARZ」店長 / ブッキングマネージャーを経て、2009年に株式会社ヒップランドミュージック・コーポレーション入社。現在はLITE、The fin.、toeなど、国内外で活躍するアーティストのマネジメントを担当している。また、2019年5月には、デジタル・ディストリビューションとPRが一体となったレーベルサービス「FRIENDSHIP.」を立ち上げ、インディーアーティストの活動をサポートしている。

山崎:実際にLITEが初めて『ARABAKI』に出たときもたくさん人が集まってて、仙台は音楽好きが多いんだなって思いました。あ、話が前後しちゃいますけど、その年がちょうど2011年、震災の年だったんです。

佐藤:夏に振り変えてやったときか。そのとき震災のコンピレーションを作って、日本のアーティストからも楽曲提供をしてもらったし、それこそDO MAKE SAY THINKとか、STARSとか、カナダのアーティストからも楽曲を提供してもらったりして。あと奈良美智さんにアートワークを描いてもらいました。

東日本大震災において、被災した子どもたちを支援するプロジェクトの一貫としてリリースされたコンピレーションアルバム。Disc Aには吉井和哉やeastern youth、THE BACK HORNなどの邦楽アーティストが参加し、DiscBには洋楽アーティストが参加した。http://201108.arabaki.com/sp/info/compalbum/

山崎:そこで結構深く関わって。

佐藤:なので、『HELLO INDIE』をやるときも最初に山崎さんに相談した記憶があります。

地域や収入の格差を埋める想いで導入した「Pay What You Can」方式

―山崎さんは最初話を聞いたとき、どう思いましたか?

山崎:すごく共感できるコンセプトでした。インディーのアーティストはツアーで仙台までなかなか行けなくて、やっぱり東名阪になってしまう。でも仙台にもインディーの音楽が好きな人はいっぱいいるから、サーキット形式でインディーのアーティストたちを集めて、みんなに聴いてもらう機会を作る。そのコンセプトを聞いて、すごく音楽愛がある方なんだなと改めて思って、そこからブッキングをお手伝いするようになって。

2025年のラインナップ。初年度から出ているLITEやspike shoesの他、佐藤がブッキング人生の中でいつか縁があれば誘いたいと思っていたトクマルシューゴまで、佐藤が自信を持って観てもらいたいアーティストが揃う。

佐藤:こんなにかっこいい、ユニークな音楽をやってるんだから、できるだけ多くの人に観てもらいたい。あんまり表立っては言いませんけど、『HELLO INDIE』に出てもらうアーティストに対しては、「本当にかっこいい音楽はこれだよ」っていう気持ちがあります。

ー最初の2年は仙台での開催でしたが、2016年は松本(長野)、広島、北浦和(埼玉)でも開催されました。

佐藤:仙台に住んではいるんですけど、仙台にこだわっているわけではないんです。浦和は山崎さんの地元だったりして。

ーあ、なるほど(笑)。

佐藤:大事なのは人とのつながりで、滅多にインディー系のイベントをやらないような場所でも、アーティストが「行きます」と言ってくれるのであればやりたいなと思うんですよね。たまたま東京、大阪、名古屋に住んでいた人は、電車代200円でライブを観に行けますけど、たまたま青森とか秋田で生まれ育ったから、ライブを観に行くのに新幹線代や宿泊費がかかるのって、ちょっとかわいそうだなって。

なので『HELLO INDIE』では前回からPay What You Canを始めたんです。できるだけお客さんの負担を減らしたいし、特に地方からわざわざ来てくれるお客さんの交通費や宿泊費の負担を軽減できるようなスタイルがいいなって。まだ収支的な成立はしてないので、挑んでる感じです。まあ、意地でもやり続けますけどね(笑)。

ー山崎さんはPay What You Canについてどんな印象をお持ちですか?

山崎:『HELLO INDIE』はライブに来てもらうことを最優先にしているイベントなので、そこを追求していくと、必然的にこの形になるというか、チケット代が高くて払えないから来れない人をなくしたいということですよね。ちゃんとした音響と照明がある会場を借りてやってるので、収支という点ではなかなか壁が高いんですけど、僕らが好きな音楽というか、まだ日本でメインストリームじゃない音楽を広めていくには、それぐらいのリスクを払って……リスクを払うのは恭さんなので、僕が言うのは申し訳ないですけど(笑)。

佐藤:いえいえ。たくさんのアドバイスと知恵をもらってますし。

山崎:なので、必然的にこの形になったと思いますね。

佐藤:以前は5,800円とか、普通のフェスとそんなに変わらないチケット代でやってたんですけど、前々回は山崎さんと話をして、思い切って2,900円にしたんです。その代わり来場者が増えれば、収支としては5,800円のときとそんなに変わらないだろう、みたいな話をして。

その経験も踏まえて、やっぱり僕の原点というか、この仕事をするきっかけになったのはトロントでの経験だし、Pay What You Canという言葉はずっと頭に残っていたので、2024年から導入した感じです。

ートロントではPay What You Canは一般的なものなのでしょうか?

佐藤:そうですね。美術館や博物館もPay What You Canが多いです。移民が多くて、収入格差があるのも背景としては大きいと思います。なので、「PWYC」の4文字が入場口に貼ってあったら、誰もが意味を理解してますね。Pay What You Wishっていう表現をするところもあります。

ー実際に2024年はPay What You Canで開催してみて、手応えをどう感じていますか?

佐藤:収支的には赤字でしたが、ただそれでへこたれたりはしないというか。僕は普段音楽業界の別の仕事もやっていて、そっちでは利益のこともちゃんと考えて、でもこっちでは本当に自分がやりたいと思うことをやりたいから、ある程度赤でもいいとは思っていて。まだ動員もパンパンに入っているというわけではないので、手応えは30〜50%くらいですけど、ただそれに対して落ち込むことは一切なく、次はどうしようかを考える感じですね。

山崎:こういう話を聞いちゃうと、もう応援せざるを得ないですよね。今はフェスもサーキットイベントもたくさんありますけど、ここまで自分のやりたいことに対して一切の妥協なく志を持ってやっている人は、僕は他に知らないかもしれないです。

佐藤:やるからにはせこいことはしたくないんですよ。赤字の額って、おそらく頑張れば半分くらいにはなるんです。でも楽屋のケータリングだったり、お客さんのホスピタリティだったり、そういうところは妥協したくない。お客さんも出演者もスタッフも、「楽しかったな、いい音楽たくさん聴けたな」って思ってほしいじゃないですか。なので、そのためだったら多少のお金は払いますよね。

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