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河合宏樹監督『平家物語 諸行無常セッション』封切り上映、衝撃の七夜を振り返る

2024.10.25

#MOVIE

小暮香帆、細井徳太郎、玉川鈴、辻祐によるダンスと音楽。あの世、この世、その挟間が繋がったと錯覚した第七夜

最終日の9月13日(金)は、細井徳太郎に加えて、ダンサーの小暮香帆、浪曲師の三味線を弾く曲師の玉川鈴、太鼓奏者の辻祐が出演した。

細井は陽だまりを思わせる黄色と黄緑色で彩色された長着、鈴は海を想起させる青い着物、辻は真っ赤な切袴と肩衣と腹掛けという出立ちで現れた。

初めに、辻が客席の最前列中央で『平家物語』の清盛が絶命するシーンを朗読する。前日の青柳のそれとは打って変わって、血が焦げ、骨が焼け、魂を焦がすかのごとき情感のこもった「声」の脈動、表情の豊かさに、観客は耳をそば立て、目を見開いた。

本をパタン、と閉じる音と合わせるように場内が完全に暗転し、黒い衣装を身に纏った小暮が客席後方から登場する。映画館を照らすのは、木暮が手にしている小さな照明と、その姿を捉えようとするカメラマンの撮影機材のライトだけだ。

この日の小暮が演じたのは「平家の亡霊」である。ゆらり、ゆらりと客席の周りを歩くその痩躯には、重力はおろかさまざまなしがらみから解き放たれたかのような軽やかさしかなかった。柔和に動く腕から風が生まれ、高々と振り上げられた足によって天地が逆さまとなり、此岸と彼岸の境目があやふやになっていった。

ステージ上の辻は魂の濁流と表現すべき打音を演奏し、ギターを手にした細井は生者が亡者に捧げる祈りをイメージさせる洗練された音を奏で、その間に座る鈴は凛とした三味線の音色と掛け声を放つ。あの世、この世、その挟間が繋がったと錯覚する一瞬が何度も訪れた。

セッションが佳境に差し掛かると、小暮が座っていた満席の観客の間を縫って客席の真ん中に立ち、照明を観客に手渡した。そして次の瞬間には両の手足で椅子の背を掴んで観客の頭上を跨ぎ、後方へと戻っていった。それはまるで、三途の川を逆行せんともがく死者の抗いにも、『平家物語』を語り継ぐ度に呼び覚まされる魂のありようにも思えた。

最後に細井が、河合監督の唯一リクエストだという“エンガワ”を歌った。細井が亡くなった祖父母へ向けて制作したという同曲は、個人しか持ち得ないはずの思い出が普遍的な歌詞とあたたかなメロディーで織り成されることで、あらゆる聴き手への共有が許される小さな物語となる。その数分間で「生 / 死」の境目がパッと開かれ、あらゆる者たちの本当の「声」や「言葉」を受け取ったと、感じることができた。

『平家物語 諸行無常セッション』は今後、全国を「遍路」する。河合監督は全回でカメラを回し、イベントの模様を留める。しかし、この日、この時にあなたの胸に去来するものは、誰かの記録ではない。あなたが目撃することでしかそれは成し得ない。ぜひ劇場まで足を運んで、あなたなりの思いを持ち帰ってほしい。

『平家物語 諸行無常セッション』京都・大阪・神戸上映

※各会場で「副読本」販売

▼10/25(金)〜10/31(木) 京都・出町座
https://demachiza.com/movies/16287
【トークイベント】10/26(土) 15:30の回上映後
山下澄人(小説家・劇作家)×河合宏樹(映像作家・本作監督)
司会:安東嵩史(編集者)

〈小説と演劇と、音楽とカメラ〉
小説家・劇作家の山下澄人を迎えて、京都・大阪で同日に連続トーク。
山下が主宰する演劇のラボでは、突然知らない人同士が向き合い、テーマもないままに対話が始まる。そこに忽然と現れるセッション、生と生の交錯。それは山下の語るところの「飛ぶ瞬間、ゾーンに入る瞬間」である。『平家物語 諸行無常セッション』にも、おそらくその瞬間は記録されている。即興と「ゾーン」とはいったい何なのか。

▼10/26(土)〜11/1(金) 大阪・第七藝術劇場
https://www.nanagei.com/mv/mv_n1948.html
【トークイベント】10/26(土) 19:15の回上映後

〈「災後(アフターマス)」を書く/読む/演じる〉
山下澄人(小説家・劇作家)×河合宏樹(映像作家・本作監督)
司会:安東嵩史(編集者)

災、病、戰。「できごと」は、記録されるものだけが後世に残るのではない。直接には表面に浮かんでこずとも、「できごと」は人びとが語ることや選ぶ行動の中に浸透し、ときに思いもしなかった場所に忽然する。山下澄人の小説に、パフォーマンスに、地下水脈のように流れる「災後」の時間を聞く。

▼11/9(土)〜11/15(金) 兵庫・元町映画館
https://www.motoei.com/post_event/heikesyogyomujo/
【セッションイベント】11/10(日) 19:30の回上映終了後

〈「阪神大震災はいまも続いてる」災の残響はどこまで続き、未来に響くのか〉
キュレーション&トーク:河合宏樹(映像作家・本作監督)&白玖欣宏(映像ディレクター・絵本作家・神戸芸術工科大学助教)
演奏:butaji(シンガーソングライター)

神戸にルーツをもち、阪神淡路大震災を経験したbutajiと白玖欣宏を招き、トークと演奏を軸とした災後パフォーマンスを行います。災は800年前から琵琶法師が鳴らし、歌い、口伝された平家物語から続き、今も日本を襲い続けている。災近づく未来に歌は届くのか。

『平家物語 諸行無常セッション』(64分)

出演:古川日出男 坂田明 向井秀徳
監督・撮影・編集:河合宏樹
協力:高知県五台竹林寺
音響:葛西敏彦 製作・配給・宣伝:K3企画
2022年/日本/カラー/(形式)/64分  ©株式会社K3企画

http://heike-syogyomujo.com/

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