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河合宏樹監督『平家物語 諸行無常セッション』封切り上映、衝撃の七夜を振り返る

2024.10.25

#MOVIE

「ライブと配信、どう思う?」曽我部恵一と山本啓太に問う第四夜

折り返しとなった4日目は、ミュージシャンの曽我部恵一(サニーデイ・サービス)と映像監督としても活動する山本啓太(台風クラブ)に加えて、河合宏樹監督と安東嵩史が登壇。「コロナ禍以降のライブとライブ映像の違いを掘り下げる」というトークテーマのもと、音楽を奏でる者、映像で留める者、言葉を紡ぐ者たちによる意見が交錯する場となった。

サニーデイサービスのMVを撮影する山本は「僕は『平家物語』はよう知らんくて、言葉聞いてもわかれへんし。ただ、この3人の圧が凄まじくて。それが映像の凄いところ。現場におったらあの3人の顔とかこんな間近に、目力とか感じられる距離で観れへんやないですか。これは映像ならではの相乗効果やと思うんですよ」と称賛し、「これは、生で観るのが一番おもろいと思うんですけど、僕も映像で残すっていう仕事をやっているんで、両方でやらなきゃいけないことっていうのか感じていて。ミュージシャンの中では、撮られることを嫌がる人もおるでしょ。でもコロナ禍で、ライブ来れへん人も配信で観るようになった。僕自身は、配信のええ悪いっていうのは、どっちでもないんですけど」と水を向けた。

河合監督は「コロナ禍の時、配信の仕事は来るんですけど、全部断ったんですよ。僕は映像を撮っているけど『生』が一番好き。お客さんも含めて現場にいる空気感が好きなんだけど、それを全部配信で置き換えられちゃうっていうことに、ちょっと拒否反応が起きた。それで、色々悩んでいた時に出会ったのが、配信用に無観客で収録されたイベントだった。その時にサニーデイ・サービスのライブを撮らせていただいたんですけど、“セツナ”っていう曲を演奏された時に曽我部さんがギターソロの際に、アンプにガリガリガリとギターを擦り付けながら音を出していたら、ボンってアンプが飛んで。静寂と緊張が走った時に、曽我部さんは冷静にベースアンプに差し替えて音をまた繰り出した。あれを見た時に、『この熱量は映像には残せない』と思いました」と述懐した。

曽我部は「でも、『感動するかどうか』っていうのは、カメラが何台あるかとか全然関係ないもんね。YouTubeで検索して辿り着いた、お客さんが撮ったある瞬間の映像がすごく感動的だったりするじゃないですか。だから音量とか音質とかカメラワークだけの問題じゃないんだなと思う。でも、それを一生懸命やるのが映画作りな訳で、だからなかなか難しいと感じます。両方の真実があるでしょう? どっちも本当だからなあ」と迷いを口にした。

それを受けた河合監督は、「自分みたいに何台もカメラを用意して撮った映像よりも、今日来てもらったお客さんが何となく切り取った写真の方が意外と反応が良かったりする。それは、お客さんが『感じたい』と思ったことや需要の変化というのがコロナ以降起こったからかな、と思っていて。それはそれなりの良さもあって、自分のやれることとの違いについて悩んでますね」と告白した。

3人の話に耳を傾けていた安東は、「パンデミックの時期は、もちろん配信があってめちゃくちゃ良かった。全然外に出られないし、ミュージシャン、ライブハウス、その他のあらゆるパフォーマーがとにかく仕事がなくて、収入と生き甲斐を奪われて、生殺しのような状態になった。そこに応えられる技術がたまたまあって、その使い方を思いついた人がいたわけだから」と当時の心境を振り返った。

その上で、「一方で、河合くんが『ライブが全て配信に置き換えられていくのが嫌だった』っていう気持ちもわかるんですよ。ずっと現場にいて、その空気を撮っていく者として、そういったものが『いらないもの』になっていくんじゃないかという危機感なんじゃないでしょうか。ライブに限らず、世の中が文化的に『こっちの方がスマートなんだし、リスクやコストのかかることをわざわざやらなくていいじゃん』という方向にだけ、インスタントに流れていくことへの危惧は自分にもあります」と河合監督の苦悩に思いを寄せた。

河合監督は、「映画でもライブ映像でも、ありのままの空間性を大事にしたいと思っています。だから『平家物語 諸行無常セッション』も、頭に声明のシーンを持ってきた以外は時間軸とかは全くいじっていません」と明かした。

終盤、曽我部から「次回作は?」と訊かれた河合監督は「実は今、小説やフィクションを作ろうとしています」と答え、「基本的に私は、誰かの記録を留めるという気持ちでカメラを回しています。自分の中では「留める」っていう言い方が一番しっくり来ていて。誰かの作品を留めてきた十数年があり、コロナで仕事がなくなったり、親族が亡くなったりして、自分の生き方や死に方を考え、自分の姿とどうしても向き合わねばならなくなった時に、初めて『自分の人生を留めなきゃいけないな』と思いはじめたんですよね。大学時代はレオス・カラックスに憧れて自主映画を制作していたんですが、ようやく原点に戻り、自分の作品を更新していこうと取り組んでいます」と続けた。

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