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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

美術家・田中偉一郎は「無意味」で、せかいを広げる

2024.3.27

#ART

グータッチでつなぐ友達の輪! ラジオ番組『GRAND MARQUEE』のコーナー「FIST BUMP」は、東京で生きる、東京を楽しむ人たちがリレー形式で登場します。

12月21日は、映像作家・演出家の島本幸作さんからの紹介で、美術家の田中偉一郎さんが登場。「無意味」と向き合いながら制作してきた数々の作品について伺いました。

ひび割れを遊びに変える『ストリート・デストロイヤー』

田中:「無意味」担当の田中偉一郎と申します。

タカノ(MC):「ノーメッセージマン」という紹介でしたね。

田中:そうですね、昨日の島本くんに「ノーメッセージマン」と言っていただきましたが、どちらかと言うと「無意味」担当ということで、世の中の無意味なことを全て担当していくという自負でやらせていただいております。

タカノ:これは色々掘り下げていきたいですね。

Celeina(MC):田中さんは大学在学中からジャンルや社会性を問わず、「ノーメッセージ、ノーミーン」を旗印に動画や写真、オブジェなどを発表。またクリエイティブ、アートディレクターとして、au「三太郎シリーズ」やアサヒ生ビールなどの企画、ディレクションを担当されています。

タカノ:我々も作品を拝見させていただいたんですが、まずは『ストリート・デストロイヤー』という作品についてお聞かせください。

田中:NHKのEテレ『シャキーン!』に出たことで、多くの方に知っていただけた作品ですが、実は20年ほど前からやっているものなんです。

赤いジャージのおじさんが道路のひび割れに拳を当てていて、あたかもおじさんがひび割れを作ったように見える写真作品です。続けている中で、子供向け番組の企画として動画を作ることになって、全国の子どもたちに真似してもらえました。

Celeina:スタジオに小さいフィギュアも持ってきていただいています。

田中:どこの誰だか分からないおじさんがフィギュアになっていたら面白いなと思って、勝手に映像の中で登場させたんです。そしたら、多くの方に「このガチャ欲しい」と言っていただけたので、作らせていただきました。

タカノ:例えばひびの入ったスマホの上に置いて使うと、田中さんが画面を割っているように見えるということですよね。

田中:そうですね。世の中のひび割れは『ストリート・デストロイヤー』がやったと思ってもらえたら、誰かのせいにしなくて済むんじゃないかな。

「無意味付け」をしていく数々の作品

Celeina:ハッピーですね。他にも作品を拝見しているんですが、『ハト命名』はどういった作品ですか?

田中:2000年の作品で、ハトに名前を付けていくという作品です。ハトは丸いものに目が行くので、カメラを向けるとピタッと目が合う瞬間があるんですよ。そこで映像を止めて、「岡本常夫」かなと思ったら「岡本常夫」と命名するみたいに、名前を付けていくだけの動画です。

Celeina:これは「無意味活動」の一環という形でしょうか?

田中:そうですね。昔から「無意味」を旗印にしているわけではないんですが、色々と活動していく内に、芸術が一番ベースにしているのは無意味だなということに気づいてきて。結局、世の中のほとんどのものは、実は意味ないなと思うようになってきました。

今この場では、ここにある空気も水もコップもテーブルも意味がありますが、収録が終わって夜中にはほとんど意味がないですよね。そう考えると世の中の大半のものは意味がない時間が多いと思って、その時間を活用出来たらすごく広いせかいが広がっているはずですよね。

タカノ:面白い! 我々人間が意味づけを勝手にしているわけで、反対に田中さんは「無意味づけ」をされているということですよね。

Celeina:私すごく納得しちゃった。

田中:本当ですか? してなさそうな顔していましたよ(笑)。意味がないなと思うものの方が、幅が広くて量も多くて。一度足を踏み入れると、意味がないものの嵐に巻き込まれちゃうのが面白いです。

もちろん実利的で意味のある仕事もしているのでどっちが良いとは思わないですけど、無意味なことに注目することで、せかいが確かに広がっていくなぁと感じていますね。

タカノ:無意味の話も出ましたが、田中さんの作品で『ラジオ体操 アドリブ』も気になっています。

田中:これは本当に全く意味が無くて。ラジオ体操をやっているところに、全く体操を知らない人として参加するんです。「体を大きく回して」や「腕を上げてジャンプ」といった掛け声だけを頼りに、その場で聞いたままに踊るという。体操はしているけれど周りの人とはちょっと違う動きをすることになります。

行無常や無、ゼロといった概念を、美術の文脈で実践する

Celeina:既存の意味からの解放を、身をもって実践していますよね。

田中:そうです! お2人ともすごく理解が早いです。

Celeina:ありがとうございます。無意味に向かっていける素質がもしかしたらある?

田中:本当はみんなあると思うんですけどね。

Celeina:確かに田中さんの言う通り、みんなどこかに隠しているものがあって、田中さんはそれを解放しているような気がします。

田中:国数英や体育、音楽、美術のようなものの1つとして「無意味」のジャンルがあれば面白いのかなと。なので最近では、「無意味塾」という講義もいくつかの学校や大学でやっています。

Celeina:日本の根底にある「無」の考え方から派生しているということですか?

田中:それもありますね。日本人は、諸行無常や無、ゼロといった概念を重視していると思うんです。それを美術の文脈で実践するとこうなります、というのが、面白くてやっています。

タカノ:変なこと言っていいですか。無意味について話すことってすごく意味があるなと思って。

田中:みなさんにたまにそう思われます、し、でも、後々寝る時にやっぱり無意味だったと思う気もしますよ(笑)。一瞬すごく意味があるような感じがしてしまうけれど、後々考えると「あの時間、なんだったんだろう」となることも多いですね。

『Tokyo無意味~ランド』を作りたい

タカノ:田中さんは『連載個展』と題して、毎年個展を開催されているとお聞きしました。

田中:四谷3丁目のTS4312というギャラリーで、7年ぐらい前から毎年個展をやらせてもらっています。2023年は、5年10年先の展覧会のカタログやDMを先に公開しました。先のものを公開することで、「いついつにこれをやります」と設定したんです。

Celeina:その1つとして、『Tokyo無意味~ランド』というDMを作られたとお聞きしているんですが、これは何ですか?

田中:これは僕がライフワークとして後10年ぐらいしたら、東京寄りの埼玉に実際に作ろうと思っているテーマパークです。例えば『くだらないジェットコースター』といって、乗車したら上に上がり続けて、いつ下るのかなと思っていたら、「ご乗車ありがとうございました」となって、エレベーターで降りてくるみたいなアトラクションを作りたいです。

タカノ:くだらない!

田中:あとは、『観覧専門の観覧車』ですね。みんなでベンチに座って観覧するだけという。

Celeina:面白い。(笑)

田中:今は「無意味」の「むーちゃん」と呼んでいる、テーマパークのキャラクターもいるんです。その着ぐるみに会えるのももちろんですが、『魅惑のロッカールーム』という場所では、中に入っているおじさんが休憩している所に会える空間というのも考えています。

Celeina:禁断の扉を開いている感じがありますね。

田中:10年後くらいに本当に作ると思います。実際に足を運ぶと、ほかのテーマパークとは全く違うけれど、同じような高揚感に包まれると思っているんです。「すごく意味なかったね」「最高にくだらなかったね」というのが、テーマパークに行った醍醐味みたいなものとして感じてくれるんじゃないかなという気もしています。

Celeina:『Tokyo無意味~ランド』開園を楽しみにしております。

田中:ぜひ皆さんで遊びに来てください。

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