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『ガンダム ジークアクス』で庵野、鶴巻、榎戸が拡張する「宇宙世紀」

2025.4.15

#MOVIE

4月8日(火)に放送が開始された『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』。もともと、ガンダムの新作は数多あるアニメ作品の中でも話題になることが多いが、本作への期待感は近年のガンダム関連作品に比しても極めて高い。『ヱヴァンゲリヲン』シリーズのスタジオカラーがガンダムを手がけるという初報の時点で本作にはすでに大いに注目が集まってはいた。しかし、地上波放送・配信に先立って上映された『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』で本作の方向性が示されたことにより、既存のガンダムファンのみならず、今までガンダムにはそれほど親しんでこなかったアニメファンまでを巻き込んだ、大きなうねりが生まれつつある。

※本記事には映画の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

ガンダムを一大コンテンツにした宇宙世紀の拡張性

『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』によって、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX 』は、一年戦争(初代『機動戦士ガンダム』で描かれた戦争)で連邦ではなくジオンが勝利した「もしも」の世界線を描いたガンダムであることが示された。

ガンダムが一大コンテンツとなった大きな理由として、「宇宙世紀」という架空の未来史年表の存在と、その拡張性が挙げられる。宇宙世紀を描いたガンダムは、その年表の中にさまざまなクリエイターやファンが自分なりの物語を書き足すことで、ますます広がりを持つような力学を内在させている。しかしそれは同時に、『機動戦士ガンダム』『機動戦士Zガンダム』など初期のガンダム作品で描かれた出来事は歴史の中で確定した出来事であるという認識もファンには共有されている。

シミュレーションゲーム『ギレンの野望』やコミックなど宇宙世紀の「もしも」を実現する作品は確かに存在するものの、多くの場合、既存の宇宙世紀関連コンテンツ……特に映像作品は、正史とは矛盾しない歴史の間隙にいかに物語を作り上げていくか、という営みが大半だった。『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザインを手がけた安彦良和も、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では初代『機動戦士ガンダム』を自らの手で描き直しつつ、一部には新たなエピソードや設定の変更を加えたが、それでもなおテレビ版の再解釈というスタンスが強い。『機動戦士ガンダム』はそもそも1979年の時点で完璧なマスターピースである、という前提もここでは述べておきたい。

庵野秀明による「シン」的な荒業

そのようにして、長い間ガンダムファンには無意識的に共有されていたある種の聖域に挑戦するのが、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』だ。そのために、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』の前半『Beginning」編で、アニメで描かれた一年戦争の末期の戦いの数々を、ほとんどダイジェスト的にシャアの視点から語り直すという手段を取った。語られる物語は「もしも」の出来事ではあるが、効果音や音楽、一部のカットなどは徹底的にオリジナルの『機動戦士ガンダム』に寄せられており、従来のファンほど「初代のガンダムだ……」と、ほとんど生理的な動揺を喚起させられるだろう。その裏側には、既存IPを大胆に換骨奪胎し、旧来のファンと新規のファンどちらをも呼び込む「シン」シリーズを手がけてきた庵野秀明の気配が色濃い。多くの場合こういったパロディ要素が強い作劇はどこか照れのようなものがフィルムに残りがちだが、「Beginning」編は徹頭徹尾、作り手の真顔ぶりが伝わってくる。宇宙世紀の「もしも」の物語をアニメのテレビシリーズでやり通す大仕掛けを、既存のファンにも呑み込ませるために、『GQuuuuuuX』は、大真面目に初代の『機動戦士ガンダム』を作り直すという直球の荒業をやってのけたのだ。

結果として、本作はまだ本編の放送が始まっていないにもかかわらず、SNSや投稿サイトではキャラクターの二次創作が溢れ、初代『機動戦士ガンダム』のテレビシリーズに初めて触れる若いファンの姿も多く見られるというとんでもない事態を呼び起している。

GQuuuuuuXの公開後、公式チャンネルにアップされている第1話の再生数が急上昇

『フリクリ』『トップをねらえ2!』の鶴巻和哉と榎戸洋司による解釈

「GQuuuuuuX」編では、ジオンが勝利し、シャアが行方をくらました世界のとあるコロニーで暮らすアマテ・ユズリハの姿が描かれる。アマテは謎の少女ニャアンと出会ったことで、モビルスーツ同士の戦いであるクランバトルに身を投じ、ガンダムの声を聞く少年・シュウジとも運命的な出会いを果たす。「ポケモン」シリーズなどのキャラクターデザインで知られる竹によるかわいらしいキャラクターが、現代日本にも通じる意匠をほどこされたシリンダー型コロニーの都市で躍動する豊かなアニメーションは、従来のガンダム作品ともまた違った雰囲気を有し、現代の宇宙世紀ガンダムとしての印象を強く残す。

https://youtu.be/Rd3Gu4pQURY
星街すいせいが歌う「もうどうなってもいいや」にのせて、アマテとニャアンが登場するエンディング映像は多数の2次創作を産んでいる

本作の監督を務めるのは、2000年のOVA『フリクリ』で知られる鶴巻和哉と榎戸洋司。思春期特有の言葉にできない鬱屈を、ハードなSF設定とスタイリッシュな映像表現で描いた『フリクリ』は、今もなお熱狂的なファンが多い。二人が携わった作品として「GQuuuuuuX」の展開を考える上では、ロボットものであり人気作の続編という立ち位置の『トップをねらえ2!』も重要だろう。人気作品の続編という立ち位置ではあるが、前作のスポ根アニメとロボット、そして美少女という前作の要素を大胆にアレンジし、鶴巻監督らしいビビッドな感情表現と榎戸らしいセンシティブな感覚でまとめ上げられている。なおかつ『トップをねらえ2!』は物語の後半で前作の設定を使った驚きの仕掛けを入れ込み、前作のエンディングともつなげるという荒業をやってのけた。

宇宙世紀0085年という年代設定から考えると、本作は「一年戦争でジオンが勝利した世界線でZガンダムをする」物語だと現時点では予想できる。しかし、『フリクリ』や『トップをねらえ2!』のテイストやテーマを考えれば、Zガンダムに登場する二つの勢力、エゥーゴとティターンズを反転させただけのストーリーにはならないことは容易に想像できる。むしろ前述した2作品、あるいは榎戸洋司が脚本を担当した『少女革命ウテナ』を思い返せば、思春期特有の万能感を特別な力と定義し、それが失われていく過程にこそフォーカスが当てられるのではと想像できる。アマテやシュウジのような少年少女たちのいつか失われる思春期が、ニュータイプという存在、あるいは「人類の魂を引っ張る」とされる地球の重力と繋がることで、宇宙世紀特有の諸概念に今までにない解釈が生みだされていくことが予感される。

半世紀近くの長きにわたり独自の発展を遂げてきたガンダムコンテンツ。『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』が上映開始一秒で宇宙世紀の歴史を急角度で分岐させたように、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』もまた、ガンダムコンテンツの歴史を大きく分岐させ、ますます広げていくことになるだろう。

https://youtu.be/LuSG1j-gd4A

『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』

4月8日より 毎週火曜24時29分から
日テレ系30局ネットで放送
毎週水曜午前1時から
Prime Videoで国内最速配信

監督:鶴巻和哉
シリーズ構成:榎戸洋司
キャラクターデザイン:竹
メカニカルデザイン:山下いくと
原作:矢立 肇/富野由悠季
脚本:榎戸洋司/庵野秀明
制作:スタジオカラー/サンライズ
製作:バンダイナムコフィルムワークス/日本テレビ放送網

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