4月8日(火)に放送が開始された『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』。もともと、ガンダムの新作は数多あるアニメ作品の中でも話題になることが多いが、本作への期待感は近年のガンダム関連作品に比しても極めて高い。『ヱヴァンゲリヲン』シリーズのスタジオカラーがガンダムを手がけるという初報の時点で本作にはすでに大いに注目が集まってはいた。しかし、地上波放送・配信に先立って上映された『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』で本作の方向性が示されたことにより、既存のガンダムファンのみならず、今までガンダムにはそれほど親しんでこなかったアニメファンまでを巻き込んだ、大きなうねりが生まれつつある。
※本記事には映画の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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ガンダムを一大コンテンツにした宇宙世紀の拡張性
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』によって、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX 』は、一年戦争(初代『機動戦士ガンダム』で描かれた戦争)で連邦ではなくジオンが勝利した「もしも」の世界線を描いたガンダムであることが示された。
ガンダムが一大コンテンツとなった大きな理由として、「宇宙世紀」という架空の未来史年表の存在と、その拡張性が挙げられる。宇宙世紀を描いたガンダムは、その年表の中にさまざまなクリエイターやファンが自分なりの物語を書き足すことで、ますます広がりを持つような力学を内在させている。しかしそれは同時に、『機動戦士ガンダム』『機動戦士Zガンダム』など初期のガンダム作品で描かれた出来事は歴史の中で確定した出来事であるという認識もファンには共有されている。
シミュレーションゲーム『ギレンの野望』やコミックなど宇宙世紀の「もしも」を実現する作品は確かに存在するものの、多くの場合、既存の宇宙世紀関連コンテンツ……特に映像作品は、正史とは矛盾しない歴史の間隙にいかに物語を作り上げていくか、という営みが大半だった。『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザインを手がけた安彦良和も、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では初代『機動戦士ガンダム』を自らの手で描き直しつつ、一部には新たなエピソードや設定の変更を加えたが、それでもなおテレビ版の再解釈というスタンスが強い。『機動戦士ガンダム』はそもそも1979年の時点で完璧なマスターピースである、という前提もここでは述べておきたい。
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庵野秀明による「シン」的な荒業
そのようにして、長い間ガンダムファンには無意識的に共有されていたある種の聖域に挑戦するのが、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』だ。そのために、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』の前半『Beginning」編で、アニメで描かれた一年戦争の末期の戦いの数々を、ほとんどダイジェスト的にシャアの視点から語り直すという手段を取った。語られる物語は「もしも」の出来事ではあるが、効果音や音楽、一部のカットなどは徹底的にオリジナルの『機動戦士ガンダム』に寄せられており、従来のファンほど「初代のガンダムだ……」と、ほとんど生理的な動揺を喚起させられるだろう。その裏側には、既存IPを大胆に換骨奪胎し、旧来のファンと新規のファンどちらをも呼び込む「シン」シリーズを手がけてきた庵野秀明の気配が色濃い。多くの場合こういったパロディ要素が強い作劇はどこか照れのようなものがフィルムに残りがちだが、「Beginning」編は徹頭徹尾、作り手の真顔ぶりが伝わってくる。宇宙世紀の「もしも」の物語をアニメのテレビシリーズでやり通す大仕掛けを、既存のファンにも呑み込ませるために、『GQuuuuuuX』は、大真面目に初代の『機動戦士ガンダム』を作り直すという直球の荒業をやってのけたのだ。
結果として、本作はまだ本編の放送が始まっていないにもかかわらず、SNSや投稿サイトではキャラクターの二次創作が溢れ、初代『機動戦士ガンダム』のテレビシリーズに初めて触れる若いファンの姿も多く見られるというとんでもない事態を呼び起している。