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ポール・メスカルら起用のキャスティングの妙
こうした構造のなかで活きるのがキャスティングの妙で、ルシアス役のポール・メスカルは初めての大作アクション映画ながら、『aftersun/アフターサン』(2022年)や『異人たち』(2023年)などで見せた繊細さと思慮深さをにじませる。前作のラッセル・クロウとは異なる方向性の配役は、作品そのものの趣旨の違いをあらかじめ示唆していたのだ。ルシアスに協力する医師ラビ役のアレクサンダー・カリムも、穏やかさと慈愛を表現してメスカルと抜群のコラボレーションを見せる。
一方、アカシウス役のペドロ・パスカルは危うさもあるが知性と誠実さにあふれた将軍を、マクリヌス役のデンゼル・ワシントンは倫理観が曖昧で心底の見えない商人を体現した。ルッシラ役のコニー・ニールセン、双子皇帝ゲタ&カラカラ役のジョセフ・クイン&フレッド・メッキンジャーを含め、役者自身の年齢や性別、人種までもが物語のなかで乱反射して、政治と暴力、経済をめぐるパワーバランスは複雑にねじれていく。
監督のスコットと脚本のスカルパは、『ゲティ家の身代金』(2017年)と『ナポレオン』に続いて本作が3度目のタッグ。1970年代の実話誘拐事件、近世ヨーロッパの英雄譚、そして古代ローマの史劇と、それぞれ異なる時代、舞台設定とジャンルの物語に鮮やかな現代性を注ぎ込んできた手腕は、本作でも、現実世界と劇中に共通する「希望なき時代」に対してひとつの希望を確かに紡ぎだした。
24年という年月を経て、世界が変化し、価値観が変化し、映画や表現とそれらを支える映像技術が変化した今、『グラディエーター』という映画のかたちが変わったのは必然だっただろう。しかし、この時代に決闘を、あえて言えば「戦争」を描き、エンターテインメントの枠組みでそのメカニズムを暴いた点で、これは前作をしのぐ達成ではないか。
問題は、ここで示された希望の可能性が今後どのように転がってゆくかということだが、どうやらスコットは早くも『グラディエーター』第3作のシナリオを書き始めているという。若きルシアスを主人公に、今この時代とつながりあう古代の物語はまだ続くのだ。
『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』

原題:『Gladiator II』
日本公開日:11月15日(金) 全米公開日:11月22日(金)
監督:リドリー・スコット
脚本:デヴィッド・スカルパ
キャラクター創造:デヴィッド・フランゾーニ
ストーリー:ピーター・クレイグ、デヴィッド・スカルパ
出演:
ポール・メスカル:(『異人たち』、『aftersun/アフターサン』)
ペドロ・パスカル:(『ワンダーウーマン1984』、「マンダロリアン」)
コニー・ニールセン:(『グラディエーター』、『ワンダーウーマン』)
デンゼル・ワシントン:(『イコライザー』シリーズ、『マグニフィセント・セブン』)
ジョセフ・クイン:(『クワイエット・プレイス:DAY 1』、「ストレンジャー・シングス 未知の世界」シーズン4)
フレッド・ヘッキンジャー:(『クレイヴン・ザ・ハンター』)
リオル・ラズ:(『6アンダーグラウンド』)
デレク・ジャコビ:(『グラディエーター』、『英国王のスピーチ』)
配給:東和ピクチャーズ
©2024 PARAMOUNT PICTURES.
公式サイト:https://gladiator2.jp/
<あらすじ>
ローマ帝国が栄華を誇った時代―。ローマを支配する暴君の圧政によって自由を奪われたルシアス(ポール・メスカル)は、グラディエーター《剣闘士》となり、コロセウム《円形闘技場》での闘いに身を投じていく。
果たして、怒りに燃えるルシアスは帝国への復讐を果たすことができるのか。