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『Neo Oriented』で変化した中野の歌詞――「自分の力ではどうにもならない他者が現れる」
―今回の歌詞は「他者との共存」がテーマになっているそうですね。ここまで話してきた「バンド」という集団もまさに他者との共存が重要だし、前回のアルバムからの7年の間にもその重要性をかみしめる機会がすごく多かったように思いますが、中野さんの中でこのテーマが浮かび上がってきたのはどんな背景が大きかったでしょうか?
中野:“i.e.”と“楽園”(共に2023年5月リリース)を作ってた時期に、自分の書いてる歌詞が自分の世界すぎて、他人がいないことに気づいたんですよね。そうじゃなくて、自分の力ではどうにもならない他者が現れる、ファンタジーじゃない部分を入れた歌詞を書きたいなと思うようになったんです。

中野:今回『Neo Oriented』というタイトルで、自分たちのベーシックにあるネオソウルをもう一度見つめ直そうという話もあって、ネオソウルはコーラスの掛け合いの要素も多いから、1曲目の“You & I”はまさしく掛け合いがガンガン入ってるんですけど、それによって他者を表現しよう、というのが僕の中の個人的なテーマでした。
やっぱりコロナでみんながセパレートされたし、細分化されたし、1人ひとりとの濃密な時間がちょっと減ってきてるなと感じてたんですよ。そうなると雑味とかえぐみみたいなものがどんどん漂白されて、つまらなくなってきている感じがしていた。でも普通に生活してても、バンドをしてても、仕事をしてても思うんですけど、やっぱりぶつかることも含めて人と向き合って、実際に触れ合ったり、言葉を掛け合ったり、僕らはそういうことでしか日常の中で新しくなっていけない、温かな営みを続けられない、楽しめないと思ったんです。だから“You & I”では自分の力ではどうにもならない他者とどう向き合うか、みたいなことを書いていて。
ー<二人のリズムに違いを重ね 奏で合えば 不協なハーモニーも互いを許し合う>というラインが非常に印象的です。
中野:こういうことがEmeraldでもよく起きてるし、不協和音でも成立してるみたいなものってあって、サイケデリックな音楽もそうじゃないですか。そういうことを音楽で表現するのもいいんですけど、より言葉にしたいと思ったんですよね。
―2曲目の“in the mood”でも<重なりあう>ということが歌われています。
中野:“in the mood”はボブ・ディランのジャケットじゃないですけど、ずっとくっついて離れない2人を描きたいなと思って。2人でこの世の中をサバイバルしてる感じを表現したかったし、肉体感のあるもの、温度感のあるものを追求してた感じです。やっぱりみんな1人じゃ生きていけないじゃないですか。助け合わなきゃやっていけないし、1人で生きてると思ってても結果いろんな人に助けられてるし。だからこそ、誰かを励ましたり、明日も頑張ろうと思えるような音楽を作れた方がいいなと思ったんです。
―中野さんは前作のリリース年である2017年にご結婚されたそうですね。お子さんも産まれていて、実生活でも「他者との共存」が重要だった7年間だと思うのですが、どのように感じていますか?
中野:結婚してみて改めて、「そんな性格だったんだ」とか「こんな部分もあるんだ」とか、思ってたのと違うこともいっぱいあるんですよね。そういうお互いの違いをどう中和したり、バランスをとったり、雰囲気を良くしていくか。そういうことに長年向き合ってきていて、それはバンドについても一緒だし、子供との関係もそう。そこで僕は言葉を扱う人間だから、使う言葉はできるだけ気をつけようと思ってるんです。きつい言葉や汚い言葉をできるだけ使わないように、優しい言葉で話そうとか、そういう努力はバンド内でもしてきたし、家族の中でもしてきたので、他者との共存という意味ではそこもすごく大きいですよね。

中野:“Lovin’”は娘のことを思って書いた曲で、大人になって聴いて、自分のお父さんがこういうことを歌ってくれてたら嬉しいな、みたいなのを想像したり、“ララバイ”は急に亡くなってしまった知り合いのことを歌詞にしてみたり、他者と共存してきた中で感じたことが、ちゃんと歌詞になってるんじゃないかな。
