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オーストリアの古都に電磁盆踊りが鳴り響く
―9月4日はオーストリアのリンツ市で開催された世界最大級のメディア芸術祭『アルス・エレクトロニカ』に出演されました。ニコスで『アルス・エレクトロニカ』に出演するのは2018年、2019年に続いて3回目ですよね。
和田:コロナ禍で海外に行けない時期が長かったので、久々のアルスでしたね。僕ら自体、常に有機的に変化している集団なので、コロナ禍の間に楽団のメンバーも増えて、簡単に遠征できなくなってしまって。それでも、コロナが明けて海外からのオファーが一気に増えていたので、ようやく体制を整えて久々に海外活動を再開することになったんですね。

―オーストリアには何人編成で行ったんですか?
和田:日本から行ったのは14人で、現地で合流したメンバーも2人いました。SNSで参加希望者を募集したら、フランスとアメリカから参加してくれた人がいたんですよ。2人ともすごい熱量で、発電磁行列の曲を頭に入れた状態で来てくれて(笑)。
清宮:コロナ禍中も世界各国から参加希望のメッセージが送られてきたので、Facebookにワールドワイドラボというグループを作ったんです。そこで自由にコミュニケーションを取れるようにしていて、アルスにはそこに参加してくれているメンバーが来てくれたんです。ひとりはフロリダのドミニクくん、もうひとりがストラスブールのコームくん。どちらも若くて、コームくんは19歳かな。
和田:コームくんは変わった音楽を作っていて、僕らのやってる音楽の音律に惹かれたみたいで。家電の音ってピアノとは違って大きく揺らいでいるのですが、逆にそこに惹かれたみたいでした。

―リンツ市のシンボルといわれている古い大聖堂の前が会場だったそうですね。
和田:そうなんですよ。リンツの街中にある象徴的な大聖堂前に、赤提灯と古家電を並べた櫓的なステージを建てて祭空間を作りました。そもそも向こうの人たちは盆踊りが何かわからないうえに、さらに家電を楽器にしているわけで、謎要素だらけなんですよ(笑)。

―日本の場合、ニコスが何をやるか知らなくても、盆踊りは誰もが知っているわけですよね。
和田:そうそう、“炭坑節”はみんな知っていますからね。
―でも、アルスでは盆踊りという前提すら共有されていないわけですよね。お客さんを巻き込むためにどんなことを考えていましたか。
和田:まず、盆踊りが死者を迎える伝統的な踊りであることを、つたない英語で説明しました。なおかつ古い家電がデッドテクノロジーとともに蘇るのです、と。そこまで説明したら、みなさん「おおー」と反応してくれて。向こうでは円になって踊るという概念がないようで、そこを説明しましたね。
清宮:大きなボードにドイツ語、英語、日本語を書いて説明したんですよ。真ん中にステージがあって、その周りを回ってください、と。最初はそれをもとに動いてくれたんですけど、こちらの想定以上の人が集まっていたので、徐々に破綻していって。

―人が多すぎて、うまく踊りの輪ができなかった?
和田:そうですね。もみくちゃでした。でも、みなさんすごく興味を持ってくれて。“炭坑節”の踊り方もレクチャーしたんですけど、みんな「これ、どうやって踊るんだ?」と悪戦苦闘しながら踊ってくれましたね。

―そのときの動画がYouTubeにアップされていますが、すごい盛り上がりですよね。
和田:カオス空間でしたね。ステージ上で踊りの手本となる方に何人か参加頂いたんですけど、徐々に踊りもフリースタイルになってきて、ノリのいい人たちがステージに雪崩れ込んできちゃったんです。それぞれで全然関係ない踊りを踊っていて、すごく面白かったですね。踊りの型がどんどん崩れていくんですよ。
だから、祭りのバイブスは共有できたと思います。リズムが引きつけるものがあるんだろうし、それは万国共通だと感じました。盆踊りのふりは共有されなくても、リズムと家電は共通言語でしたね。
―ニコスのパフォーマンスを海外でやるのは大変だと思うんですが、このプロジェクトを海外に持っていく意義のようなものも感じているのでしょうか?
和田:確かに海外でやるのは大変ですけど、アドベンチャーを求めるなら外せないです。異なる文化圏で異なる要素や感覚を自分の中に取り込むことでもあり、言葉にはできない共通感覚を見つけることでもあります。何より人が集うとそこに血が通い、物語が勝手に動き始める。血流と電流が交差しながら、未知の音楽を発見していく過程は異様に面白いですね。