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将棋×リーガルドラマ『法廷のドラゴン』で交じり合う「次の一手」

2025.2.21

#MOVIE

©「法廷のドラゴン」製作委員会
©「法廷のドラゴン」製作委員会

朝ドラや大河ドラマなどドラマだけでなく映画でも大活躍中の上白石萌音と高杉真宙がバディを組んだことでも話題のドラマ『法廷のドラゴン』。

第1話の見逃し配信再生数がテレ東のゴールデン帯のドラマ史上最速で100万回再生を突破するなど、テレ東のドラマとしては異例の広がりを見せている本作は、将棋×リーガルドラマという組み合わせも異例。

『季節のない街』や『闇バイト家族』などの濱谷晃一プロデューサーが、チェスの天才を描いたNetflixドラマ『クイーンズ・ギャンビット』に着想を得て企画し、戸田山雅司がオリジナル脚本で描いた本作の第1話~第5話について、ドラマ・映画とジャンルを横断して執筆するライター・藤原奈緒がレビューする。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

弁護士と依頼人の「次の一手」が交じり合うリーガルドラマ

バディになりたての天童竜美(上白石萌音)と歩田虎太郎(高杉真宙)©「法廷のドラゴン」製作委員会
バディになりたての天童竜美(上白石萌音)と歩田虎太郎(高杉真宙)©「法廷のドラゴン」製作委員会

ドラマ『法廷のドラゴン』(テレ東系)は実に良質なリーガルドラマだ。女性初のプロ棋士誕生を期待されながらも弁護士に転向した主人公・天童竜美(上白石萌音)が、存続の危機に瀕する弁護士事務所のお人よし所長・歩田虎太郎(高杉真宙)とともに、依頼人の笑顔のために奔走する。18年間、奨励会という「勝つことしか求められない世界」で生きてきた竜美は、第2の戦いの場を「自分のため」ではなく「誰かのために」戦う場所・法廷に変えた。第2の人生、いわば人生の「次の一手」と懸命に向き合う新米弁護士の奔走と、彼女が向き合う依頼人の人生の「次の一手」が絶妙に交じり合う本作は、なんとも素敵なリーガルドラマの新・王道になりそうである。

上白石萌音×高杉真宙のバディだけではない隙のない布陣

2人を見守るパラリーガル兼経理・乾利江(小林聡美)©「法廷のドラゴン」製作委員会
2人を見守るパラリーガル兼経理・乾利江(小林聡美)©「法廷のドラゴン」製作委員会

『法廷のドラゴン』は『相棒』シリーズ(テレビ朝日系)や『科捜研の女』シリーズ(テレビ朝日系)を手掛けてきた戸田山雅司による完全オリジナル脚本のリーガルドラマだ。メイン監督は『転職の魔王様』(カンテレ)、映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』の堀江貴大。朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)、映画『夜明けのすべて』の上白石萌音と、大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)、映画『オアシス』の高杉真宙という、実力も魅力もこの上ない2人がバディを演じるというだけで一見の価値がある本作だが、さらに安定感と安心感を高めているのは、2人を見守る歩田法律事務所のパラリーガル兼経理・乾利江を演じる小林聡美だろう。真面目すぎる竜美と優しすぎる虎太郎の間で穏やかに合いの手を入れながら、時に現在の状況を絶妙な塩梅で織り込みつつ話す電話口の挨拶は視聴者の笑いを誘う。

竜美(上白石萌音)の母・香澄(和久井映見)と父・辰夫(田辺誠一)©「法廷のドラゴン」製作委員会
竜美(上白石萌音)の母・香澄(和久井映見)と父・辰夫(田辺誠一)©「法廷のドラゴン」製作委員会

さらに、裁判官であり、心配性で娘思いの竜美の父・辰夫を田辺誠一、真面目ゆえに苦悩しがち、壁に突き当たりがちな父娘に、いつも柔軟な視点でアドバイスする母・香澄を和久井映見が演じるなど、隙のない布陣である。

竜美(上白石萌音)と虎太郎(高杉真宙)の愛らしさと面白さ

徐々に過去が明らかになってきたと虎太郎と竜美©「法廷のドラゴン」製作委員会
徐々に過去が明らかになってきたと虎太郎と竜美©「法廷のドラゴン」製作委員会

本作の何よりの魅力はキャラクター造形の緻密さと、それを演じる俳優の良さだ。前述した乾や、竜美の両親だけでなく、上白石萌音と高杉真宙が演じる竜美と虎太郎も実に愛すべきキャラクターに仕上がっている。まず上白石萌音演じる竜美の最大の特徴は、言うまでもなく「将棋」である。彼女は物事の大半を将棋になぞらえて分析、解説、行動する癖がある。作品そのものの構成も、彼女に合わせて、和装姿(奨励会時代からの正装)で気合を入れて臨む終盤の局面、さらには、その後の「感想戦」という形での各話の総括という、将棋に因んだ流れが基本になっている。だが、竜美の面白さは、それだけに留まらない。

第5話で人気の和菓子・一徹餅を一目見ただけではしゃぐなど、甘いものに目がないところ。第4話で郷田(稲葉友)が、友人である虎太郎に対して「いいか、ぜってー負けんじゃねえぞ」と言ったら、なぜか反射的に竜美が「はい! 」と返事をしてしまうほど、極端に負けず嫌いな性格。さらに、一度考え始めらたら部屋に閉じこもって出て来なくなるほどの凄まじい集中力。どれも彼女が元棋士であるという一点に繋がっていく性質でもあるのだが、演者である上白石萌音がふんわりと穏やかに、そして、キュートに演じていることもあり、とても素敵に映る。対する高杉真宙演じる虎太郎は、彼女に振り回される「優しすぎる若き所長弁護士」。中学生の頃のエピソードから彼の弁護士としての信条が明らかになった第4話は彼が主人公の回とも言えるが、何より「餃子を2個一気食いして小さくストレスを発散してる」という訴訟でボロ負けしたり示談交渉で惨敗したりした時の憂さ晴らしの方法がなんとも彼らしく、愛おしかった。

将棋×リーガルドラマという組み合わせの妙

事件を棋譜になぞらえて説明する竜美©「法廷のドラゴン」製作委員会
事件を棋譜になぞらえて説明する竜美©「法廷のドラゴン」製作委員会

そして、将棋×リーガルドラマという画期的な組み合わせの妙である。竜美が読み解く事件の数々を見ていると、心なしか将棋に詳しくなれる気がする。虎太郎と同じく全く将棋に詳しくない筆者であるが、彼女が言う「次の一手」という言葉とリーガルドラマの相性の良さだけはなんとなくわかる。2人が働く歩田法律事務所は、常に大きな事件を扱う訳ではない。でも、結果的に、依頼人の人生の「次の一手」を指す手助けをする。さらにはそれが、若い竜美と虎太郎の人生の「次の一手」を指し示す手がかりにもなる。なんでも将棋に繋げようとする竜美に戸惑い気味だった虎太郎が第1話の後半で、自ら一歩、歩み寄り「僕ももう少し探してみようと思う。絹子(松坂慶子)さんをこれ以上傷つけずに笑顔を取り戻せる、その……一手を」と提案することで、長考し過ぎて「穴熊に入っちゃった」竜美を外の世界に連れ出したように。第3話で、竜美が松篠妙子(入山法子)に「ようやく次の一手を指せるのではありませんか?」と語り掛けるように。

竜美と虎太郎は、持ち前の優しさで依頼人の心ばかりが、人生まで動かしていく。第1話における盗まれてしまった絹子の思い出の小物入れは、結果的に香坂絹子の息子夫婦の離婚危機を救ったし、第2話の「保温装置のプラグを抜いてしまった」事件の解決は、瀬山玲子(山口紗弥加)の止まっていた時間を動かした。刑事事件を扱った第3話は、互いを思い過ぎた人々の間に起きた悲劇の話で、最後に描かれたのは夫の家に縛られ続けた女性・妙子の背中を押す竜美と虎太郎の姿だった。第4話は、アパートで起こる一騒動を通して一見コワモテの郷田が持つ優しさに触れる回だったが、その騒動解決の結果は郷田とアパートの大家・海老原徹一(ベンガル)のこれからの良好な関係を想像させるまでに至った。そして第5話の和菓子屋の店主・熊倉英和(角野卓造)と息子・和輝(草川拓弥)親子の葛藤は、「父を越える・越えない関係なく、自分自身の信条を貫けばいい」という想いに繋がり、それは、優秀な弁護士だった父・羊次郎(藤井隆)と自分を比較し、心が挫けそうになっていた虎太郎自身をも動かした。

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