将棋とリーガルドラマを組み合わせる意外性で話題となったドラマ『法廷のドラゴン』(テレ東系)。主演の上白石萌音と高杉真宙によるバディの魅力だけでなく、各話で描かれる事件の多彩さや、それぞれを将棋になぞらえて解決するアプローチの新しさもあり、ドラマ好きの視聴者を魅了し続けている。
そんな本作の第1話~第5話についてレビューした記事に続いて、本作の真骨頂とも言える完成度だった第6話と、本作における重要なキーパーソンである、白石麻衣演じる駒木兎羽と竜美の対峙を描いた、最終話への布石となった第7話を、ドラマ・映画とジャンルを横断して執筆するライター・藤原奈緒がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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将棋を通して様々な人間模様を見つめてきた心温まるリーガルドラマ

「将棋は相手がいないと指せません。私は将棋を通して誰かと繋がり、そして分かり合える。そんな瞬間が好きなんだって、あの家の人たちを見ていたらそう思えてならなくて。だから無性に指したくなりました」と『法廷のドラゴン』第6話の終盤、上白石萌音演じる天童竜美は言った。
第7話まで見てきても、『法廷のドラゴン』はまさにそんなドラマだった。女性初のプロ棋士誕生を期待されながらも弁護士に転向した竜美は、すべてを将棋になぞらえて語り、将棋を通して、法廷で繰り広げられる様々な人間模様を見つめてきた。でも、いざ自分自身のことになると途端に臆病になる、ちょっぴり不器用で愛すべき主人公・天童竜美と、人が良すぎて心配になる、竜美のバディ・歩田虎太郎(高杉真宙)による、心温まるリーガルドラマ『法廷のドラゴン』が最終話を迎える。
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将棋を通して繋がっていく家族たちを映した第6話

第6話は、モノクロの映像が、旧家の佇まいと、大手建材メーカーの元会長・宇津木忠義(飯田基祐)の遺影がある仏壇の前に勢揃いした一族の醸し出す物々しい雰囲気を際立たせたところから始まった。「横溝正史の世界みたい」という視聴者の頭に浮かんだ思いを代弁する虎太郎の台詞に対し、「横溝正史? 棋士……じゃない?」と遠慮がちに問いかける竜美らしいボケによって、魔法が解けたかのように世界は色を取り戻し、たちまち『法廷のドラゴン』らしさが溢れだす。
竜美と虎太郎は、旧家の遺産分割協議に立ち会うことになる。そこに集うのは長女・桐枝(内山理名)、長男・松彦(笠原秀幸)ら故人・忠義とは疎遠だった4兄妹と、忠義の傍で働いていたために兄妹よりも宇津木家の内情をよく知っている忠義の姪の娘である紫織(谷村美月)とその息子・悠真(木下瑛太)。親への愛情が薄い利己的な子たちと、彼ら彼女らに比べれば関係性は薄いが深い絆で結ばれている優しい女性という構図は、さながら『リア王』か『東京物語』か。と思いきや、依頼は将棋マニアの忠義が遺した詰将棋が書かれた遺言状を解くという案件で、やはり、すべては将棋に直結していく。宿泊する旅館の部屋が、かつて羽生善治九段が対局の際に宿泊した場所だったために興奮して部屋中を駆け回る竜美。彼女を落ち着かせようとする虎太郎。そして、娘の外泊に心配して現れた、相変わらずの娘思いの父・辰夫(田辺誠一)と虎太郎のやり取りに笑わされる“らしさ”に溢れた第6話は、法廷を舞台としない異色の回でもあった。

恒例の、竜美が奨励会時代からの正装である和装姿で気合を入れて臨む(さらにはここぞと言う時に眼鏡を外す)終盤の局面も、旧家の一室で行われた。そこで彼女は、遺言に書かれた詰将棋を解くために、反目しあっていた家族が自然と集まり、将棋盤の前で楽しそうに意見を出し合う姿を目の当たりにする。それこそまさに、家族思いの故人・忠義が本当に見たかった光景だった。これまでも、彼女だけが見える輝く盤上に、様々な人間模様を映してきた本作。第6話で竜美の眼差しを通して映し出したのは、遺言書において、それぞれ持ち駒を指定された人々が「将棋を通して繋がっていく」姿だった。そして、その想いは前述した「私は将棋を通して誰かと繋がり、そして分かり合える。そんな瞬間が好き」という言葉に通じる。逆を言えば、将棋を通さないと彼女は途端に不器用になる。それが、第7話で描かれた、奨励会をともに戦った親友でありライバル・駒木兎羽(白石麻衣)を前にして2度も職場の「穴熊」に籠もってしまう竜美の姿だった。兎羽は、竜美が「友達を失くす手」を指したばかりに傷つけてしまったと長年負い目に感じている人物である。そして、そんな彼女は報道記者になり、依頼人として竜美の前に現れたのだ。