DEAN FUJIOKAが自身初となるベストアルバム『Stars of the Lid』をリリースした。「虚構の持つ美しさと真実の持つ鋭さで繋ぐメビウスの輪」から着想を得たという今作は、アーティストとしてのDEAN FUJIOKAのこれまでを総括しつつ、未来をも見据えた作品になっている。
そんなDEAN FUJIOKAの音楽遍歴や素顔に迫るべく、スペースシャワーTVが特別番組を制作。DEANが信者だったと公言する、ミュージシャンでありコメンテーターのモーリー・ロバートソンと、かねてよりDEANと親交の深いラッパーでありプロデューサーのSKY-HIを交えたその鼎談を、記事としてお届けする。
「人生のターニングポイント」「人生の恥ずかしい出来事」などのテーマトークもはさみつつ、初の日本武道館公演に臨むDEAN FUJIOKAのアーティスト性に迫る。
INDEX
DEAN FUJIOKAと二人の繋がり
DEAN:確かMTVだったと思うのですが、日本で初めて番組に出演させてもらったとき、偶然SKY-HIくんと自分の番組が連続していて、初めてSKY-HIというラッパーの存在を知りました。その後すぐ、とあるクラブでSKY-HIくんを見かけて声をかけたんですよね。小さいクラブだったのですが、そのときの印象が強く残っていて。その後はプライベートでも交流があって、最近はずっと海外にいたんですけど、行く直前にも一緒に食事に行きました。
SKY-HI:衝撃的でした(笑)。
DEAN:電波に乗せられない話もたくさんして。
SKY-HI:モーリーさんがワナワナしています(笑)。
モーリー:最近はもう、電波に何も乗せられなくなっているので(笑)。
DEAN:この話の流れで言うと、僕は「モーリー信者」の1人で、今電波に乗せたらどうなってしまうんだろうっていうモーリーさんのコンテンツをたくさん拝見してきました。いくら貢いだかわかりません(笑)。
モーリー:一体自分は何をしてしまったんだという感じです。
一同:(笑)
モーリー:もうとにかく数年おきに自分の過去の足跡を消して、前に進むようにしていて。3年以上前のこと聞かれても「そんなこと言いましたっけ?」とすっとぼける活動を展開中です(笑)。
DEAN:情報量の多さで塗り潰していくみたいな。
モーリー:そうですね! 今は「良い人」のフェーズにシフトしています(笑)。
INDEX
アルバムタイトル『Stars of the Lid』について
DEAN:星空を見上げると星座たくさんあって、一つひとつの星座に物語があるじゃないですか。それが、新曲も含めこれまで作ってきた一曲一曲の歌詞や物語が散りばめられているようで、ベストアルバムのイメージにぴったりだなと思って。
DEAN:制作時は、地動説ではなく、天動説のイメージで制作を始めたんですね。虚構を真実だと信じた過去の人がいたように、虚構だから成立するロマンや美しさもあると思っていて。自分が真実だと信じるものを守るために生きた人もいれば、本当の真実を追い求めた人たちもいた。そして時には命を落とす人もいるくらい、大きな影響力、鋭さや厳しさを持つ「真実」も存在している。
自分は「虚構」としてのエンターテイメントやアートの担い手として社会と接点を持たせてもらっているので、それも含めて虚構の美しさと真実の鋭さがメビウスの輪のように繋がっているイメージで、ベストアルバムや武道館のアートワークなどをまとめていきました。
DEAN:制作時は、収録曲のリクエストもあって、意外と縛りがあることも実感したんですけど、縛りはパズル的な遊びをするときのスパイスになると思っていて。縛りがあっても、足りない部分を新曲で補えば、クリエイティブのコンセプトと合致するメビウスの輪のようなイメージでベストアルバムが作れると思いました。
INDEX
DEAN FUJIOKAの音楽やライブの魅力
SKY-HI:DEANさんは、いろんな形で芸能に関わり結果を残し続けていますが、毎回「Want to」が伝わる新しい作品を作っていらっしゃる。能動的に音楽をやっているのがすごく素敵だなと思います。今このフェーズでベストアルバムを作ったうえで、新曲の歌唱が過去作のどれよりも上手くなられていて、音楽をやり続けることの夢をもらいます。ずっと楽しそうなんです。
モーリー:数年前に、お客さんの入りから終わりまでライブを全部観させてもらったんですけど、かなり長いライブだったのに少しも乱れないDEANさんのブレスに衝撃を受けました。曲数も多くて、少し内容を削ってもお客さんは満足したかもしれない(笑)。それでもDEANさんの、ファンに応えようとするスタミナとロングブレスがすごかった。
お客さんのスタミナも相当なもので、「倒れるまで頑張るぞ」という気概を感じましたし、DEANさんもお客さんもスタミナが尽きるまでライブに臨んでいて、それがメビウスの輪を作っているかのようで(笑)。
DEAN:なるほど(笑)。
モーリー:DEANさんのライブって、お客さんにロマンスを見せていると思うんですけど、さっきのメビウスの輪の話を聞いて、エグいリアリズムを持ってないと「ビリーバブル」な虚構はできないと思うんですよ。「これでいいですか」って、受身でチェックボックスを埋めるだけじゃ駄目で、自分の本心がないと心がこもったものにならない。DEANさんのライブでそのせめぎ合いを感じて、精神力と肉体力が大切なんだなと感じました。
それ以降、客観的にみて映画でもライブ映像でもDEANさんの美しさを強調するカメラアングルが多い印象なんですが、スマートで洗練されたDEANさんの映像を見ても、私はそれを成り立たせているDEANさんの筋肉と汗、肉体の力とスタミナをひたすら感じ取っています。それが励みになって、私もジムに通ってます(笑)。
DEAN:でも確かに、自分の肉体はエヴァンゲリオンみたいだと思っていて、パイロットとして自分の肉体に入り込んでいくイメージがあります。どうやって肉体を開発するかとか、同じ肉体を使ってどう機能させるかを考えたりするので、今お話を聞いて「バレた」と思いました(笑)。
INDEX
番組はテーマトークへ。テーマ①「人生の恥ずかしい出来事」
DEAN:僕はですね、つい最近指先を切り落としちゃいまして。だいぶ生えてきたんですが、肉片をピックアップするのを忘れて縫えなかったんです。だいぶ丸みが出てきたんですけど。
モーリー:えっ、えええー!? それは……なんですか、事故だったんですか?
DEAN:包丁で切り落としちゃって(笑)。
SKY-HI:それは……指紋を無くそうとしたんですか?(笑)
モーリー:パスポートを変える必要があったのか!
一同:(笑)
DEAN:飛行機に乗り遅れそうなタイミングで急いでいて。切り落とした肉片を拾って漬けておけばなんとかなったのかもしれないですが、パニックになってしまっていて。2時間ぐらい血が止まらず、チェックインカウンターを血だらけにしてしまいました……。恥ずかしかったですね。
モーリー:私はですね、10歳ぐらいの頃、父親がリール式の家庭用テープレコーダーを持っていて。それで自分の声を録音して聞いてみたら、とても自分の声とは思えないおぞましい声がしたんです……。客観的に自分の声を聞く初めての経験だったので、それがすごく恥ずかしかったんです。
18歳になって初めて防音されたスタジオで録音した、EQされた自分の声を聞いたら、それが素晴らしすぎて「これが俺の本当の声だ」と思うようにしました。「こんなはずじゃない」と恥ずかしい自分の声から逃げ回った8年間でした(笑)。
DEAN:わかります(笑)。僕も4チャンネルのMTRで録音していた当時、自分の声がとにかく恥ずかしかったですね。
SKY-HI:自分は人のことをプロデュースするようになってから、録音段階の声の成分に向き合う時間が圧倒的に増えたので、発声についてのインプットも増えて。なので、音楽活動を十数年やってきましたけど、30歳を超えてから初めて自分の声の正しい使い方をわかった気がします。それ以来はあんまり恥ずかしいことはないんですけど、それまではずっとありましたね。
テーマ②「大人になってからハマった音楽」
DEAN:大人になったのが学生を終えたタイミングという意味なら、ちょうど中華圏での活動を始めた頃だったので、マンダリンポップス(中国語で歌われるポピュラーミュージック)ですね。今もカラオケに行ったらほとんど中華圏の歌しか歌わないです。中学生の時に、メタルとかグランジにハマった感覚とは違いますが、マンダリンポップスは確実に人生の一部ですし、いい曲だなと思います。つい最近も数ヶ月間仕事で中華圏にいたんですけど、現地で聴いてるとやっぱり向こうの風土に合っていて、景色の奥行きが変わりますね。
テーマ③「人生のターニングポイント」
SKY-HI:「人生のターニングポイント」……モーリーさんは関節の数ぐらい多そうですね(笑)。
モーリー:紆余曲折という意味ではね(笑)。まあ、さっきの声の話の延長ですが、ハーバード大学2年生のとき、電子音楽の勉強ができるスタジオがありますっていうことで、行ってみたんです。
そこでテープレコーダーを使った実験をしていたんですけど、もっとも過激だったのは、テープが切れる直前まで引っ張ると、テープの茶色部分がボロボロと剥がれて落ちる。それを再生すると、ピッチもボリュームもおかしくなって、聴いたことのないような音が聴こえてくるんです。
その実験が衝撃的で、自分がそれまで考えていた「録音された真実がそのまま再生されている」という考えが吹っ飛んだ。音声や現実は粘土のように形が変えられることを学んだ神秘的な経験でした。その日以来、私は不真面目な方向に突き進んでいくようになりました(笑)。
DEAN:僕は、国や言語圏をまたぐ引っ越しが破壊的な経験でした。だからこそ新しい何かが生まれてくるとも言えるんですけど、言語や宗教観も違う場所へ行くと、「何を持って我々(We)とするのか?」という概念が違うし、どうしたってそこに入っていかなければいけないので、これまでの自分の生き方なんてどうでもよくて。ゆえに、真実が何なのかを考えさせられます。メディアが発信していることの捉え方も違っていて、プロパガンダだと言う人もいれば、愛に溢れた行為だと言う人もいるし、どっちもどっちかもねという立場をとる人もいる。
客観的になれましたと言うとすごく綺麗な話なんですけど、なんでもありで、ガイドラインもないし矜持もなくて、違法じゃなければなんでもいいのかとか。これが正義、というものが統一して並んでいるのが世界だと思うんですよね。