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「声」とCornelius。坂本龍一の歌へのシンパシー
―「声」という点ではどうでしょう。ASA-CHANGの“告白”のCornelius ver.は意表を突く楽曲だと思います。
小山田:これは映像作家の勅使河原一雅さんって方がいて、ASA-CHANGがその人のプロフィールを読んであまりにもすごかったんで、それを女の子が朗読した音源を使って作った曲らしいです。
―勅使河原さん自身が重要なポイントなんですね。
小山田:偶然なんですけど、『AUDIO ARCHITECTURE:音のアーキテクチャ展』って六本木の21_21 DESIGN SIGHTでやった展示で映像を作ってもらった作家の1人が勅使河原さんで。すごいアブストラクトでサイケデリックな素晴らしい映像を作る人なんだけどでも、こういうふうに育ったんだって(笑)。
―人の声ってすごく不思議な楽器でもありますよね。谷川俊太郎さんの“ここ”もそのことを感じさせます。
小山田:これは谷川俊太郎さんの展示用に作った曲ですね。谷川さんにご自身の詩を朗読してもらって、その朗読している声の音を一つひとつ解析して、ドレミファソラシドに当てこんで、その音程に対してハーモナイズしていく、みたいなことをやっています。Melodyneっていうピッチ補正ソフトを使って、谷川さんの声を中心に和声を組んでコード感やメロディーを決めていきました。
昔、スティーブ・ヴァイの1stアルバムで、フランク・ザッパが誰かの会話の音をスティーブ・ヴァイに渡して、「この会話をギターでコピーしろ」って言って作った曲が入っているんですけど、それと似たような手法というか(笑)。スティーブ・ヴァイの場合は自分の耳とギターをテクニックで表現しているんだけど、機械の力を使ってるとはいえ、人間の喋り声を音階化して捉えるって考え方は共通しているなと。
―小山田さんはボーカリストとしての自己認識は強くありますか?
小山田:あまりないですね。ほかの人に歌ってもらえたら音楽としてちゃんとしたものになるというか、また別のものになると思うんですけど、自分でライブをやるのでいちいち人に頼むのも面倒っていう。歌は全然得意でもないし、だけどいま機械がめちゃくちゃ発達してるので、僕でも全然何とかなるんですよ。
―消極的なのか積極的なのかわからない理由なんですね。
小山田:まあ、両方です(笑)。
―今回、坂本龍一さんの“Thatness and Thereness”のカバーで締めているのは?
小山田:途中にあるとどうしても重みが出ますからね。
―この曲をカバーした理由は何かあったんですか?
小山田:これは坂本さんがまだ闘病中のころ、坂本さんのお誕生日に「元気になってほしい」っていう希望を込めて、みんなで作ったトリビュート(2022年リリースの『A Tribute to Ryuichi Sakamoto – To the Moon and Back』)でカバーした曲で。単純に好きっていうのもあるんですけど、坂本さんが歌ってる曲をやりたくて、それでこの曲を選んだんです。
―坂本さんのボーカルがお好きなんですか?
小山田:すごく好きです。素朴な感じがいいなって思います。
―そうですね、音楽は複雑な志向性なのに。
小山田:そうそう。歌はすごく素朴で、あの訥々と歌ってる感じがいいなって。
―その対比が魅了的ですよね。たとえばひとくちにアンビエントといっても千差万別で、ニューエイジ的な単純さと坂本さんのサウンドは真逆だと思うんですね。その一方で歌はきわめてシンプルだという。
小山田:坂本さんの場合、響きもちゃんと作曲されているから、そういう単純な音楽とは違いますからね。「ほわーん、気持ちいい」みたいな感じのものと一緒にされるのはさすがに、ってところはあるんでしょうね。あとはスピリチュアルなものを感じるところも抵抗感の理由なのかなと思うんだけど。
―そこは小山田さんも根は同じような気がするんですよね。
小山田:あまりに単純化されることには、やっぱり抵抗感はありますね。
