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21世紀のコーネリアスとアンビエント。人生も半ばを過ぎて語る、YMOの3人に思うこと

2024.6.28

#MUSIC

小山田圭吾と環境音楽、アンビエントハウス、ニューエイジリバイバル

―これまではアンビエントをどういうものだと認識していました?

小山田:まずはブライアン・イーノですよね。

―『Ambient 1: Music for Airports』(1978年)、原点ですね。最初に耳にされたのはいつですか。

小山田:イーノの『Ambient 1: Music for Airports』を聴いたのは20代半ばぐらいだったんですけど。

―今回の『Ethereal Essence』では、いわゆる「環境音楽」を意識されたんですか?

小山田:吉村弘さんは『Kankyō Ongaku』で知って聴いていました。

ブライアン・イーノ『Ambient 1: Music for Airports』収録曲
『Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990』(2019年)に収録された吉村弘の楽曲、オリジナルアルバムとしては吉村弘『Music for Nine Post Cards』(1982年)に収録

―『Kankyō Ongaku』は、タイトルこそ日本語ですが、選曲のセンスには海外の視点を感じますよね。

小山田:かもしれないですね。中高校生ぐらいのときにPenguin Cafe Orchestraとかは聴いてて、その当時から「環境音楽」って言われてましたよね?

ー言われていました、はい(※)

小山田:それこそセゾングループのイメージとか、あとは無印良品の細野(晴臣)さんの『花に水』もそう。1980年代ってエリック・サティとかちょっと流行ってたし、あと六本木WAVEの1階のワールドとアンビエントみたいなコーナーがあったり、そういうイメージですね。

※1986年に出版された『波の記譜法 環境音楽とはなにか』(時事通信社)のなかで、編著者のひとりの田中直子は、環境音楽という言葉が1960年代後半から音楽心理学の領域で使われはじめていたことを指摘している(P.336参照)。『Kankyō Ongaku』でも取り上げられた音楽家、芦川聡は自らが提唱した「波の記譜法」をエリック・サティの「家具の音楽」、ブライアン・イーノの「アンビエントシリーズ」の延長上にあるとし、そのコンセプトを「私がしようとしていること全体は、大きな意味での「音のデザイン」といえる。「音のデザイン」とは、人間と音・音楽の関係を重視した環境をつくることだ」(P.24より引用)と説明している

無印良品店内BGMとして制作され、カセットブックとして発表された細野晴臣『花に水』(1984年)収録曲。2020年にはVampire Weekendの楽曲でサンプリングされ、話題となった

―その当時はミニマルミュージックも聴いていました?

小山田:いや、聴いてなかったです。だけど当時のニューウェーブでも「Les Disques Du Crépuscule」とか、ちょっとミニマルミュージックに近いものが入ってたし、そういうものは聴いてました。「Obscure Records」(※)の流れでマイケル・ナイマンとか、あとはウィム・メルテンとか。The Durutti Columnとかも当時はアンビエントとは言わなかったけど、いまだったら近い雰囲気も全然感じる。

※ブライアン・イーノが主宰したレーベル。ブライアン・イーノ『Discreet Music』(1975年)、デヴィッド・トゥープ、マックス・イーストリー『New and Rediscovered Musical Instruments』(1975年)をはじめ、ギャヴィン・ブライアーズ、マイケル・ナイマン、Penguin Cafe Orchestra、ハロルド・バッドらの作品をリリースした

ベルギーの音楽レーベル「Les Disques Du Crépuscule」が手がけたコンピレーションアルバム『From Brussels With Love』(1980年)に収録されたThe Durutti Columnの楽曲。なお、『波の記譜法 環境音楽とはなにか』でもThe Durutti Columnおよび「Les Disques Du Crépuscule」のリリースは環境音楽の潮流のひとつとして指摘されている

―そのような聴取体験が小山田さんのアンビエント観を培ったんですね。

小山田:中高生のときは、リアルタイムか少し前ぐらいのニューウェーブとかパンクが好きだったんですけど、Cocteau Twinsがハロルド・バッドと一緒にやったものを聴いたり、そのときにすでにアンビエント的なものに影響を受けてたと思います。

でもやっぱ中高生のころは刺激が強めのものを求めていたから、まったり家でアンビエント聴こうかなって感じにはならなくて。1990年代にあったアンビエントブームはThe OrbとかThe KLFとかクラブミュージック系が中心でしたけど、ジュリー・クルーズとか『Twin Peaks』っぽい感じというか、冷たくて、リバーブが効いてて空間が広がっているドリームポップっぽいものも、当時アンビエントとシンクロしてた感じもします。

Cocteau Twins & Harold Budd『The Moon and the Melodies』(1986年)収録曲
1990年から1991年にかけて放送されたデイヴィッド・リンチが監督、脚本を手がけたドラマ『Twin Peaks』に起用されたジュリー・クルーズの楽曲。オリジナルアルバムとしては『Floating into the Night』(1989年)に収録

―小山田さんのカセットのタイトルの元になったAphex Twinの『Selected Ambient Works 85–92』は1992年リリースですけど、最初に聴いたとき80年代との差異を感じませんでした?

小山田:ビートも入ってますしね。あの当時はハウスの影響も強くてレイヴ文化があって、The KLFの『Chill Out』(1990年)みたいな「朝まで踊ってチルアウト」みたいな1990年代のアンビエントリバイバルと、1980年代の環境音楽は全然違ったところにありましたよね。1980年代はもうちょっとほんわかしてる、というか。

―いま分析されたような感覚が当時からありました?

小山田:そこはやっぱり時間が経ったからかな。そのころ、ほかのものもいろいろ聴いてたから。

The Orb『The Orb’s Adventures Beyond the Ultraworld』(1991年)収録曲

―アンビエントも環境音楽的な80年代のテイストと、90年代のAphex TwinやThe Orbなどが代表するクラブカルチャーに親和的なあり方、2000年代以降もまた全然違いますし、変遷があります。いま流行っているアンビエントはちょっとニューエイジっぽい感覚もあるじゃないですか。

小山田:ニューエイジっぽいのって今回のリバイバル以降ありになった感じがします。ちょっと胡散臭いイメージが先行してた部分もあったけど、風向きが変わりましたよね。

そもそもアンビエント的なものとスピリチュアルは切り離せないところもあるし、そこに便乗したものがたくさん出てきて嫌気がさしたところも当時はあったと思う。ただそこにも時代に耐えうる作品はあって、若い人や海外の人が純粋に音に反応してありになったところはあるんじゃないですかね。

―海外目線、若者目線で教えられるっていう。

小山田:そうそう。教えられたって感じ(笑)。Laraajiとか当時から存在は知ってたけど、今の耳で当時の発掘音源を聴くとめちゃくちゃいい、みたいな発見がたくさんありました。

―音の好み、耳の感じも変わっていっているんですね。

小山田:うん。おじさんもおじさんなりに変わってるんですよ(笑)。

Laraaji『Vision Songs Vol. 1』(1984年)収録曲、同アルバムは1984年にリイシューされた

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