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「現代の戦争のイメージをアメリカ本土で過激に転用した」(ガーランド監督)
本作の設定は「連邦政府から19の州が離脱し、テキサス・カリフォルニアの同盟からなる西部勢力と、政府軍による激しい武力衝突が各地で起きている」というもの。その最中で大統領は「我々は歴史的勝利に近づいている」と主張するのだが、実際には西部勢力はワシントンD.C.から200kmの地点まで進攻しており、政府軍は敗色濃厚となっている。
この「表向きに政府が話していることよりも事態は深刻(あるいは完全にウソ)」というのは、戦争に限らず我々が現実で向き合い続けている事柄だ。さらに、4人のジャーナリストたちは、自身たちの命までも危険にさらして、事態の過酷さを身を持って知ることになる。
そうした様から、現実でのウクライナ侵略やガザ地区侵攻を連想する人も少なくはないだろう。実際にアレックス・ガーランド監督は「ダークなスリルと扇動性は、空爆や民間人への攻撃や巻き添え被害といった、現代の戦争のイメージをアメリカ本土で過激に転用したことで生まれた」とプレス向け資料で語っている。
また、アメリカの内戦といえば1861年の南北戦争を思い起こす人も多いだろうが、ガーランド監督は現代の内戦はそれとはまったく違う「すべてが崩壊して粉々に分裂すること」であると言う。また、予期せぬ悲劇や大惨事の後には「想像力の欠如」というフレーズがよく使われることも指摘している。
劇中で起こる出来事は、「こんなことが起きるわけがない」と思ったとしても、それもまた想像力の欠如なのではないか、こんなふうに今までの世界は簡単に崩壊してしまうのではないか、などと単純な思考だけには終わらせてくれない。それは、ガーランドの指摘通りの現実があるからなのかもしれない。
中でももっとも恐ろしいのは、ジェシー・プレモンスが演じる差別主義者が、文字通りに「選別」をするシーンだ。その内戦の狂気の中にある、おぞましい「空気」を感じられることも、本作の大きな意義だろう。