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令和らしい、すれ違い続ける親子関係

競技かるたは、一般的には、その魅力が理解されにくい競技と言えるだろう。競技かるたのプロは存在せず、どんなに極めようと評価がされにくい。『ちはやふる』の原作でも、登場人物たちが競技かるたに向ける情熱を、家族から軽んじられたり、反対されたりする描写が多数あった。
時間的制約から、そうした家族との関係まで踏み込んで描くことができていなかった映画版に対し、『ちはやふる-めぐり-』では、親と子の関係がたっぷりと描写されている。第2話の白野家のエピソードでは、息子はボクシングが好きでたまらないと思っている父・真人に対して、惰性でボクシングをやっていると言えない風希の葛藤が描かれた。「俺がやりたいことってこれなのかな」と風希の頭をかすめた疑問を父に言えず、嘘をつき誤魔化してしまったのは、父からのボクシング指導を愛情として受け止めたからだろう。
第5話では、競技かるたに出会い、少しずつ自分自身を取り戻していっためぐると、そんなめぐるの様子に戸惑う両親の姿が描かれた。この藍沢家の関係で特徴的なのは、互いに何かを押し付け合うのではなく、互いを思い合うがゆえにすれ違っているという点だ。めぐるは中学受験に失敗したことで引け目を感じて競技かるたがやりたいとは言い出せず、両親は高校2年生の冬という大学受験を前にした時期にめぐるが競技かるたをすることに対して、遠回しに異論を唱えていた。めぐるから両親への「2人に決めてほしい。お父さんとお母さんは私にどうしてほしい?」という言葉には、めぐるが抱える両親への申し訳なさが込められていた。そして、なぜめぐるが競技かるたをやりたいと言えなかったのか分からないまま、選択を委ねられた両親とのすれ違いも含めて、令和らしい親子関係だったように思う。
風希の場合もめぐるの場合も、親と子が真っ向から互いの選択を否定し合った後に和解する方が、ドラマ性は強く感じられるだろう。本作が、親と子の関係をそのように分かりやすく描かなかった裏側には、大人も子どもも自分の選択が正しいのかに悩むひとりの人間でしかないという思いがあるのかもしれない。こういった一人ひとりの考えや感情を深く描く部分にも、オリジナルドラマながら、しっかりと原作『ちはやふる』のエッセンスを感じる。