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バストリオの今野裕一郎が語る、分かりやすさへの反発と多様性を受け入れる表現

2025.5.26

#STAGE

ルネ・ポレシュや飴屋法水にシンパシー。演劇よりもパフォーミングアーツに感じる近しさ

—バストリオって、世の中的にはやっぱり「演劇」というジャンルのものとされているわけじゃないですか。でもパフォーマンスを観ても、今日こうやって話を聞いていても、そのラベリングが窮屈に感じませんか? だって、いわゆる皆がイメージする演劇とは大きくかけ離れているわけでしょう。

今野:それはもう、始めた時からずっとそうかもしれない。演劇じゃないって言われるし、でもそうじゃないところに自分らの居場所があるわけでもないし。ずっと観てくれている佐々木敦さんが、あるとき「これはもうバストリオとしか言いようのないジャンル」みたいに言ってくれたときがあって。あぁ、そこまで行けたんやって思いましたね。

昔、海外の演劇を観たときにしっくりきたんですよ。こんな感じでいいんだよなって思えた。『フェスティバル/トーキョー』(※)でルネ・ポレシュが来たときにも、映画撮影現場みたいな設定で最初に車を乗り回して、お店をつくって役者がお酒飲んでて、っていう舞台。パフォーマンスが始まってるのかどうかすら分からなくて。そうしているうちに皆を乗せた車が走ってきて。自由度が高くて、役者たちの強度も高いという劇ですね。そういうのを体験していたとき、飴屋法水さんの舞台も観て、これが演劇なんだったら自分たちもやってみようと感じてバストリオを始めました。だから、日本で演劇と言われているものよりも、どちらかというと海外でパフォーミングアーツと呼ばれるものの方が自分のやりたいことに近いのかもしれないです。逆に、向こうに行ったらすぐ何かのジャンルに入れられるようなことしか実はできてないのかもしれない。

※略称『F/T』。東京芸術劇場をはじめ池袋エリアに集積する文化拠点を中心に開催されていた、日本最大の舞台芸術のフェスティバル。2009年2月に誕生し、過去5度にわたって開催され、104作品、780公演、そして26万人を超す観客 / 参加者が集った。

—だから私は、初めてバストリオを観る人にはできるだけ「これは演劇である」という枠組みを取っ払って観てもらいたいです。

今野:実際、初めて観たときはどんな感じでしたか?

—最初の10分観て、あぁこれは物語に執着しない方が楽しめるなと思い、そっちに照準を合わせて以降はすごく楽しめました。うまく言えないけれど、ボーっと観てハッとしての繰り返しというか。

今野:あぁ、そうですよね。

—バストリオって、「今この瞬間」しかないじゃないですか。全編が「今この瞬間」の集積。一方で明瞭な筋書きがある舞台って、未来に向けての今が結末への矢印とともに進んでいく。でも、バストリオの場合はとにかく「今」しかない。今この瞬間の身体の動きや声の抑揚や台詞によって、観客一人ひとりの中に物語がそれぞれ立ち上がっていったりいかなかったりするわけで、それはそれで非常に演劇的でもあるんですが。つまり、その瞬間を都度楽しみながら観るのが一番面白いと思うんです。

今野:そう、見方や構えが合うかは大事ですよね。自分たちもやりながら、お客さんを見て「30分経ってもこの人はまだ呪いが解けてないな」とか分かるんですよ(笑)。でも最近来てくれるお客さんは、そうじゃない構えで来られる人が多いですね。特に若い人は、そもそも演劇に対するイメージがないからなのか、フラットに空間を観て自分で選んでザッピングできちゃう感じがある。

その過程で、どこかではパフォーマンス自体に飽きちゃう時間があってもいいと思うんです。「ここ興味ないな」っていうので良くて、興味が戻ったらまた観て自分でモンタージュしてくれるような見方でいい。そういう人が、この15年間で間違いなく増えてます。前は、本当に皆がポカーンとしてたから。こんなに変わったことをわざとやってるのかな、って思われてたし。自分は、あえて外したり逃げたりしているわけではなくて、こっちの方が本当に良いと思ってナチュラルにやっているので。時代的に、そういうものに共感する人が増えているのかもしれないです。

—ボーっと観ながら興味があるところに反応すればいいんですよね。バストリオの楽しみ方として、それは正しい。

今野:それも良いし、真剣にみてても良い。めちゃ自由。そうやって観られる人がどんどん増えてますよ。なんか、川を見てるみたいに皆が観てるなって思う。

—(笑)。

今野:休みながら眺めて、なんか今の流れ綺麗だったよね、って(笑)。そういったことをアンケートに書いてくる人もいる。

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