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3人の生きづらさから考える、それぞれにとっての心地よさの「適量」
─そうした人物設定は、どういった課題意識から始まったのでしょうか?
柚木:書き始めるときは、私なりにウケる小説というものを、ふんわり考えるんです。「本屋大賞取れる!」くらいの気持ちで。話題を呼ぶ物語の多くはバッドエンドというか、会えなくなるっていうのは文学的に評価されると思ったので、誰かを消失させようとしていたんです。ところが、書き始めるうちにどんどん変わっていく。みんなが震えるようないいラストを思いついたんですけど、それは里佳たちにとって幸せなのか、カジマナの心は満足するのか考え始めてしまい。
─最初の構想とは違うけれど、柚木さんの中で溢れ出た物語にまかせて、それで七面鳥のラストにたどり着いたんですね。
柚木:そうですね、やっぱり料理は作りたかったんです。
─私は、七面鳥のラスト大好きです。
柚木:ありがとうございます。刊行当時は批判も多かったんですよ、読書芸人で有名なカズレーザーさんが番組で「あのラストが嫌だ」とおっしゃっていて、ああ……って。でも、デュア・リパはどうやら好きな本らしいんです。
─ミレニアル世代のグローバル・ポップアイコンとよばれる、イギリスのシンガーソングライター、デュア・リパが!
柚木:デュア・リパって、かなりの読書家なんです。とくに、日本の作家の作品がすごく好きみたいで。だから、自信を失っている日本人の女性にいちばん言いたいのは、カズレーザーさんがつまらないと言ってもデュア・リパに「最高よ」って言ってもらえるってこと。ここでダメでも、デュア・リパに褒められる世界線があることを、私が証明しています。
─最高です。
柚木:日本だと周りと一緒じゃないとダサかったり、NGとされる格好があったりするけれど、それでもあなたはデュア・リパに褒められる可能性があるってことを、みんな心に留めておいてほしい。そうしたら、たとえもてはやされなくたって気にならないし、逆に唯一無二感がおいしくなる。そう思えるくらい、デュア・リパのブックリストに入ったことは作家としてうれしかったです。
─同じ場所にとどまっているとわからないけれど、別の世界線から見たら正解になることってありますよね。
柚木:「ここでの評価がすべてじゃない」って何度も小説に書いてきたんですけど、私は日本で売れないことをコンプレックスに感じていたので、私のメッセージに懐疑的になって。でも、『BUTTER』を発表して翻訳されて、インドでゾウが出てくるくらい人気だったんですよ。
─派手なお出迎えですね(笑)。
柚木:もう、ギャグみたいに人気者だったので、そういう場面にいると「ここでの評価がすべてじゃない」というこれまでのメッセージが弱く感じたんです。今後、私が伝えるものは、もっと強いものになると思うので、待っていてほしいです。
─海外で視野が広がったという意味で、今後やってみたいことはありますか?
柚木:フェミニズムが根底にある小説を書いている日本人作家も知っているのと、たとえば田辺聖子さんのように決してフェミニズム小説として売られていない方でも、みんなロンドンでクール売りをしたらどういう評価を得られるんだろう、と気になっています。きっと、爆売れするんじゃないかって。なので、講演会など話すタイミングがあるときは必ず、「次はこの人が海外で売れるんじゃないか」って必ず言うようにしています。
─たとえばどんな名前をあげているんですか?
柚木:少女小説はシスターフッドなどフェミニズム的なことを初めてメジャーシーンでやった文学だと思っているので、脈々と女性の物語を書き紡いでくれた吉屋信子さんの話はよくします。
あとは、欧米ではファンタジー小説の人気が高いので、『千と千尋の神隠し』に影響を与えたと言われる『霧のむこうのふしぎな町』の柏葉幸子さんや、安房直子さんも人気が出ると思います。安房直子さんの美しいリズムの文体を英語で翻訳してもらえたらうれしいですね。
