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登場人物の感情の繊細な描写

まず言及したいのは、本作が、登場人物の感情の繊細な変化を、いかに、見事な風景描写とともに描き出したか、ということ。例えば、自身の妊娠の可能性を疑い「頭も心も半分くらいいっぱい」な福の不安な心情を、宝との何気ない会話の中に巧みに織り交ぜた第2話での一場面。「妊娠したのではないか」という疑念を何度も打ち消し、ふと脱線して「あの映画もうやってるかな」と思う福のモノローグが、福が纏う新しいシャンプーの香りを巡る宝との会話に重ねられる。そこに宝の「ねえ、はじまったよね、あの映画」という台詞が加わり、福が内心思っていたことと、宝の言葉の一致が嬉しくて、一瞬、福の顔から不安が消える。
もしくは、第4話における、福が、目の前を走っていった子どもが転んで、持っていた風船を空に飛ばしてしまった光景を心配そうに眺めながら「時間が戻せたらいいのに、そしたらもう宝とエッチしない、大人になるまで」と思っている場面。その瞬間、風景が逆回転して子どもが転ぶ前まで時間が戻っていく形で、福の願望が可視化される。母親の「すみません」という声で福は現実に戻り、通りかかった宝が木の枝に引っかかった風船を取ってあげたことで実質、元通りになった様子を目の当たりにする。常に妊娠のことが頭から離れない福の心情と、時間を巻き戻すことはできなくても、幼い頃の宝(湯田幸希)の言葉のように「俺がなんとかする」ことができそうな宝の優しさを垣間見ることができる場面だった。