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目と耳から全身に染み渡る、ホワイトハンドコーラスNIPPONとオルタ4の合唱
ホールに入ると、渋谷によるサウンドインスタレーション作品『Abstract Music』に重なるオーケストラによるサウンドチェックが客入れBGMのようにも聴こえるなか、スポットライトを浴びるオルタ4がわずかに上下し続けている。スピーカーはステージ左右に加えて、客席の真ん中あたりに球体のものが左右1台ずつ吊り下げられ、さらに客席最後方にも左右2台ずつ設置されており、音響面でもかなりこだわった設計がなされているのだろうと感じさせる。
コンサートマスターのバイオリニスト・成田達輝が入場し、公演がスタートする。“この音楽は誰のものか?”は、GPT(※)によって生成されたオーケストラの音群を渋谷が加工 / 編集して作曲され、演奏時にオーケストラのメンバーはスコアで強弱は指定されているものの、フレージングは各メンバーに委ねられている。渋谷、AI、オーケストラそれぞれがアウトプットに介入するというコンセプトの楽曲だ。個人的にはロックバンドのライブにおけるノイズパートの模様に近いというか、各楽器隊ごとに分かれて思い切り「ゴオオオオオオ!」と轟音を鳴らしあう、迫力ある演奏に感じられた。
※OpenAIが開発した大規模言語モデルで「Generative Pre-trained Transformer」の略称。『MIRROR』で披露される楽曲の作詞でも全11曲中、8曲で使用している
続けてファッションブランド「HATRA(ハトラ)」制作のローブを身にまとった、ホワイトハンドコーラスNIPPONのコーラス隊約30人が入場し“箱の中に何がある?”“五人の天使”を披露。同グループは声で歌う声隊と、聴覚障がいのあるメンバーが手話で表現するサイン隊で構成される。楽曲のメロディは、簡潔で譜割がはっきりした、エレクトロニカ合唱曲とも言えそうなものに感じられたが、その声の塊が単なるボーカルエフェクトだけとも違う気がする、脳内に直接入り込む、あるいは全身に染み渡ってくるような感覚を覚える。これが先述した、観客を360度包み込むサウンドシステムの効果なのだろうか。


サイン隊の手話は決まった振り付けがあるが、動作のスピードや強弱は個々が振動を感じ取り、リズムを取るため各自で異なる。だがそのおかげでメンバーそれぞれの個性や熱量を感じ取れるため、より力強いパフォーマンスになっている。“箱の中に何がある?”の歌詞はパンドラの箱がテーマ、“五人の天使”は天使による救済がテーマとなっており、オーケストラによる壮大な演奏も相まってどんどん作品世界に引き込まれる。第一部は20分ほどで終了し、早い幕間となったが、近くの座席からは早くも「凄いものを観せてもらったな……」と感嘆の声が漏れていた。
