『FUJI ROCK FESTIVAL』(フジロック)における「ROOKIE A GO-GO」といえば、新人アーティストの登竜門として多くの音楽好きの注目を集めるオーディションステージだ。
1997年の初開催から数えて29回目を迎える今年も、The xx、Massive Attack、Khruangbinがヘッドライナーを務める本編と並行し、約3,800組の応募から選ばれた15組に、台湾のフェス『ROCK IN TAICHUNG』とのコラボレーション枠の1組を加えた計16組が苗場に集結した。
ルーキーステージは決して本編から切り離された場所ではなく、四半世紀を超える『フジロック』の歴史や巨大なグルーヴと完全に地続きにある。彼らが深夜に繰り広げた熱狂と、ルーキーという存在が提示する『フジロック』の豊かさを振り返る。
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「目指すはメインステージ!」ルーキーに受け継がれる熱
1997年に山梨県・天神山スキー場で産声を上げ、1999年より現在の新潟県・苗場スキー場へと舞台を定着させた『フジロック』。2026年は7月24日(金)から26日(日)にかけて開催され、昨年の熱狂を引き継ぐように、国内外から集まったオーディエンスの笑顔が苗場の地に溢れていた。開催を重ねるごとに進化を続けるフェスとしての姿勢は、ラインナップの幅広さや会場の隅々にまで表れている。
フェスへの参加は現地へのアクセスやチケット代など一定のハードルがあるのも事実だが、実は無料で楽しめるオープンなエリアも存在する。入場ゲート手前にある「THE PALACE OF WONDER」だ。飲食テントやサーカスなどがずらりと並ぶこのエリアに、新人アーティストの登竜門「ROOKIE A GO-GO supported by Levi’s®」のステージがある。

1999年に「Levi’s NEW STAGE」としてスタートしたこのステージは、過去にKing Gnu、Suchmos、羊文学などが出演してきた歴史を持つ。
このオーディションが「新人の登竜門」と言われるのは、『フジロック』という信頼のおけるフェスに出た事実がその後の注目度に直結するからだけではない。選ばれた16組の中から1組が、翌年のメインステージへの出演を約束されるという明確な「次への道」が用意されているからだ。事実、2026年の『フジロック』本編には、昨年のルーキーからテレビ大陸音頭が出演を果たした。
さらに今年のラインナップを改めて見渡すと、ASIAN KUNG-FU GENERATIONをはじめ、cero、My Hair is Bad、Tempalayに加え、KOTORI、SIX LOUNGE、んoonなど、かつてこのルーキーステージを踏み、今や日本の音楽シーンを最前線で牽引する先輩たちが各ステージで堂々たるアクトを披露している。その跳躍を目の当たりにし、「来年は応募しよう」と心に決めたアーティストも多いはずだ。何を隠そう筆者もそこを目指した1人なのである。
このステージには、約3,800組という数字の裏にある、「このステージに立ちたい」というミュージシャンたちの思いが詰まっている。だからこのステージを観るとき、筆者はどうしても選ばれた側の表情、この日にかけているステージで垣間見える熱量を見てしまう。
今年はTuneCore Japanを通じて約3,800組の応募が集まり、15組が選出された。さらに『ROCK IN TAICHUNG』とのコラボレーションにより同フェスから1組が加わり、以下の計16組が出演した。
【「ROOKIE A GO-GO」2026年 選出アーティスト】
・7月24日(金):和泉眞生 / GeGeGe / Bone Us / 砂の壁 / TIVE
・7月25日(土):A Root同根生(From ROCK IN TAICHUNG) / mayu / 日髙晴野 / Tocago / 猿臂 / 二兆円
・7月26日(日):岩崎桃子 / OLDMAN / SYAYOS / Wappen / It’s US!!!!
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1日目、本編から連鎖するグルーヴと、夜に寄り添うグッドメロディ
初日のヘッドライナーを務めたThe xxは9年ぶりの来日公演で、GREEN STAGEを圧倒的な音響で巨大なクラブへと変貌させた。その熱を帯びたまま、RED MARQUEEではmaya ongakuが深夜の空気に溶け合うように音を鳴らし、フロアの一人ひとりの内に深いグルーヴを育てていた。
その深夜のルーキーステージには、ブルーグラス由来のマルチ楽器奏者・和泉眞生、金沢発のローファイ・プロジェクトGeGeGe、大阪のハードコアバンドTIVEらが出演。
なかでも本編からの流れを完全に汲み取り、内に生み出されたグルーヴを深夜のゲート前で一気に外へと解放させたのがBone Usだった。
2025年10月に結成された名古屋拠点の4人組である彼らは、人力で演奏するミニマルテクノをリアルタイムでダブミックスするという唯一無二のスタイルを持つ。深夜の空気とともに放たれたそのパフォーマンスは、ふらっと立ち寄った人々をも巻き込み、辺りをダンスフロアへと変えていた。最後にはゲストとしてダンサーであるBOXERとJenesの2人をステージに上げ、圧巻の演出を見せた。
その熱気を引き継ぎつつ、全く違うベクトルで観客を魅了したのが砂の壁だ。神戸の大学で出会ったメンバーがそれぞれ上京し、現在は下北沢を中心に活動する彼ら。ギターとキーボードを中心とした編成から放たれるのは、日々の営みや都市生活の風景を描き出す日本語ポップスの系譜を受け継いだ、浮遊感のあるサウンドだ。深夜まで踊り疲れた人たちの身体に染み渡るようなグッドメロディを届け、帰り道の通りすがりの人が思わず足を止め、じっと聴き入っている姿が印象的だった。
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2日目、静かな熱量から、フジロックらしいロックフィールへ
2日目の7月25日(土)は、『ROCK IN TAICHUNG』枠で出演した台湾のバンドA_Root同根生、東京拠点のシンガーソングライターmayu、自身で作編曲を手がける猿臂、長野・松本発の二兆円も出演。ここでは、なかでもそれぞれ異なるアプローチで強い記憶を残した2組をピックアップしたい。
日髙晴野は、7弦ガットギターの弾き語りで登場。ステージ上で座っているためステージに多く集まった人たちの後ろ姿に隠れて、最初はどこにいるのか分からなかったが、ステージに近づくにつれ、その声に完全に惹き込まれた。囁くように、唱えるように、流れるように歌い上げる彼女の歌声は極めて繊細でありながら、奥底から湧き出る力強さをひしひしと感じさせる。
最後の曲“春の身体”では、彼女のフィーチャリング楽曲でも共演しているバンド・砂場泥棒がサポートにつき、バンドでの演奏を披露。オルタナティブでノイジーなサウンドが加わることで、力強さだけでなく繊細さも、互いに惹かれ合うようにして増幅し、深夜の苗場の夜空に響き渡っていった。
続いて登場したTocagoは、歌声の芯の強さが際立っており、ロックフィールを最も感じさせる、まさに「フジロックらしさ」を体現するバンドだ。GuibaやSouth Penguinでも活動するドラマー礒部拓見や、ギターの森飛鳥など、実力派メンバーが揃う彼ら。キャリアのあるメンバーが奏でる、力強い演奏は、夜が深まるにつれて冷えていく観客の体の底の温度をじわりと上げていく。自然や街、そこにある暮らしを愛し、それゆえにこぼれ落ちる痛みを優しく思い起こさせるような、包容力のあるステージだった。
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最終日、雨の苗場に響き渡るSYAYOSの轟音と衝動
1日中雨が降り続き、フェス全体の疲労がピークに達する最終日の深夜。この日には福岡在住のシンガーソングライターの岩崎桃子、東京の4人組ロックバンドOLDMAN、5人組のWappen、フィリピンにルーツを持つメンバーを含むユニットIt’s US!!!!も出演。そのなかでも、オーディエンスの目を完全に覚まさせたのがSYAYOSだった。
奇しくも同じ最終日の本編に出演していたAmerican FootballやMogwaiといったオルタナティブ、シューゲイザーの流れを色濃く汲んだ轟音サウンドで観客を魅了していく。降りしきる雨の中で演奏する彼らの姿は、確実にその偉大な系譜の中に彼らが存在していることを感じさせた。
最後はアンセム“Spaceboy”をドロップし、観客のボルテージを最高潮へと引き上げる。それに呼応して、オーディエンスは降り頻る雨に逆らうように地面を踏み鳴らし拳を突き上げる。彼らが鳴らす重厚なスケール感の前に、「もっと大きな音で聴きたい。このステージのサイズでは勿体無い」とすら思わせる圧巻のライブだった。