小泉今日子×小林聡美の名コンビを好きにならずにいられないドラマ『団地のふたり』(NHK総合)が終わってしまう。
NHK BSで2024年に放送されたドラマの再放送ながら、その内容は古びることなく、更に時を経たからこその深みが増している本作。
第6話以降の後半も、イラストレーター・中澤暖(眞島秀和)や空ちゃんの母・結城祐子(市毛良枝)が登場し、昭和な団地「夕日野団地」を中心とした物語は更に広がっていった。
最終回を前にして、夕日野団地の建替え計画が進み、団地と団地住民の今後も気になる本作について、ドラマ・映画とジャンルを横断して執筆するライター藤原奈緒がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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小泉今日子が『セーラー服と機関銃』パロディをした第9回

『団地のふたり』が最終回を迎える。小泉今日子演じる野枝による映画『セーラー服と機関銃』パロディで幕を開けた第9回は、コミカルながら切ない、夕日野団地の「夕暮れ時」を描いた。団地の建て替えがほぼ決定し、団地の住民の代表格とも言える福田(名取裕子)に続き、佐久間(由紀さおり)までもが団地を去り、奈津子(小林聡美)も団地を出て行く可能性が浮上する。沈む夕陽を眺めながら「さよなら、夕日野団地」と心の中で呟く野枝と奈津子を見ていると、本作がこれまで描いてきた「団地」について、考えずにはいられなかった。
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団地ならではの「ご近所付き合い」の良さ

『団地のふたり』が描いてきたのは、ゆるやかな共生の在り方だ。たまに喧嘩もするけれど、ほぼ毎日会って、夕ご飯を一緒に食べ、尽きることのないお喋りに花を咲かせる野枝と奈津子の、持ちつ持たれつ、無理のない関係性。時には上の世代である佐久間や福田からのお願い事を聞いて、網戸を治してあげたりもするし、そのお返しに宅配ピザを振る舞ってもらったり、心ばかりのお礼の入ったポチ袋をもらったりもする。
若い世代との交流もある。第5回で元ヤン風若夫婦・沙耶香(田辺桃子)と翔太(前田旺志郎)の相談役を担うことになる野枝と奈津子。沙耶香からすれば「マインドが若く」話しやすい野枝と奈津子が間に入ることによって、気づけば若夫婦は団地に馴染み、団地の中でも特殊な存在だった寡黙な「クレーマー」東山(ベンガル)の意外な一面を知るきっかけにもなる。
団地に引っ越してきた小学生・春菜(大井怜緒)と父・賢一(塚本高史)との関係性にも進展があった。それまでの野枝・奈津子と春菜は、時にご飯を一緒に食べたり、夏祭りのカラオケ大会で一緒に踊ったりする、年の離れた友達のような気負いのない関係だったが、第6回では、思春期を迎えた娘との接し方に悩む賢一から「母親代わり」のサポートを依頼されることに。子の成長を、(あくまでさりげなく)支えてくれる大人たちが親以外にいるということは、ひとり親世帯にとって、どれほど心強いことだろう。本作が夕日野団地の人々の生活を通して描くのは、現代において失われた「ご近所付き合い」の良さだ。
そしてそれは、人々の生活スタイルが多様化した今まさに必要とされていることではないだろうか。『団地のふたり』と同じく、団地暮らしをする主人公と近所の人との交流を描いたドラマ『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合)もまた、多くの視聴者からの支持を得て、特別編『しあわせは食べて寝て待て~早春の養生編~』が2026年8月に放送されたことからも、今多くの人が「団地的なもの」を求めていると言えるかもしれない。
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団地を中心に見た日本の歴史を映す

そして、本作の興味深いところは、ただ「団地暮らし」を描いただけでなく、その背景にある歴史を描いたことだ。例えば、第8回で東山が語る団地の歴史。東山は学生の頃、かつて夕日野団地の設計に関わった教授の研究室にいた。彼は、夕日野団地の歴史に留まらず、団地そのものの成り立ちと、団地の建設に関わった人たちの想いについて語る。続く第9回では、団地を去ることを決意した佐久間が、最も団地が栄えた時期である高度経済成長期から、53年住み続けてきた団地への想いを語る。同時にそれは、現在は1人で暮らす佐久間の家族の歴史でもあった。2人が語る当時の光景は、過去の記録映像を交えて映し出されたが、それは架空の団地「夕日野団地」の歴史というよりは団地そのものの歴史であり、団地を中心に見た日本の歴史そのものだった。
また、第8回終盤の、野枝と奈津子が偶然見た「古い映画」の中にあった「女優をやっていた若き日の福田の映像」として、福田を演じる名取裕子が出演する1980年代のドラマ『万葉の娘たち』(NHK総合)が流れたのも、「キョンキョンが薬師丸ひろ子のパロディをする」ことと同じく、当時を懐かしく思う視聴者へのサービスシーンであると共に、その人物の歴史そのものを、より現実に近いものとして示すためのものだったように思う。
気づけば、本作における「夕日野団地」は、フィクションとは思えないような、確かな歴史の上にどっしりと根を下ろした厚みのある場所に感じられるようになっていった。だからこそ、「団地の建て替え計画」という現実に際し、「ここに暮らす家族の生活も、思い出も全部なくなっちゃうのかなあ。それってなんか、自分の故郷がダムに沈んじゃうみたい」という第8回の奈津子のつぶやきが、より重く響くのである。
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第6回終盤、野枝と奈津子の忘れられない場面

忘れられない場面がある。第6回の終盤、野枝と奈津子は、日本の女性の平均寿命を基準に自分の人生の残り時間の長さを考える。「気が遠くなるほど長い」と言いつつ「なんでもできそう」だと考え、「言っちゃったらなんか夢が叶わないような気がするから」と本当の夢を心の中に留める。奈津子の夢はきっと、書き溜めている「空ちゃん」のイラストを元に絵本を描くことなのだろう。野枝もまた、依頼されたエッセイ連載の仕事と向き合っている。心が前へ前へと向かっていく2人はモノローグを通じて会話する。
「なっちゃん、私こんなにやる気になってどうしたことだろう」
「いいんじゃない、あと32年あるんだから。のんびりやれば」
「そう、人生はまだまだ長い。もんね」
2人の会話に重ねるように、奈津子の描いた「花を見つめている空ちゃん」の絵が映し出される。彼女たちは、自分たちのこの先の「長い人生」に思いを馳せると同時に、小学生の頃に小児がんで亡くなったもう1人の幼なじみ・空ちゃんのことを思う。それはいつも同じで、2人は第1回でも、自分たちが「105歳まで生きたら」と想像してふざけ合いながら、「年を取らない」空ちゃんのことを思っていたのだった。
第9回終盤で「空ちゃんがもし向こうから駆けてきて“遊ぼ”とか言ったら、“何する?”って答えるつもりだったんだよねえ。空ちゃんともう一緒に住めなくなっちゃうのか。そっか、そういうことか、団地がなくなるって」と奈津子は言う。それは、第1回で野枝が言った「私ね、今も時々、空ちゃんはまだここにいて、“遊ぼ”って言ってるような気がするんだよね」に呼応している。