9月25日に公開され話題となっている、深田晃司監督による松たか子主演映画『ナギダイアリー』。
『第79回カンヌ国際映画祭』コンペティション部門への正式出品でも世界的な注目を集めた本作を、ドラマライターの西森路代がレビューする。
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自衛隊の訓練音と防災無線のラジオ。静かな町「ナギ」に溶け込む現代の気配
このところコンスタントに作品を発表している、深田晃司監督の新作『ナギダイアリー』は、2026年の『カンヌ映画祭』のコンペティション部門にも正式出品され、同年5月13日にワールドプレミア上映されたことでも話題となった。
物語は、ナギという町で、彫刻家をしている寄子(松たか子)の元に、弟の元妻で建築家の友梨(石橋静河)が、彫刻のモデルをするために訪ねてくるところから始まる。道に迷いかけていた彼女に声をかけたのは、高校生の圭太(藤原聖)。そして、彼の親友の春樹(川口和空)は、寄子の同級生の井口好浩(松山ケンイチ)の息子であった。

町の近くには自衛隊の駐屯地があり、映画の冒頭には自衛隊の車が何台も走り過ぎる。普段は静かな山間には、ときおり自衛隊の訓練の音が。寄子のアトリエでは防災無線のラジオ番組がかかっており、自衛隊での訓練の予定などを伝えている。
テレビの中からは、ロシアとウクライナのニュースが聞こえてくる。そのことがストーリーに直接的に作用するわけではないのだが、こうした描写があることで、これが現代の話なのだなと思わせるところがあった。
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建築と彫刻。対照的な表現を志す「元義姉妹」の対話から滲む哲学

寄子と友梨の関係は不思議だ。友梨は寄子の弟と離婚しているのだからふたりが疎遠になっても不思議ではないのだが、現在になっても交流が続いているし、弟と別れた理由についても、寄子はかなり率直に聞く。
最近の、女性が女性と知り合って一緒に選挙運動を行ったり(『銀河の一票』(2026年))、女性と女性が知り合って亡くなるまでの数週間を密に過ごしたり(『急に具合が悪くなる』(2026年))する作品には良いものが多いが、本作も、主人公と、その弟の元妻という、なかなか関係を続けることのなさそうな2人が短い間ながら共同生活をしていく中に見える独特の良さがある。
寄子と友梨の会話は染みる。寄子の弟も友梨も建築家をしているのだが、友梨は結婚していた当時彼の作った建物を見て、ゆるぎない自信と歴史を感じていた。しかし自分にはそれがなく、ずっと誰かに合わせてサポートをしてきたことに気付く。その会話が、本当に我が事のように響いてきた。その後に友梨は、彫刻は建築と違い、権力や選択と無関係だと語る。

こうした会話は、誰と誰が出会ってこうなりましたーーという「エピソード」のような話ではなく、ひとつのエピソードからどのように感じて考えたかという、思想や哲学のような話になっていっているようで、非常に面白かった。
これは、同作と同じく『カンヌ映画祭』のコンペティション部門に選出され、最優秀女優賞を受賞した『急に具合が悪くなる』にも感じたことだ。