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坂本龍一が晩年に考え続けた「時間」と人生
─「時間に追い立てられる時間と、そうでない時間」という日記の記述があります。田中泯さんも出演された『TIME』(※)のように、晩年の坂本さんにとって、時間というのはひとつの大きなテーマだったように思います。大森さんはこれについてどう思われますか?
大森:やっぱり向き合わざるを得なかったテーマというか、ストレートに「時間って一体なんなんだろう?」ということを知りたかったんじゃないですかね。
※筆者註:坂本龍一と高谷史郎(ダムタイプ)による舞台作品。「時間」をテーマに、坂本の一周忌である2024年3月に日本初演。夏目漱石の『夢十夜』が朗読で引用されている

大森:「追われる時間~」は吉田健一さんの『時間』(1976年初版)という本から引いてるのと、あとカルロ・ロヴェッリ『時間は存在しない』(2019年)なども読んでいらっしゃったようですね。
それと、「夏目漱石は49歳、森鴎外も61歳で亡くなって、70歳の自分はもう余生で、この時間をどう過ごすか」というようなことは、晩年のインタビューなどでも繰り返しおっしゃられています。時間、それも一直線(リニア)に進む時間ではなく、ノンリニアな時間といったものが、最後に興味のあったテーマのひとつなんだと思います。

『Ryuichi Sakamoto: Diaries』より / © “Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners
─日記の中で、何度か、これまでの人生を悔いる述懐が出てきますが、坂本さんは何を「後悔」していたんだと監督は思いますか。
大森:うーん、何なんでしょうね。承認とか、名声とかそういうものではないと思うんですけど……やっぱり、常に満足しない方だったんじゃないかと思います。満足したらもう、作品も作らないと思いますし、常にそういう「渇き」があったのかもしれないと感じます。これはあくまで私の推測で、本人が聞いたら「何言ってんだよ」と言われるかもしれませんが。
─音声のみの出演ですが、細野晴臣さんが「YMOにしても、音楽的にやれることはまだまだあるのに」と、かつてのメンバーの死を嘆くシーンも印象的でした。
大森:やはり、生きている限り音楽は作り続けていたでしょうからね。

『Ryuichi Sakamoto: Diaries』より / © “Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners