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立候補した理由と自分なりのアンサー
―さっき音楽に関して「自分が格好いいと思うやつに格好いいと思われたい」との発言がありましたが、とはいえ小袋さんが立候補したことに関して、いわゆる公益や政治とその考え方は水と油のような気もするんですけど。
小袋:だから挑戦だったんです。「そういうこと」を言ってられないのが政治じゃないですか。格好いいとかどうでもいいし、いろんな人のいろんな意見がある中で「私の生活」を知りたかったんですよ。とはいえ「314個も看板があるような公園はダサくないか」っていうのは、胸張って言わなきゃいけないから。
自分が格好いいと思うものをベースに生きてきて、そこからダサい世界に踏み込むことで、その世界がどうなるか、自分がどうなるか、自分の考えがどれだけ合っているのか、トンチキなのかを試したかった。人間の基本的な人権である被選挙権を行使しただけですし。そんな格好つけるなとか、ポケットに手を入れるなとか腕組むなとか色々言われて、どつかれたりもしたけど、それもいい経験。自分の考えが(得票率の)8.5%ってわかって良かったです。
―とはいえ、当然受かるつもりで立候補したんじゃなくて?
小袋:そうですね、でも2日目あたりからもう勝算ないなって思いましたよ。実際に街頭演説をやってみて「関心の無さ」を痛感しました。普段一生懸命生きてたら政治なんか興味ないし、駅前に立つ開発のビルに何百億使われてるかなんてどうでもいいし。完成したら「ビルができたね」で終わるから。その「無関心さ」を知ると、14日間で(さいたま市の人口)130万人が心動くわけがないよね。それは2日目ぐらいで悟りました。でも自分が始めたことだから、最後まで自分がやるべきことをやるのが大事だし、だから途中から「自分らしさ」との闘いになったんです。どこまで自分らしくいられるか、自分らしくいられなくなったのが今の日本の全体的な雰囲気だと思うから。誰かをダサいとかあんま言わないし、言わないようにしているし、全部肯定するように心がけてます。みんながそれぞれ「自分らしくいられるような社会」を作りたくて、その先陣を切りたかったんだけど、なかなか伝わらなかった。

―4th Album『Zatto』のジャケットは街中で「社会の話」をしているコンセプト。「社会」生活だったり……
小袋:戦争とかね。でも、こんなに外国人問題が大きなトピックになるとは思ってなかった。この前の参院選でもそうでしたけど、さいたま市長選の時からちょっとずつ兆候はあったんです。ずっとロンドンにいたわけだから、その現状というか、話題性をキャッチできてなかったのは、時代の風を読めてないんだなって思ったし。参院選も蓋を開けてみればあれだけ外国人問題が槍玉に挙がっていたわけで、特に埼玉はその震源地みたいなところがあるから。本当は日本に帰って住むつもりだったんだけど、自分の地元がそういう状況になっているのはショックでした。
そうやっていろんな衝突があるからこそ、文化が大事なんだと思うし、だからサッカーや音楽が大事なんだよ、野球も大事なんだよっていうことを言いたかったんだけど、今はあまり胸張って言える街じゃないから。これは今の時代の風が自分の考えと違うんだなと思って。もう少し海外で修行しようと思って、ちょっと今また埼玉離れてるっていう感じです。
これは日本だけじゃなくて、自分たちが「他の国にいじめられてる」みたいなレトリックは、アメリカでもイギリスでも、少なくとも西欧圏ではよく見られるパターンで、だからこそブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)が起きたし、イギリスもどんどん移民を締め出してるし。「船を動かす風」というのは自然の流れで、風をどう掴んで、どこに行くかということでしかないから、今は帆をたたんで、その帆を補強して、いつでも風を掴めるようにマストを立てておく、そういう状況だと思う。
でもまあ、俺はやったから。少なくとも俺はチャレンジして、言いたいことを身銭切って言ったわけだから。「お前が街をダメにする」とか言われることもあるけど、今まで絶対に出会えなかった人に出会えただけで人生の糧だし、それで人に優しくなれるから。
―世の中的には「(外国人に)優しくしちゃダメ」ぐらいの雰囲気をどうしても感じちゃうんですけど、なんでこうなってきたんですかね?
小袋:なんでなんでしょうね……レゲエを聴いてないんじゃないんですか? マジで(笑)。レゲエをデカい音で聴いたことないからだよ、ハウスミュージックをまだ知らないんだよ、きっと。クラブに行ったことない人にマジで行ってほしい。いまだに怖いと思ってる人が結構いるみたいで、大きな音で音楽を聴く、それにカラダを揺らすって自分を肯定する行為と全く一緒だから。
この素晴らしさは早く皆に知ってほしいし、恥ずかしいと思いがちかも知れないけど、真っ暗だから人の踊りなんか誰も気にしないし。そう、それをまず体感してほしいし、レゲエも体感してほしい。レゲエとかダブを大きなスピーカーで聴いて「音の物理」というものを感じて、これが「魂の震え」なんだということを体感して欲しい。誰が何を考えていようと、ひとつの音楽のもとに一緒になる、ということは大事。あの場が神聖なの、音楽って人類の発明だから。じゃなかったら未だにお互いの村を襲って、奪い合ってたよ。いろんな国籍のいろんな人達が集まって、一つの音楽を奏でるってことの素晴らしさって、政治家にはできないわけで。『Zatto』でも体現したけれども、これまで音楽とずっと関わって生きてきて、せっかくイギリスに住んでいるわけだから、それを引き続きやっていくってことがこの社会に対する俺のひとつのアンサーです。