もともと内向的で、ひとりの時間が好き。時間が過ぎていってしまうのが寂しくて、過去にばかり目を向けていたという写真家の川島小鳥だが、高校生でカメラに出会い、気持ちが外に向き、「今」を見つめるようになった──川島はカメラを通して、自分自身がどんどん変わっていったという。
カメラに夢中になったのは、大学生の頃に出会ったひとりの友だちがきっかけだった。遊びの延長のような時間を過ごし、ふたりの関係をつなぐように写真を撮りながら、一緒に好きな世界観を作っていく。その時の「楽しさ」が川島の写真の軸となり、揺れたり迷ったりしながら日々を歩んできたそう。
自分のありかたに迷いを持っている人が「自分のスタイルを持つ」ことを応援するXiaomiのプロジェクト「今こそが、わたしのスペシャル。」では、川島にLeicaと共同開発したカメラシステムを搭載したスマートフォンXiaomi 15T Proで、自由に撮影してもらった。『BABY BABY』から『ソウルメイト』までの作品づくり、そして今回撮り下ろした写真を振り返りながら、写真の奥にある心の揺れを見つめた。
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写真家。早稲田大学第一文学部仏文科卒業。写真集に『BABY BABY』(2007)、『未来ちゃん(2011)、『明星』(2014)、谷川俊太郎との共著『おやすみ神たち』(2014)、『ファーストアルバム』(2016)、小橋陽介との共著『飛びます』(2019)、『violet diary』(2019)、『おはようもしもしあいしてる』(2020)、『(世界)²』(2021)。『サランラン』(2025)。第42回講談社出版文化賞写真賞、第40回木村伊兵衛写真賞を受賞。現在ソウル美術館にて個展「サランラン」開催中。
カメラによって変わった自分。心の動きに敏感に
─今回、今の自分のありかたに迷いを持っている人が「自分のスタイルを持つ」ことを応援するXiaomiのプロジェクト「今こそが、わたしのスペシャル。」に際してのインタビューです。川島さんは「今こそが、わたしのスペシャル。」と聞いて、どのようなことを思い浮かべましたか?
川島:写真は「今」を撮るメディアなので、だんだんと自分自身も「今」をすごく見るようになりました。
─もともとは、どういう視点や時間感覚を持っていたのでしょうか。
川島:写真をはじめる前は、もっと過去に戻りたい気持ちが強かったです。小学生の時は幼稚園時代に戻りたかったし、中学生の時は小学校時代に戻りたかった。あの頃の方が幸せだった、とかそういうことではなくて、時間が経つのが嫌だったんです。言葉にするなら、全部過ぎ去っていってしまう「寂しさ」みたいなことかもしれない。「この時間が止まればいいのに」って思うこともありました。
─川島さんの写真はまさに、過ぎ去っていってしまう「今」を撮っておかなきゃ、という儚さや使命感を感じます。
川島:高校生の頃に写真を撮りはじめたんですけど、その頃から「今日の自分は、明日にはもういない」という感覚がありました。ふと寂しくなるけれど楽しいときもあって、過ぎていく時間を残したかった。文章や絵で表現をすると、自分と距離が近すぎるというか生々しくて、表現としてあまりしっくりこなかったんです。
でも、写真は現実と自分との間にひとつカメラという機械が挟まって距離感がちょうどよくなる。はじめから「いいな」と感覚的に思っていました。

─どういうときにシャッターを押したくなりますか?
川島:なんでもないものに惹かれます。盛り上がっているより、日常の一部というか、もっとささやかな変化を撮りたい。僕の場合は、被写体の方と散歩をしたり、長い時間を共有して写真を撮ることが多いんですが、ふと心が動いたときにシャッターを押します。カメラをはじめたことで外に目が向いて、自分の心の動きにも敏感になれた気がします。
─レンズは必然的に外に目を向けるものですもんね。
川島:もともとの性格は内向的なんですけどね。大人しくて、自分の世界で完結することもありました。でも、カメラによって自分がどんどん変わっていくから、僕は「カメラ治療」って呼んでいます(笑)。
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『BABY BABY』で見つけた、「遊びの延長」で作品をつくるスタイル
─写真家としてご活躍されている川島さんですが、年齢やキャリアを重ねるなかで、ご自身の写真の「スタイル」についてどのような変遷があったのでしょうか?
川島:10代の頃に写真が好きになって、いろんな写真家さんの作品をたくさん見ました。僕が高校生だった1990年代後半は雑誌文化でしたし、写真集もたくさん出版されていたので、触れるものも多かったんです。でも写真が好きだからこそ、似たスタイルにはならないように意識していた時期はありました。当時は写真以外にも、映画や漫画といった好きなものから自分の好みの「感じ」を見つけていった気がします。

─第10回新風舎・平間至写真賞を受賞した写真集『BABY BABY』(2007年)からずっと、川島さんは人物写真を中心に撮られていますが、人物にカメラを向けるようになった経緯はどんなことでしょうか?
川島:以前は人を撮るのが恥ずかしくて、道端の電柱や置き物など、人以外のものばかり撮っていました。でも、大学で『BABY BABY』のモデルをつとめてくれた友だちと出会い、その子を撮るようになってから、写真を撮ることがものすごく楽しくなったんです。ふたりとも好きなものが一緒で、好きな映画や漫画の話ばかりしていました。時間がたくさんあるので、延々とおしゃべりをしながら写真を撮る。被写体とカメラマンという関係ではあったんですが、遊びの延長で一緒に好きな世界観を作っていくような感覚でした。それ以来、このやり方で人物を撮ることが自分のスタイルになっています。
─カメラを向けると、被写体との関係に距離ができてしまいそうですが、川島さんにとってカメラは、むしろ関係を深めてくれるものなんですね。
川島:被写体とカメラマンという二項対立ではなくて、カメラがあることで関係をつないでくれる感じがします。写真を撮ることが会う理由になるし、お互いに好きなことを通じて共感し合ったり興味がわいたりして、一緒にものづくりができる。
─『BABY BABY』は川島さんのスタイルを確立する、ターニングポイントだったんですね。
川島:そうですね。あのときの感情を、ずっともち続けてたいです。
─そのためにご自身のなかで、写真を撮るときに決めていることはありますか?
川島:写真はなんでも撮れるものだからこそ、やらないと決めていることはあります。たとえば、ロケハンは苦手です。事前に撮影場所を見てしまうと感覚が変わってしまうというか、自分には合っていない気がします。計画するよりも「今がスペシャル」と思いながら、心が動いた瞬間を撮りたいです。

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『明星』や『未来ちゃん』は人との出会いから。「葛藤しているときこそ、大事な人と出会う気がする」
―被写体にレンズを向けることで撮影者が自分本位になってしまう難しさも語られますが、川島さんはカメラを味方にしている。撮影するときに、どんなことを心がけていますか?
川島:カメラを向けた先と、できるだけ境界線を薄めたいと思っています。どうしてもカメラマンって上の立場になりがちですが、若い頃にお世話になっていた写真家の沼田元氣さんがよく、写真を撮る人は全然偉くなくて、被写体をしてくれる魅力的な人のおかげで写真が撮れるのだから絶対に勘違いしないで、と仰っていたんです。本当にその通りで、台湾で撮影した『明星』(2014年)はまさに、台湾で出会った人たちのおかげでできあがりました。
─『明星』は、ひとりの被写体ではなく、様々な人物が登場します。一人ひとりの背景を知らなくても魅力的に写っている。そういう人を引き寄せるのは、感覚的なものですか?
川島:感覚的なのですが……なんというか、もっと必死な感じですね。執念? といいますか(笑)生きている中で大きな壁にぶち当たることってあるじゃないですか。そんな感情がぐちゃぐちゃしていたり、ハテナを抱えていたり、自分のなかで葛藤しているときこそ、人と出会う気がします。
『未来ちゃん』(2011年)の時も、当時30歳手前だった僕にとって大きな出会いでした。僕は子どもの頃から東京で育って、便利な生活があたり前になってしまっていた。すぐにコンビニに行けるし、エアコンも快適。それに対して、未来ちゃんが住んでいる佐渡ヶ島の人たちの暮らしは、昔ながらの暮らしでした。五右衛門風呂に入り、家は茅葺き屋根で天候に左右される。不便だけれど、そこには本当の豊かさがありましたし、そこで暮らす未来ちゃんも、ものすごく人間らしくて。笑ったり、ふざけたり、泣いたり、怒ったり、素直に感情を表現しているのがカッコよかった。未来ちゃんを鏡にして自分を見てみると、そういうことをできてないなと思う部分もあり、「あこがれ」の気持ちも持ちながら写真を撮っていました。

─『BABY BABY』、『未来ちゃん』など作品づくりがターニングポイントとなり、ご自身に向き合ってきたのだと思いますが、近作『ソウルメイト s(e)oul mate』では盟友である臼田あさ美さんと、キャリアの転換期を迎えるもの同士の揺れ動く感情 / 覚悟を映し出していました。幾度目かのターニングポイント、どのような葛藤を抱えられていたのでしょうか?
川島:仕事も私生活も行き詰まっていたというか、いっぱいいっぱいになっていた時期に、たまたま、ソウルに滞在していた友だちから「遊びに来ないか」と誘われて。気分転換がしたかったのですぐに向かいました。
ひとりで街を歩いていると、言葉が読めないから異国感があって、歩いているだけで清々しい気持ちになったんです。そこから、東京の生活から逃げるようにして、毎月韓国に行くようになりました。
ひとりで行って、散歩をして帰ってくる。そのうちに、この場所で作品を撮りたいと思うようになりました。実は、高校生の頃に、2週間だけ交換留学で韓国に行ったことがあって、冬のはじまりの季節が印象的だったんです。その様子も思い出して、「もう一度ここで写真をはじめよう」と。初心に帰るような気持ちで作ったのが『ソウルメイト』でした。
─もう一度写真をはじめるパートナーとして、臼田あさ美さんをソウルに誘ったんですね。
川島:あさ美ちゃんとは『みつあみ』という3人の写真家が集まった写真集で会ったのがはじめてで、それからは友だちとして仲良くなりました。そこから、何度かあさ美ちゃんを撮らせて頂く機会もあったんですが、お互いにとって「写真を撮る」というのは特別なことでした。
今回のソウルでは、僕から急に「写真を撮らせてほしい」と連絡をしたんですが、あさ美ちゃんも「なにかあったのだろう」と察してくれて、すぐに時間を作ってくれました。ソウルで3回撮影をしたんですが、あさ美ちゃんをこう撮ろうっていう雑念みたいなものが邪魔だなと思って、行く場所も決めずひたすら歩いて、写真を撮ることに集中しました。
─感情はどんな風に動いていたんですか。
川島:ずっと泣いていました。悲しい涙というよりも、一緒に歩いた時間がずっと美しかったんです。その時、自分たちの中にはあえて言葉にするなら「寂しさ」があったんですが、ソウルにいる間はそういうことを一切話さず、なんでもない話をして、タッカンマリを食べて、素敵な人に出会って、綺麗な景色を見て過ごしました。そういうことが、うれしかったのかもしれないです。
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川島小鳥がLeicaと共同開発したカメラシステムを搭載のXiaomi 15T Proで撮り下ろしたのはどんな写真?
─今回、Leicaと共同開発したカメラシステムを搭載のスマートフォン「Xiaomi 15T Pro」で撮影いただいた写真は、モデルのNeo Nonoyamaさんと名古屋や大阪で撮られたものです。彼のどんなところに惹かれたのでしょうか?
川島:何年か前にNeoくんを撮らせてもらったことがあったんですが、年が離れているのにフィーリングが合うなと思っていました。Neoくんが中国から帰国したタイミングで連絡をして、名古屋に会いに行きました。ふだんの撮影と変わらず、おしゃべりをしながら散歩をして、ひつまぶしを食べて、また歩いて。『BABY BABY』の時と同じで、遊びの延長のような時間を過ごしながら一緒に撮影をしました。
その場で出会ったもの、撮りたいと思える場所、そういう新鮮な気持ちを大事にしました。

─カフェで寝そべっているところも、リラックスされていましたね。
川島:ここは、Neoくんがもともとバイトしていた大阪にあるカフェなんです。学生の頃からアルバイトをしていて、その時の話を名古屋で聞いて思わず「今から行ってみる?」って。この場所で、僕たちは何回か会ったことがあったので、撮るならこのカフェなのかもなとは思っていました。日が傾くまで、たくさん喋りました。

「ひさしぶりに会ったのでずっと喋っていたら、向かいの建物の照り返しで一瞬光が窓から入ってきて、その瞬間に『撮りたい』と思いました。5分くらいしかなかったんですけど、光はいつでも気になりますし、綺麗に撮れておどろきました」
─今回はLeicaと共同開発したカメラシステムが搭載されたXiaomi 15T Proを使用していただきましたが、使い心地はいかがでしたか?
川島:ふだんからフィルムのLeicaを使っているんですけど、Xiaomi 15T Proはレンズが3つもあって、どんな風に撮れるのか気になっていました。まず、115mmの望遠レンズを使用して、5倍ズームをしたときの質感におどろきました。繊細で綺麗に映りますよね。僕はふだん望遠レンズをあまり使わないので楽しくなって、たこ焼き屋さんのふだん撮れない手元もたくさん撮ってしまいました(笑)。

川島:あと、フィルムだとペタッと平面的になってしまうのですが、これは立体感がある。光の映り込みも綺麗でした。

─人物以外にも、蜘蛛の巣や植物など身の回りの景色も撮ってくださったんですが、中にはブルーのフィルターがかかったような写真が。
川島:機械が得意ではないんですけど、カメラの機能をいろいろ試して特徴や個性を見つけるのが大好きで、『ソウルメイト』のときも10台くらいカメラを持っていったんです。Xiaomi 15T Proもカラーフィルターやモードなど、いろんな機能が入っていたので楽しかったです。

─Xiaomi 15T Proの特徴や個性は、どんなところに感じましたか?
川島:画質でしょうか。色の綺麗さが僕にはしっくりきて、光のとらえかたも好きでした。夜も、暗い車内でも綺麗に映るので、この携帯で映像作品も作れそうだなと思いました。
─「遊びの延長のような時間を過ごして、一緒に好きな世界観を作る」と仰っていましたが、まさに川島さんの写真は被写体が構えることなく自然体で、のびのびとしているところに魅力を感じます。相手の感情や情緒を自然に捉えるために、意識していることはありますか?
川島:意識していることはないですが、撮ること、それ自体が楽しいっていう気持ちが根底にあるかもしれないです。一緒にその時間を楽しんで、撮影したい。ふつうにおしゃべりをしていて、「今いいな」と思ったら急にカメラを向けるんです。

─こちらの写真も、正面から撮っているのに自然体な表情や雰囲気が素敵です。
川島:この日がすごく暑かったので、シャツを日傘代わりにしていたんですね。その姿がいいなと思って、撮りました。たまたまウィンクしてくれていましたね、ラッキー。モノクロ撮影もよくするんですが、色の出方がよかったです。

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迷っているときこそ、自分に向き合えるチャンス。揺らぐことは、素敵なこと
─壁にぶつかったり、ハテナがいっぱい浮かんだり、過去の川島さんのようにどうしようもなくトンネルから抜けられない状況にいる人や、今の「自分のスタイル」に迷っている人に向けて、最後にメッセージをいただけますでしょうか。
川島:僕は、揺れている人がすごく好きなんです。迷ったり悩んだりすることって誰にでもあるじゃないですか。その状況に対して、戸惑いながらも向き合っていることって、実はすごく素敵なことなんじゃないかと思っています。
自分の過去を振り返ってみても、葛藤しているときほど大事な出会いがあった気がしますし、悩みというのは、自分がより良くなるためのきっかけだと思うんです。揺らぎながらも、勇気を出そうとしている瞬間、人が変わろうとしている瞬間みたいなものがすごく好きです。そういう人を見ると、カメラを向けたくなる。『未来ちゃん』も自我が芽生える変化の瞬間だったと思うんですよね。完成されたものよりも未完成な美しさに惹かれますね。
─川島さんご自身は、渦中にいるときは苦しくありませんか?
川島:苦しいんですが、心のどこかでしめしめって思っています(笑)。何かに気づいたときには蓋をしないで、その違和感や自分の願望を見つめたほうがいいと思います。
―そうやって川島さんは「今」に向き合ってきたんですね。
川島:人はどんどん変わっていく生きものだから、迷っているときこそ自分に向き合えるチャンスですよね。僕の場合は、それが作品づくりにつながることが多いので、悩んでいても「絶対つぎにつながる」って思うと楽になれる。ひとりで考え込むとしんどい人は、周りの人に頼るのもいいと思います。僕はその人らしさの奥底を見つめるのがとても好きで、迷っている友だちにときどき「本当はこうなんじゃないの?」とツンツンしています(笑)。

「今こそが、わたしのスペシャル。」

特設サイト:https://niewmedia.com/lp/imakosogaspecial/
▶製品情報
Xiaomi 15T Pro 9月26日より発売開始

ライカ共同開発による「撮る喜びと高揚感」、シリーズで最も優れた望遠性能に進化したトリプルカメラシステムを搭載した「Xiaomi 15T Pro」。
撮影環境や距離を気にすることなく、手軽に心に響く一瞬をとらえる撮影体験を提供します。さらに、高性能チップによる快適な操作感と最先端のAI体験、長寿命で長時間駆動の大容量バッテリー、タッチ決済に便利なおサイフケータイ機能を持ち合わせることで、あらゆる場面で最高のパフォーマンスをお届けします。
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