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ナイトクラブで作品を発表する必然性。『橋の下世界音楽祭』も共鳴
開幕して最初の週末には、バゼルらによる新作のパフォーマティブ・インスタレーション『Enemy of the Sun(エネミー・オブ・ザ・サン)』(公演終了)が、新栄のLive & Lounge Vioで発表された。

Live & Lounge Vio・CLUB MAGOは、約30年にわたり、ハウスやテクノ、ラテンなどのダンスミュージックを中心に、国内外のアーティストがプレイしてきたナイトクラブだ。本作の上演場所に選ばれた背景について、公式プログラムブックにエッセイをよせたキュレーターでライターのダニエル・ブランガ・グッベイは、下記のように述べている。
会場選びは作品コンセプトの要となる。この選択は彼らの表現方法の独自性を示すと同時に、(パレスチナの事実上の首都)ラマッラのような状況下でナイトライフが担ってきた政治的・歴史的な役割をも浮かび上がらせる。占領によって公共空間の使用が制限されるなかで、ナイトライフは自立と反抗の拠り所として長い間機能してきたからだ。
公式プログラムブックより
Live & Lounge Vioと、隣接するスペースCLUB MAGOで開催された前夜祭には愛知県豊田市の豊田大橋の下で開催されている『橋の下世界音楽祭』の盛り上げ役・ぬ組のメンバーもゲストアーティストとして登場した。日本で開催されている行政主導の芸術祭としては、こういったクラブシーンとの接続は斬新で、大きな挑戦だろう。

冒頭に登場したパレスチナ出身のアーティストで作家のハイカルは、滞在するアメリカから一度出国すると再入国できないリスクがあるため、残念ながら渡航が叶わず、オンラインでつないで、ステージ上のバゼルとともにパフォーマンスを披露した。場所や政治的な制約を超えて届いたハイカルのメッセージで、フロアは一気に熱い連帯感に包まれた。

パレスチナ出身のアーティスト、作家、ミュージシャン。2012年より政治的、文化的なテーマと個人的な視点を織り交ぜながら作品を制作。2020年には、バゼル・アッバス&ルアン・アブ=ラーメのマルチ・プロジェクト『May amnesia never kiss us on the mouth』に参加し、ミグロ現代美術館(チューリッヒ)とアストラップ・フィアンリー近代美術館(オスロ)でライブパフォーマンスを行った。
愛知芸術文化センター 8Fに展示されたインスタレーション作品にも登場した映像が鮮やかに空間へ投影される中、ジュルムッドとバラリもステージに登場した。

ジュルムッドは音楽プロデューサーであり、サウンドエンジニア、デザイナーなどとして活動。バラリはジャンルレスに活躍するミュージシャンであり、MC、シンガーだ。ふたりともラマッラを拠点にしている。

パレスチナのラマッラを拠点とする音楽プロデューサー / 研究者であり、サウンドエンジニア / デザイナー。世界中のサウンドを創作、作曲、サンプリング、合成し、ジェネリックではない独自の音楽を創り出す。

パレスチナのラマッラを拠点に活動するダイナミックなミュージシャン、MC、歌手。その作品はジャンルを横断し、境界線を押し広げる。アラビアのメロディーと国際的かつローカルな影響をブレンドし、ヒップホップ、ドリル、グライム、エクスペリメンタル・サウンドなどのジャンルを探求している。
光と音の洪水のなか、祈りを捧げる声明を連想したジュルムッドのパフォーマンスや、3人の動きと声が重なり合い、オーディエンスと呼応するかのようなラップの応酬が、深夜まで繰り広げられた。今日この瞬間、世界中からこの場所に集い、言葉や笑顔を交わして、共に全身で音楽を味わえていることの奇跡を、強烈に実感した体験だった。


