INDEX
いびつな家族の絆の編み直し
もうひとつの定番のモチーフが、どこかいびつな家族だ。どの作品でも、子どもたちも、(見かけ上の)大人たちも、ほとんどがconfusedしている。大人になりきれない大人を象徴するように、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』のロイヤルも『天才マックスの世界』のローズマリー先生も子供部屋で寝ている。そのいびつさや混乱の模様はそれぞれに違うのだけど、物語のなかでその部分は、そのまま愛されていたり、ときたまそっと撫でて付き合っていくものとして描かれる。修復はたいてい失敗するし、欠けたなにかが埋まることもほとんどないけれど、それぞれのかたちを持ち寄ることで、血の繋がりや過ごした時間なども超えた、かぎかっこつきの「家族」が編まれていく。

今作の物語序盤、ザ・ザは何年も顔を合わせてこなかった娘リーズル(ミア・スレアプレトン)を自身の後継者とするために呼び寄せる。本作でもまた母は不在だ。二人は、ザ・ザを貶めるための陰謀によりザ・ザの事業に生じた経済的な「ギャップ」を埋めるため、共に大陸中を旅することになるのだが、そのなかで親子としてのへだたり=「ギャップ」とも向き合っていくこととなる(ちなみに陰謀の内容が「建設現場で使用する鋲の価格操作による不当な高騰」というのが、なんともウェス・アンダーソンらしい細やかさでキュートだ)。
その旅のなか、生死さまよう機会がやってくるたびに、ザ・ザはこれまで彼が歩いてきた道をモノクロの舞台で振り返ることになる。こんなふうに世界が切り替わる演出はウェス・アンダーソン映画のなかでは珍しくて新鮮だ。そしてそれは、単純に命の危機に瀕して目にする走馬灯、というだけではなく、リーズルという存在を近くに感じるうちにザ・ザのなかでぷちぷちと弾けだした変化のように感じられる。大陸中を西へ東へと飛び回る飛行機。その航路に残したどこまでも伸びていく飛行機雲でもって、家族の絆はまたしても編み直されていくのだ。
