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大人になりきれない大人たちの、はちゃめちゃになるプラン
在学中にはじめたバンドは小さくではあるけれど軌道に乗り始めていて、僕は卒業後も就職はせずにCDショップでアルバイトをはじめた。決して大きくはない棚には3枚で3000円キャンペーンの洋画のDVDが並べられていて、僕はそれが3枚買わなくても割り引きになるということを、働きだしてはじめてしった(1枚だけ買った場合でも定価から割り引かれて1000円になるのだ)。出勤するたびに1枚ずつ好きな映画のDVDを揃えていった。ウェス・アンダーソンの作品もほとんどがキャンペーンの対象になっていて、何度も何度も家で繰り返し見ることができるようになった(まだギリギリNetflixがいまのように当たり前の存在になる前だった)。これでよかったのか、いつまでこうやっていられるのか / いないといけないのか不安な毎日のなか、毎晩映画を見ることが自分を保っていられるひとつの方法だった。

僕にとって彼の映画は、大人になりきれなかったことにどこか心の端っこを掴まれ続けているような、モラトリアムにもなりきれないようなそんな季節を共に過ごした友達のような存在だ。特に初期の3部作ともいえる『アンソニーのハッピー・モーテル』『天才マックスの世界』『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』、近年の作品と初期作品の橋渡しのような『ライフ・アクアティック』が大好きで、何度見返したかわからない。物語に登場する「大人になりきれない大人たち」が、周到に準備したはずのプランがはちゃめちゃになりそれでもどうにかこうにかまた歩きはじめるのを見ながら、自分の「75ヵ年計画」はこれからどうなっていくのだろうか、とぼんやりと考えていたのだ。