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最新作に感じる「欠落」。自分の話をすることで、自分自身が癒されていく
ー昨年リリースされた『GANGNAM OASIS』も、お母さんから聞いた話をヒムンさん自身の話として歌詞にしています。作品の構想はいつ頃からあったのでしょうか。
ヒムン:『キップンサラン』を作り終えて、このあと自分は何の話をすればいいのかを考えていました。『キップンサラン』では、伝統文化についてストレートに表現して、自分が民謡を始めてから抱えてきた疑問がある程度解決したんです。だから次は自分が民謡を始める以前の話を作品にしたら、今の自分について理解が深まるかもしれないと思って。そのためには、これまでの自分にはない表現方法や新しい曲が必要だと思ったので、バンドのCADEJO(カデホ)と組んで民謡をモチーフにしたメロディを作ったり、歌詞も初めて自分で書きました。
ー歌詞は、亡くなったお父さんのエピソードがテーマになっていますが、どのように書いていったのですか?
ヒムン:『キップンサラン』を一緒に作った美術作家の方に、お母さんにインタビューしてもらったものを、僕が書き起こして歌詞にしました。家族には言えないことも多いだろうし、僕たちのことを知らない人が聞いたほうがいいかなと思って。

ーインタビューを読んでどう感じましたか?
ヒムン:もともと知っていた話もあったけど、息子には言えないであろう話もあったから「へ〜そうなんだ〜」って思いながら読んで(笑)。自分の中に残っているお父さんの記憶は、ほんの少しだった。
ーヒムンさんが知らないお父さんの姿が記されていたのですね。
ヒムン:お母さんに「お父さんはこういう人なんだよ」と教えてもらっていたことを、自分の記憶として錯覚していたと分かって。だから、僕が記憶しているお父さんというのは、お母さんの中にいるお父さんなの。一緒にいた期間が短かったというのもあるけれど、僕自身が体験しているお父さんとの記憶はほとんどなくて。だから僕はお母さんの話をもとに書いた『GANGNAM OASIS』の歌詞の中に、お父さんに対して自分が思うこと、考えることを入れて仕上げました。ここが悪い、それは違うって(笑)。それを今こうして歌っているんです。
ー実際に演奏してみて、ヒムンさんにとって『GANGNAM OASIS』とはどんな存在になっていますか?
ヒムン:欠落、かな。
ーその「欠落」は、歌い続けていくことでどうなっていくのでしょうか。
ヒムン:自分自身を治療していくという感覚かもしれない。自分の話を誰かに話して聞いてもらうことで、自分自身が癒されていくから。

