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伝統音楽に本格的に集中すると決めるまでの葛藤と、心境の変化
ー最初から本格的に民謡の世界へ入ろうと決めていたわけではないんですね。
ヒムン:後日、先生の事務所に行ってみたら、まず「好きな曲があったら歌ってみて」と言われて、“長アリラン”という歌を歌ってみたんです。“長アリラン”は、特に決まったリズムがなくて、自分の呼吸に合わせて歌うもので。難しいけれど好きだったので、下手でもいいから歌ってみたら、それを聴いた先生が「ヒムン、民謡をやらなくちゃ」って言ってくれて。その言葉が民謡の世界に入る大きなきっかけになったと思います。
ー先生がヒムンさんの中に潜む才能を感じ取った瞬間ですね。でも、その時もMVの助監督の仕事も続けていたのですよね?
ヒムン:そう。先生の事務所に行った後、3ヶ月ほど集中して練習したあとにコンテストに出てみたら2位になって。先生が「ヒムン、プロの民謡歌手になるなら、大学で民謡を学ばないと認められないよ」と言うんです。まだ自分の気持ちとしてはMVの監督になりたいと思っていたけど、そう言われてみて、なんとなく学校に行くのも悪くないかなって(笑)。

ーなんとなく!(笑) それで、ソウル芸術大学の国楽科の民謡専攻に入ってしまう。
ヒムン:当時はコンテストの受賞歴があれば実技試験だけで入れたんです。運が良いよね(笑)。最初はMV制作の仕事も続けながら大学に通おうと思っていたんですけど、国楽科の授業がすごく厳しくて一日中練習していたから、仕事をする時間がない。適当に授業を受けていれば両立できたかもしれないけど、20代後半になって自分で決めて入学したのに、一生懸命やらないとバカバカしくないか? と思って。仕事を続けるか、民謡を本格的に学ぶのか、どちらかを選ぶタイミングだなって。
それと、2004年当時、韓国でも音楽をMP3でダウンロードする時代に変わってCDが売れなくなった影響で、突然MVの予算が減ってしまって。そんな風に時代とともに激しく変化する音楽業界に対して、伝統音楽は年を重ねて歌い続けていくことで価値が磨かれていく世界だ、と。そうやって半分自分に言い聞かせるような部分もあったけど(笑)、仕事を辞めて学校に集中することにしました。それから猛練習の日々ですね。
