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「答え」こそが素晴らしいという価値観が浸透した世界で、創造体験の価値やアーティストのあるべき姿
郡司:僕はあまり政治的な人間ではないんですが、今の世界の状況をみるにつけ、余計にそう思います。粘り強く言葉を駆使して対話をすることが政治的な次元ではもちろん大切なことだと思うんですが、残酷なことに、それにも関わらず圧倒的に理解不可能な他者との関係というのも厳然とあるわけですよね。
けれど、そういう互いに理解不可能な他者同士がいかに共存していくのかを考えたとき、立場や思想は異なるにせよ、確かに外部があって、それぞれにおいて他者であり、外部とつながりうるという感覚を少なくとも共有しないことには、もう本当にどうしようもない状況になってしまうと思うんですよ。
―非常に重要なご指摘だと思います。
郡司:だからこそ、どんな小さなことでもいいから創造体験を通じて外部に触れるというのは大切なことだと思うし、優れたアーティストの人たちがその体験とともに表現をしてくれているというのが自分にとってもとても嬉しいんです。
―仮に世の中がそうならなければ、ありとあらゆるものが定量的な尺度のうちにおいて価値判断されるという傾向がより一層強まってしまうかもしれない、ということでしょうか?
郡司:はい。その部分に関してははっきりと危機感を持っていますね。AIの発展がこれだけもてはやされるというのは、その背景に、現代人が小さな頃から論理的思考と客観的な思考みたいなものを無条件に大事だと教えられてきたという状況があると思っていて。
それは、この鼎談のはじめの方に例に出した三人称的な自己像を、自分でなんとか獲得するんじゃなくて、最初から与えてしまっているということでもあると思うんです。だからこそ、余計に外部を意識しづらくなってしまっているし、全てにおいて「答え」ありきで、「答え」こそが素晴らしいという価値観が浸透してしまっているんだと思います。
実際は、生きていく上でわけのわからないことが突然起こるにも関わらず、です。その外部への気付き、亀裂の向こう側へと触れる創造体験は、本来等しく開かれているはずなんです。
勝浦:郡司さんがおっしゃっていることは希望でもあるけど、厳しい警鐘にもなっていると思うんです。何でもかんでもアートです、という考え方とは全く違うわけですよね。
郡司:そうですね。「あらゆるものがアートである」とか、「みんな違ってみんないい」みたいな考え方というのは、いかにも多様性を称揚するようでいながら、結局は「違う他者」を頭の中で無意識に指折り数える定量的な発想に還元されてしまうと思うんです。本当は、外部とつながっているということに敏感になるのが多様性という考え方の元にあるべきなのにも関わらず、それを隠匿する方向にどんどん行ってしまっているんじゃないかと危惧しているんです。
勝浦:今のお話もそうですし、やっぱり身が引き締まる思いがします。同時に、個人的には精神科医としての仕事にとってもとても大きな希望をいただいたと思っているので、天然知能や創造性、外部というものを自分の中でいかに役立てていくかも考えていきたいなと思っています。
郡司:それは是非ともやっていただきたいですね。僕の本(創造性はどこからやってくるか ――天然表現の世界』)で津波被害者の方が抱くサバイバーズギルトについて論じているくだりがあるんですが、一般的に治療がとても困難なものだとされていると思うんです。けれど、音楽などのアートを通じて治癒を促していくこともできるんじゃないかと思っているんです。
―出戸さんはいかがですか?
出戸:僕は今後、『創造性はどこからやってくるか ――天然表現の世界』に書かれているような、肯定的矛盾と否定的矛盾の共立を通じて創造を行っていくというプロセスをもっと深く咀嚼した上で音楽を作ってみたいなという気持ちがあります。今回のアルバムではそこまでは実践できなかったので、仮に意識的に取り組んだ場合、一体どんなものができるんだろうという楽しみな気持ちがあります。
郡司:僕の本なんて、読んでいる人も少数に限られると思いますし(笑)、そこはぜひ、みなさんのような創作者の方々の実践をきっかけに、天然知能の発想がもっと広がっていってほしいと願っています。実をいえば私は、今の若い人たちの方が天然知能的な感性と親和的になってきていると思っているんです。
昔は物理還元主義的な発想と生態学的な発想の二極化が顕著だったと思うんですが、人工知能が劇的に発展してきたことの反作用のような形で、むしろその中間にあるものが露わになって外部への感性が鋭敏化してきたようにも思うんです。人工知能的な価値軸の浸透の一方で、もしかするとそれはひとつの希望なのかもしれないなとも思っていますね。


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