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テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』――セラピーとしての詩

2024.4.27

#MUSIC

ポエトリーセラピーとしての作詞

1969年に精神科医のエリザベス・キューブラー・ロス(Elisabeth Kübler-Ross)は、悲しみには、否認、怒り、取引、抑うつ、受容という5つのプロセスがあると提唱した。スウィフティたちは、アルバムがこの5階層を描いているのではないかと指摘。テイラーは呼応するように、Apple Musicでこれらの5階層にこれまでの楽曲や、同アルバム収録曲を分類したプレイリストを自ら作成して公開している。

全てを非難したかと思えば、次の瞬間には絶望に打ちひしがれている。両極端な感情を絶えず行き来する。それは、喪失を受け入れるための過程だ。アメリカでは心理療法の一環として詩を利用したセラピーが導入されているが、このアルバムはまさにテイラーのポエトリーセラピーの痕跡のように感じる。

一部の批評が言及しているように、たしかにこのアルバムは散漫とした印象があるかもしれない。曲数は31曲もあり、メロドラマやぎこちないセリフも多い。しかし、その無秩序さがテイラーが痛みを受容するまでの過程に残された「悩める詩」であり、このアルバムの魅力とも言えるのではないだろうか。

This period of the author’s life is now over, the chapter closed and boarded up.(著者の人生において、その期間はもう終わっている。その章は閉じられ、封印された。)
(中略)
Once we have spoken our saddest story, we can be free of it.(私たちが最も悲しい話を語ったとき、私たちはそれから解放されることができる)

テイラー・スウィフト Instagramより

アルバムの最終曲”The Manuscript”でテイラーはこのように歌っている。

Looking backwards might be the only way to move forward(過去を振り返ることが、進むための唯一の方法かも)
(中略)
She knew what the agony had been for(彼女は苦しみの意味を理解した)
The only thing that’s left is the manuscript(そして残ったのはそれを綴った手記だけ)
One last souvenir from my trip to your shores(心を旅して残った一つの思い出)
Now and then I re-read the manuscript(たまに、それを読み返して思い出す)
But the story isn’t mine anymore(けど、それはもう私だけのものじゃない)

三人称「She」で歌われていた物語が一人称「I」に変化しているのは、今の語り手は過去の傷ついた「彼女」とは違う新たな自分だからだろうか。

進むために振り返る。痛みを取り除くには、傷を直視しなくてはいけない。

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