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昭和と令和を描く宮藤官九郎の想い

『不適切にもほどがある!』では、1986(昭和61)年が舞台として描かれるが、宮藤官九郎は1970年(昭和45年)生まれ(ちなみに、主演の阿部サダヲも同じ年齢だ)で、1986年当時は16歳。主人公の小川市郎の娘・純子(河合優実)が17歳の設定なので、ほぼ同世代のキャラクターの高校時代を作中では描いていることになる。作中の純子がそうであるように、出身校である宮城県築館高等学校で昭和の青春を謳歌していたのだろうか(第3話で純子は昭和のバラエティ番組に出演しているが、宮藤自身は宮城ローカルのTV番組の素人参加コーナーにも出演した経験があるそうだ)。
しかし、宮藤が青春時代を過ごした昭和を、自身が脚本を務めるドラマの中では今までほとんど扱ってこなかった(強いて言えば、原作ありの映画『アイデン&ティティ』(2003年)、『69 sixty nine』(2004年)などでは扱っている)。『いだてん』は東京五輪開催で幕を閉じるドラマだが、その1964年は宮藤が生まれる前だ。そんな宮藤が、敢えて地上波のドラマで、自分が生きてきた時代の昭和を描くのだから、描写のリアリティーにはこだわるだろうし、その考証には力を入れていると考えるのが自然だろう。ネット上では、1986年の描写の事実誤認を指摘する意見も見受けられたが、第5話で明かされた、市郎と純子が1995年の阪神淡路大震災で亡くなっていたという事実と、第6話における2024年の世界に市郎と純子が存在するというタイムパラドックスが、その鍵を握っているのかもしれない(第6話に、クドカンこと宮藤官九郎と同じ誕生日の大物脚本家・エモケンこと江面賢太郎が登場するのもパラレルワールドを示唆しているかのようだ)。

作中でタイムスリップする先の時代として描かれるのは2024年。つまりは放送されている今そのものを舞台として、毎話、パワーハラスメントやセクシャルハラスメント、働き方改革の不公正、ネット依存などの問題を直接的に描いている。過去作でも、『ゆとりですがなにか』(2016年 / 日本テレビ系)でゆとり世代を、『JOKE~2022パニック配信!』(2020年 / NHK系)や『俺の家の話』(2021年 / TBS系)でコロナ禍や介護を描いたこともあったが、社会的な問題を真正面から扱った作品は初めてではないか。そこも本作における大きな挑戦と言えるだろう。