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社会を騒がせた実際の事件や社会問題が頭をよぎる『龍が如く8』の時宜性
『龍が如く7』で採用されたターン性コマンドバトルのさらなる洗練や、反復作業になりがちな経験値稼ぎが苦にならない各種ゲーム設計のおかげで、本作『龍が如く8』は遊び続けるモチベーションがほとんど失速しない。また、リゾート島を復興・発展させる「ドンドコ島」や、街を爆走してフードデリバリーする「クレイジーデリバリー」といったミニゲームの面白さ・豊富さ(加えてバカばかしさ)も素晴らしく、シリーズ最高傑作と呼ぶにふさわしい完成度だ。そういったゲーム内での行動のほとんどがダイレクトにキャラクターの成長に反映されるため、ついつい時間を忘れてあちらこちらに寄り道してしまうが、メインストーリーの時代性・批評性も高い。
『龍が如く8』では主要な舞台を日本からハワイへも広げ、同地の政治・経済を闇から牛耳るマフィア、火炎崇拝の宗教団体が描かれる。かれらは日本の暴力団や政界・財界とも強いパイプを持っており、およそ10年前に起きた原発事故(作中で明言されないが、明らかに福島第一原発事故)の廃炉作業で生じる放射性廃棄物処理をハワイの離島で行う計画を極秘裏に進めている。その処理要員に充てられるのが、元暴5年条項(組織を抜けて以降の5年間、元暴力団員の就労や生活に関するさまざまな制約を課す制度)によって行き場を失った元ヤクザたちで、彼らをハワイに移送して廃棄物処理に従事させることで、核のゴミ問題と社会的弱者の就労を一挙に解決する棄民政策の行く末がストーリーの山場になる。それを後押しするための世論誘導に炎上系YouTuberを思わせる配信者や、一般人による私人逮捕のトレンドが利用されているのも生々しい。


旧統一教会問題で露呈した宗教と政治の癒着、放射性物質を希釈したALPS処理水の海への放出、暴露系YouTuberとして悪名を馳せたガーシーの逮捕……と、社会を騒がせた実際の事件や社会問題が頭をよぎる。開発期間に約4年を要した『龍が如く8』と、ここ数年のあいだに起きた事件の一致はほぼ偶然だが、ハワイを舞台に「現代の棄民」というテーマを描くとき、ハワイだけでなくアメリカ本土や南米各地に自国民を送り出した近現代日本の移民政策は意識にのぼったはずだ。
もう一人の主人公で癌におかされた桐生一馬の最期の物語という別の大きな主題のために、ハワイ移民史への踏み込みは足りない印象もある。だが日本の経済力が停滞し、インフルエンサーが「海外に出稼ぎしよう!」と経済移民を促すのも絵空事ではなくなりつつあるいま、『龍が如く8』が示す矢印は過去だけではなく未来にも向けられている。