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ツアーコンサートを映画に ジョナサン・デミとの出会い
ブライアン・イーノの元を離れ、セルフプロデュースにて制作した『Speaking In Tongues』はニューウェーブディスコの雰囲気を纏った、ダンサンブルなアルバムとなっている。映画『ストップ・メイキング・センス』は同アルバムの発売に合わせて行ったツアーの模様を収めたものだ。
監督を務めたのは、のちに『羊たちの沈黙』で知られることになるジョナサン・デミ。ロサンゼルスのグリーク・シアターで行われたコンサートをジョナサン・デミが鑑賞したことがきっかけで、映画の企画を持ちかけた。映画の資金集めは難航したものの(バンド自ら製作費約120万ドルの大半を調達したという)、なんとか実現まで到達。1983年12月にハリウッドのパンテージ・シアターで行われた3日分のライブを、7台のカメラで記録している。
デミの魅力はなんといっても、ロングカットの多用と、被写体の生々しい魅力を引き出すセンスだろう。『羊たちの沈黙』やNew Orderの”The Perfect Kiss”のMVで見られるこれらの特徴は、同映画でも遺憾なく発揮されている。
大抵のライブ映画では、「パフォーマンスをするバンド」「熱狂する観客」「インサートのバンドインタビュー」という構成で、バンドがたどった物語を見せる。しかし、この映画はどうだろう。インタビューは排除され、カメラは徹底して「観客の視点」を貫く。これによって生み出されたのが、自分がまるでそこにいるかのような生の感覚。映画の観客は、会場の観客と同じように90分の熱狂を「体感」する。
