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トーキング・ヘッズ伝説のライブ映画『ストップ・メイキング・センス』の背景を解説

2024.1.12

#MUSIC

By Jordan Cronenweth. Courtesy of A24.

Talking Headsが1983年にハリウッドのパンテージ・シアターで開催した伝説的ライブを収めた映画『ストップ・メイキング・センス』(原題:Stop Making Sense)が、A24の手により4Kレストア版として、2月2日(金)より全国公開される。また、全国のIMAXでの上映も決定した。

ライブパフォーマンスをアートの域まで押し広げた、圧巻の舞台を映し出す同作。1980年代の日本公開時は、レイトショーのみの上映ながら、異例となる興行収入1億円を達成。

NYパンクバンドシーンの異端児で「インテリバンド」とも呼ばれた彼らは、どのようにしてライブ映画のマスターピースを作り上げたのだろう。バンドの来歴から、アフロビートとの出会い、映画の魅力までを深掘りしていく。

※本記事には映画本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

NYパンクで異彩を放つTalking Headsが志したのは、芸術的反抗

デヴィッド・バーン(Vo / Gt)、クリス・フランツ(Dr)、ティナ・ウェイマス(Ba)、ジェリー・ハリスン(Key / Gt)の4人で構成されるTalking Headsは、Ramones、パティ・スミスなどが出演し、ニューヨークパンクの中心地として知られたライブハウス「CBGB」出身のパンクバンド。ただ、ここで留意したいのは、彼らがいわゆるステレオタイプなパンクのイメージとはかけ離れていること。

何を隠そう、バーン、フランツ、ウェイマスの3人はアメリカ最高峰の芸術大学、ロードアイランド・スクール・オブ・デザインを卒業、ハリスンはハーバード大学出身という、きっての「インテリバンド」なのだ。

当時のパンクシーンでは異彩でインテリジェントな空気を放っていたTalking Heads。パンクと言うと、ロンドンのような「政治的・社会的反抗」をイメージする人が多いだろう。しかし、ラコステのテニスTシャツの出立でステージに上がる彼らが志したのは「音楽的・芸術的反抗」だった。

Harrison and Byrne-Talking Heads” by Michael Markos – michaelmarkos11@gmail.com is licensed under CC BY-SA 2.0.

インテリジェンス溢れる初期の音楽性

1stアルバム『Talking Heads: 77』に収録されている、二重人格の殺人犯を描いた”Psycho Killer”は、バンドの代表曲の1つとして挙げられる。「二重人格」というキャラクターを描くために、英語とフランス語の歌詞を織り交ぜた、彼ららしい知的でシニカルな楽曲だ。

アフロビートとの出会いと追求

ブライアン・イーノをプロデューサーに迎えた『More Songs About Building And Food』、同じくイーノが共同プロデューサーを務めたスタジオ録音3作目『Fear Of Music』で、バーンはアフリカンビートとの出会いを果たす。

なかでも『Fear Of Music』の1曲目を飾る“I Zimbra”は、その後バンドがたどり着く「アフロビートとロックの融合」の第一歩目と言えよう。バーンは、ダダイズムを主導したドイツの詩人フーゴ・バルのナンセンス詩に、グルーヴィーなリズムとメロディをつけることで楽曲を完成させた。ギターにはKing Crimsonのロバート・フリップが参加し、コンガ、スルド、ジャンベなど世界各地の打楽器も使用されている。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/39jsLMRmrTpfdq2vE4TCUe?si=raBey4W9QTa2M4A29yL6ew
https://open.spotify.com/intl-ja/album/4OLsnJQPTX0S6lODXw1MqC?si=Re35I2FXQgS0V5T1vQzOTQ

1980年にはアフロビートとロックの融合が最高到達点に達した名盤『Remain In Light』を発表。ギターにKing CrimsonやNine Inch Nailsで活躍したエイドリアン・ブリュー、トランペットに「第四世界」で知られるジョン・ハッセルが参加している。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/1JvXxLsm0PxlGH4LXzqMGq?si=dDJG49hqSoO8rurW628KCA

バンドは『Remain In Light』発表直前から、『ストップ・メイキング・センス』で見られるようなサポートミュージシャンを含めた、ビッグバンド編成でライブを回るようになった。

「ストップ・メイキング・センス」で登場するメンバーたち。左から、スティーブ・スケールズ、バーニー・ウォーレル、ジェリー・ハリスン、エドナ・ホルト、デヴィッド・バーン、リン・メーブリー、ティナ・ウェイマス、クリス・フランツ、アレックス・ウィアー。(Photo by Sire Records/Michael Ochs Archives/Getty Images)©️Courtesy of Sire + Warner Music Group

1981年にはソロ活動を始めたバーンとイーノの共作『My Life In The Bush Of Ghosts』が発表された。一方でフランツとウェイマスの夫妻はサイドプロジェクトとしてTom Tom Clubを結成。”Wordy Rappinghood”(邦題:おしゃべり魔女)や”Genius of Love”(邦題:悪魔のラヴ・ソング)がヒットを記録した。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/0uWpq6h99OaylNLXe2KPTR?si=teDUD-7_Qq2MdKQdKJ24HQ
https://open.spotify.com/intl-ja/album/68Iowv229lKyHJZxSrfKL3?si=mcMgbafiTQGnMvToaTi2IQ

ツアーコンサートを映画に ジョナサン・デミとの出会い

ブライアン・イーノの元を離れ、セルフプロデュースにて制作した『Speaking In Tongues』はニューウェーブディスコの雰囲気を纏った、ダンサンブルなアルバムとなっている。映画『ストップ・メイキング・センス』は同アルバムの発売に合わせて行ったツアーの模様を収めたものだ。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/78MM8HrabEGPLVWaJkM2t1?si=s2BqmirZQqqds0oZ3DUTAw

監督を務めたのは、のちに『羊たちの沈黙』で知られることになるジョナサン・デミ。ロサンゼルスのグリーク・シアターで行われたコンサートをジョナサン・デミが鑑賞したことがきっかけで、映画の企画を持ちかけた。映画の資金集めは難航したものの(バンド自ら製作費約120万ドルの大半を調達したという)、なんとか実現まで到達。1983年12月にハリウッドのパンテージ・シアターで行われた3日分のライブを、7台のカメラで記録している。

デミの魅力はなんといっても、ロングカットの多用と、被写体の生々しい魅力を引き出すセンスだろう。『羊たちの沈黙』やNew Orderの”The Perfect Kiss”のMVで見られるこれらの特徴は、同映画でも遺憾なく発揮されている。

https://www.youtube.com/watch?v=x3XW6NLILqo
New Order “The Perfect Kiss”

大抵のライブ映画では、「パフォーマンスをするバンド」「熱狂する観客」「インサートのバンドインタビュー」という構成で、バンドがたどった物語を見せる。しかし、この映画はどうだろう。インタビューは排除され、カメラは徹底して「観客の視点」を貫く。これによって生み出されたのが、自分がまるでそこにいるかのような生の感覚。映画の観客は、会場の観客と同じように90分の熱狂を「体感」する。

By Jordan Cronenweth. Courtesy of A24.

STOP MAKING SENSE(意味づけをやめよ)

冒頭、デヴィッド・バーンが1人、カセットテープを持ち空のステージに登場。収録されたビートと共に”Psycho Killer”を弾き語る。曲の後半になると、黒子がステージの設営を始める。2曲目になると、ベースのティナ・ウェイマスが登場し”Heaven”を演奏。3曲目はドラムのクリス・フランツが加わり、”Thank You for Sending Me an Angel”が始まる。曲順を追って、徐々にメンバーやセットが登場する演出は、「コンサートがどのようにつくられるのかを見せることが目的だった」とバーンが語っている。

映画後半の”Once in a Lifetime”はトレーラーにもなっている名場面だ。バーニー・ウォーレル、アレックス・ウィアーらサポートメンバーを揃えた当時最高のファンクバンドと言ってよい演奏をバックに、眼鏡をかけたバーンが奇妙なダンスを披露する。映画を通してバーンやメンバーのパフォーマンスは素晴らしく、”Genius Of Love”ではメンバーがステージを駆け回り、”This Must Be The Place (Naive Melody)”ではバーンがスタンドライトと踊り出す。

By Jordan Cronenweth. Courtesy of A24.

映画も残り数曲を残したところで”Girlfriend Is Better”が披露される。バーンはかの有名なビックスーツに身を包み、映画タイトルになった歌詞を歌う。「Stop making sense, stop making sense(意味づけをやめよ、意味づけをやめよ)」

意味を手放して踊る。「インテリバンド」というある種の揶揄的な意味も内包する言葉で形容されていたバンドが、アスリートのごとく肉体を酷使していく。熱が意味を溶かしていく。

”Psycho Killer”から始まり、徐々にアンサンブルが構成されていき、アフロビートとパンクの出会いが果たされる。映画は、彼らがトップバンドに上り詰めた軌跡や、青春のプレゼンテーションのようにも捉えられる。彼らはこのときが絶頂期だった。

By Jordan Cronenweth. Courtesy of A24.
By Jordan Cronenweth. Courtesy of A24.

この映画の功績はライブをパフォーマンスアートにしたことだろう。以後、多くのミュージシャンたちは、音楽はもとより、気の利いた舞台演出を求められ、衣装や照明、振り付けに及ぶまでの総合演出をライブパフォーマンスに求めるようになった。彼らが切り開いた新しい境地が、マドンナやThe Weekndのような驚くべきパフォーマンスの源流となっていると言っても過言ではない。

https://www.youtube.com/watch?v=d79lLGzROfs

映画『ストップ・メイキング・センス 4K レストア』

1983年12⽉ハリウッド・パンテージ・シアターでのトーキング・ヘッズ伝説のライブの様⼦を収めたライブ映画が、A24の手によってスクリーンに蘇る。

監督:ジョナサン・デミ
出演:デイヴィッド・バーン、クリス・フランツ、ティナ・ウェイマス、ジェリー・ハリスン 他
配給:ギャガ
© 1984 TALKING HEADS FILMS
2024年2⽉2⽇(⾦) TOHO シネマズ⽇⽐⾕ 他全国ロードショー
公式サイト:https://gaga.ne.jp/stopmakingsense/

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