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「再集結して、トリビュートアルバムをつくるでも、セルフカバー集をつくるでもなく、現在地に自分たちを置いてみる。だからこそ、過去も未来もよりリアルに感じることができる」(岸田)
ー先行で配信された“In Your Life”はこのアルバムをひとつ象徴してる曲なのかなと。1990年代のオルタナティブロックの系譜というのもそうだし、歌詞にもある種のトリビュート的なところがある。過去の作品を真似したりトレースしたりしてるわけではないけど、自分たちの過去と向き合いながら、今のこの3人で形にした曲なのかなって。
岸田:アルバムには13曲入ってますけど、出たネタの中からうちのスタッフが一つひとつ丸をつけていくわけです。その中で丸がいっぱいついてたのがこの曲で、仮タイトルに「映画主題歌」って書いてあったんですよ。
バーッとつくってるから、自分では優劣はあんまりよくわからない。でもスタッフがえらく喜んでたから、じゃあつくろうと思ってつくったら、結果良い曲になったし、ライブでやり込めばやり込むほど曲が育っていくとも思います。あの……これは例え話がすぎますけども、王将に行ったら餃子ですよね。一般的なイメージとして、そういう感じ。
ーみんながイメージするくるりの王道?
岸田:僕は王将行ったら天津飯なんですけど(笑)、これは餃子としての役割を果たしてくれてるんじゃないかなっていう。
佐藤:スタッフさんが「映画主題歌」っていう仮タイトルを付けてくれて、その続きで曲が進化していったときに、餃子から満腹定食になった感じ(笑)。

森:僕の印象で言うと、この曲は僕がいた頃の曲というよりは、僕が抜けた後につくられたくるりの代表的な感じの曲の、すごくいい曲のひとつやなって思ったんですね。ぶっちゃけて言うと、今回のレコーディングの中では唯一ぐらい結構形がはっきりと、最初から最後まで「これでいこう」っていう状態でレコーディングの本番に挑んだ曲で。
だから実はこの曲をやるときは他の曲とはちょっと違う感じで叩いてたっていうのはあるんです。だけど結果としてすごくいいものになって、「僕が抜けた後のくるりの代表的な曲っぽいけど、僕が入ったらこうなりました」みたいな感じが出た気がして、すごく嬉しかったです。

ー僕がこの曲を象徴的だと感じたのは、このアルバム自体が「過去といかに接続しながら今を生きて、未来を見つめるのか」を考えさせる作品だと思ったからで。それは人間関係にしてもそうだし、音楽のあり方もそうなんですけど、そういったある種の問いかけにも結果的になっているように思ったんです。
岸田:過去があり、現在があり、未来がある。宗教的な考え方というか、輪廻転生とかもそうですけど、人間は過去と未来を紐づけて、そのときに何かを考えるわけですよね。日々の生活の中でも、「来週のこれどうしようか」とか、「去年のお正月はこうだった」とか。そこにつきまとうものはやっぱり期待と不安とかだったりすると思うんですけど、ノスタルジーとして、あるいは思考停止として、過去や未来を良いように語っているものが世の中に多すぎると僕は思っていて。
もちろん過去を参照したり、過去を顧みて反省したりすることもありますし、「将来こういうふうに生きたい」みたいな想いは自分の中にもあるし、みんな持ってると思うんですけど、自分がやりたいのは現在地に自分たちを置くっていうことなんです。

岸田:再集結して、トリビュートアルバムをつくるでも、セルフカバー集をつくるでもなく、現在地に自分たちを置いてみる。この3人で集まると過去の自分たちのことは絶対参照点になりますし、この先も生きてる限り音楽を続ける人たちが集まってるでしょうけど、自分たちが現在にいるからこそ、過去も未来もよりリアルに感じることができるんじゃないかなって。