The xxのROMYが、ソロアルバム『Mid Air』を9月8日にリリースする。Fred Again..をプロデューサーに迎えた今作は、既発の曲からもわかる通り、全編ダンスビートに彩られた作品だ。インタビューではこのアルバムに込められたクラブやパーティーに対するROMYの思いとメッセージが何にインスパイアされ、どう作られたのかを中心に聞いた。
キーワードは「ダンスポップ」。話はまず、記憶に新しい『フジロック』でのDJについてから。僕にとってはあまりにも懐かしい2000年前後のダンスミュージックを、当時まだ10代にもなっていないROMYはなぜ今プレイしていたのか。その答えは『Mid Air』の制作とダイレクトに繋がっていた。
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「初めてのパーティーは16歳の時。人々がお互いを尊重し合っているとても親密な雰囲気があって、本当に心が動かされました」
―『フジロック』のDJ、とても楽しかったです。ステージとフロアにとても親密な雰囲気を感じました。『フジロック』でかけていたSoniqueの”It Feels So Good”やBinary Finalyの”1998″、Nalin & Kaneの”Beach Ball”など、どの曲も1990年代後半のクラブヒットですね。The xxでもKings Of Tomorrowの”Finally”やRui Da Silvaの”Touch Me”をカバーしています。
―僕はそれらの曲が作られた1998年に初めてイビサに行ったのですが、当時アムネシアでやっていた『Cream Ibiza』のクロージングパーティーで”1998″と”Beach Ball”を初めて聴いた時のフロアの熱狂は一生忘れることがないと思います。人が音楽であそこまでマッドになれることに驚きました。なので、あなたの『フジロック』のDJセットで当時の曲を聴いて嬉しいと同時に驚きました。
ROMY:私も1998年のアムネシアに行きたかった!(笑) あなたの言うとおり1990年代後半から2000年前後のユーフォリックなトランスが大好きなんです。エモーショナルなトランスが私にエネルギーを与えてくれるし、なによりクラウドの反応がとてもダイレクトに伝わってくる。あの時代のトラックにとても惹かれているけど、特定のアーティストや曲にこだわっているわけではなくて、でもなぜか自然と自分が共鳴できる曲が多いんですよね。

バンド「The xx」のメンバーとして3枚のアルバムをリリースし、高い評価を得ているUKのシンガー、ソングライター、DJ。ソロアルバム『Mid Air』を2023年9月8日にYoungからリリース。
https://ffm.bio/romy
―当時あなたはまだ10代にもなっていませんよね。どうやってこういった名曲を発見したのでしょうか?
ROMY:私はラジオを聴いて育ったんですよね。ラジオから流れる音楽が、子供時代のなによりの楽しみで。とくに好きだったのは、どこか懐かしくて、ノスタルジックな気持ちにさせてくれる曲で、なにかのメッセージのように感じることがありました。本当にたくさんの思い出があるんですけど、特によく覚えているのはDaft Punkの”Around the World”をカセットに録音して繰り返し聴いていたこと。それとEverything But the Girlの”Missing”。両親にこれは誰の曲? と聞いた思い出があります。
―2000年前後はクラブシーンの盛り上がりも凄かったですが、ロックも盛り上がっていましたよね。イギリスではThe LibertinesやRazorlight、アメリカからはThe StrokesやThe White Stripesなどが出てきて。その当時、ロックやインディーミュージックは聴いていましたか?
ROMY:もちろんダンスミュージックだけじゃなくて、ロックも聴いてました。初めて行ったライブはインディーロックのギグだったし、それがきっかけでギターを弾こうと思ったから。でも同時期に、真剣にダンスミュージックにも興味を持ったんです。数年後にThe xxとして活動を始めて、私たちは楽器を演奏するのと同じぐらいリズムマシーンや電子音にエキサイトするようになって、バンドに取り入れるようになったんです。
―そうだったんですね。最初のパーティー体験は、何歳の時、どんなパーティーでしたか?
ROMY:初めてのパーティーは16歳の時、ソーホーにあるThe Ghettoというクラブでやっていたクィアパーティーで。私はとてもシャイだったから、クラブのはじっこからフロアを眺めてたんですけど、人々がお互いを尊重し合っているとても親密な雰囲気があって、本当に心が動かされました。初めての体験だったけど、「自分自身でいられる」と感じられる空間だったんです。流れていた音楽はポップダンスだったけど、そこにいるみんながとても楽しんでいて、私もこういう感じで音楽を楽しみたかったんだって、そこで気がつくことができたんですよね。

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ソロ活動のスタートを決意した、Fred Again..との初作 ‘Loveher’ the turning point to embark her solo career
―最初のソロシングル”Lifetime”から”Lights Out”、”Strong”、”Enjoy Your Life”まで、先行した全てのシングルのテーマが明確にパーティーライフを歌っています。どの曲も僕自身がパーティーライフの中で受け取った大切なメッセージを思い出させてくれて、心から共感しました。
アルバムも素晴らしい内容でした。まず、多くの楽曲を共同プロデュースしているFred Again..との出会いを教えてもらえますか?
ROMY:彼との出会いは、The xxの『I See You』のツアー(2018年)が終わった頃。私は他のアーティストに提供する曲を作るためにクリエイティブなプロデューサーを必要としていて、彼に連絡をしたんです。彼が『Actual Life』をリリースする前のことですね。
その時はまだ自分のソロ活動を始める予定ではなかったんですけど、彼とすぐに意気投合して友達になって、スタジオで作業を始めて、最初にできたのがアルバム1曲目に収録した”Loveher”でした。この曲ができた時に、これは自分のソロ作品として出すべきだと思ったんです。
―初めて”Loveher”を聴いた時、この曲はトレイシー・ソーンが歌ったMassive Attackの”Protection”と同じことを歌っていると感じました。僕はカフェ・デル・マーのサンセットでこの曲を聴いた瞬間を思い出しました。
ROMY:ありがとう、Massive Attackもトレイシー・ソーンも私のヒーローだから、そんなふうに言ってもらえるのはとても嬉しい。私は彼らの音楽を聴いて育ってきたから。もちろん彼女と同じように歌おうとはしていないですけど、トレイシーのやさしい歌声は特別ですよね。カフェ・デル・マーの”Protection”は素敵でしょうね。そう言ってもらえるのは本当に嬉しい。

―”Loveher”は、とても大事なことに気がついた瞬間を歌っていると感じました。それと同時に、人を愛することの儚さや悲しさも感じさせる。ここまで正直に自分を表現することは難しくなかったですか?
ROMY:はい(笑)、とても大変でした。この曲は誰かと恋に落ちた瞬間のことを表現していて、その瞬間をいかに掴むか、一度自分自身の経験は忘れて想像しながら作ることにしたので、とっても難しいチャレンジで。完成して妻に聴かせたら、とても気に入ってくれたから嬉しかったし、安心もして。大事な瞬間を自然に表現できたし、この曲がこれから多くの人に聴かれるのが楽しみです。
―Fred Again..も、1990年代のクラブシーンのディーヴァであるビリー・レイ・マーティンの”Your Loving Arms”を”Billie”というタイトルでカバーをしていますね。あなたと彼、どちらも1990年代のダンスミュージックにフォーカスしている共通の理由はあるのでしょうか?
ROMY:私も”Billie”は大好き! もちろんオリジナルも。
ROMY:フレッドはソングライターであると同時にプロデューサーでもあるから、歌の力と同じくらいダンスミュージックの力を理解しているし、彼の音楽センスからもそれを感じられますよね。フレッドと曲を書き始めた時にいろんな音楽をリファレンスにしたんですけど、その中で一番フレッシュに響いたのが2000年前後のダンスポップや1990年代後半のトランスでした。みんなで歌ってダンスする曲。私たちはそういったエモーショナルなダンスミュージックへの強い愛情を共有しているんですよ。でも、どうしてそういった音楽を愛しているのか、その理由を言葉で説明するのはとても難しくて。

―今年のFred Again..の『グラストンベリー』でのステージをラジオで聴きました。とても盛り上がっていましたね。彼のパーティーはどんな雰囲気ですか?
ROMY:フレッドのステージはとにかくハイエナジーでエモーショナル、でもジェントルな瞬間もあってその対比が最高。彼はとてもやさしい人だから、そういう部分もオーディエンスに伝わっていると思います。
―オーディエンスは若い人が多いんですか?
ROMY:そんなこともなくて、パーティーにもよるけどいろんな年代の人が楽しんでますよ。
―確かに、イギリスのパーティーって世代の幅が広いなという印象があります。10代から60代まで音楽を楽しんでいますよね。今もそうですか?
ROMY:ええ、もちろん! 私がクラブやパーティーを好きな理由の一つでもあります。もちろんフェスティバルもそうだけど、イギリスではいろんなタイプのパーティーがあって、みんな世代や性別にこだわらないで楽しんでいる。クラブが様々な人たち、とくにLGBTQの人々にとって自分自身に戻れる場所であり、仲間たちとの愛の力を確認できる場所になっているんですよ。クラブの力は本当に特別だと思います。
